第29話 水魔法検証・2


 さて、気を取り直して水魔法の検証を続けよう。


 次は「水中抵抗軽減」の魔法だ。


 さっそく発動してみた。すると、俺の全身を魔力の膜のようなものが包んだのを『魔力感知』で知覚した。


 そして――、


(あばぁッ!? うごごごごごッ!? し、死むぅ……ッ!!)


 俺は慌てて魔法を解除する羽目になった。


 あのまま解除できていなければ、死んでいたかもしれない。


 何が起こったかと言えば、答えは単純だ。水中で受ける抵抗が軽減されたのだ。全身に纏わりつくような水の抵抗が軽減され、まるで地上にいるかのように軽やかに動けるようになった。つまり水の抵抗が空気抵抗レベルに軽減されたということ。


 そうなると、どうなるか?


 地上に放り出されたクラゲを想像してみてほしい。


 ぷかぷかと海中に浮かんでいた俺は、まるで地面に落下するように海底へと墜落した。そして砂浜に打ち上がったクラゲがそうなるように、べしゃりと潰れて動けなくなったのである。


 すると当然、傘の開閉もできない。傘の開閉ができないということは、クラゲにとっては心臓が止まることと同義だ。つまり死ぬ。


 ――やべぇ。何だこの魔法。想像以上に使えない。ってか危ないわ!


 俺が人間やサハギンのような人型だったら、この魔法も地上のように動けるようになるという点で、有用な魔法足り得たかもしれない。しかし、俺のようなクラゲや大半の魚類にとっては、物凄く危険な魔法だった。


 ……いやでも待てよ? もしかして、魚型の魔物にこの魔法を掛けたら、簡単に勝てるようになるのでは? たとえばブレイドテイルさんにこれを掛けたら、陸に打ち上がった魚そのものになるのでは?


 そう思い直した俺は、まず試しに、小魚を探して「水中抵抗軽減」を掛けてみた。


(…………)


 掛からなかった。


 何かね、どうも弾かれたというか、そんな感じがするの。小魚にも僅かに魔力があるのが今の俺の『魔力感知』なら分かるんだけど、その僅かな魔力によって魔法が弾かれてるっぽいんだよね。


『魔力操作』でMPを注ぎまくればゴリ押しできそうな気配も感じるんだけど、小魚相手にこれだと、ブレイドテイルさんとか相手だと、どれくらいMPが必要になるのか想像もつかない。


 要するに、俺の想像した使い方はできないってことだな。


 ……ねぇ、どうしてなの? どうして『水魔法』さんは俺の期待を悉く裏切るの? 俺のこと嫌いなの?


 少し悲しくなってしまう。


 だけど俺、諦めないの。


 きっと『水魔法』さんはできる子だって信じてるから。


 俺は何度も繰り返し「水中抵抗軽減」の魔法を発動し、どうにか一部分だけに展開できないか練習してみた。


 その結果、何と触手だけに魔法を展開させることができるようになったのだよ!!


 どうやら、『水魔法』さんはできる子だったらしい。


 んで、触手だけに抵抗軽減を掛けたら、こんなことができるようになった。


 ビュンッ! ビュンッ!


 と、音を立てていそうな程に、勢い良く俺の触手が振るわれる。


 触手を3メートルくらいに伸ばした上で先端を膨らませ、各種スキルで強化して振ってみたのだ。まるで鞭のようにしなる触手の先端は、視認するのが難しい程の速さになっている。


 ちなみに、先端を膨らませたのは勢いをつけるための錘にするためで、『触手術』でそのように変形させることができた。あと、今の俺の大きさだと、触手の長さは3メートルに伸ばすのが限界っぽい。


 ともかく。


(おお! これなら武器……ってか、鞭の代わりになるな!)


「水中抵抗軽減」を使えば、『鞭術』が正しくスキル名通りの働きをしてくれるようになるだろう。体が大きくなれば、これだけでブレイドテイルちゃんなら倒せそうだし、サハギンどもにも結構なダメージを与えられそうだ。


 まあ、それでも決定打とするには心許ないので、サハギンから奪った槍は使うんだけどね。触手鞭がメインウェポンになるには、もう少しスキルレベルを上げないと。


 っていうかこれ、槍にも抵抗軽減を掛ければ攻撃力増えるんじゃね?


 いやー、ともかく、「水中抵抗軽減」が使える魔法で良かった良かった!


 え? まだもう一つ残ってるって?


 じゃあ、最後のやつも検証してみましょうかね。


 最後は「形体付与」って魔法……何だけど、名前からはどういう魔法かイマイチ分からん。そんなわけでさくっと使ってみる。魔法を発動させると何となくどういう魔法か分かるんだよね。


 それによると……ふむふむ、何となく分かったわ。


 どうもこの魔法、水を色んな形にできるらしい。試しに海水を槍の形にしてみた。長さ1メートルくらいの槍だ。


 それはすぐに出来たんだけど、海の中にいると形が見えない。いや、俺は「空間識別」で物の形を認識できるから槍の形の海水がここにあるって分かるんだけど、肉眼に頼っていると見えないだろうな。


 俺は自分でも見やすいように、触手で海水の槍を掴み、海面から出してみた。


(お、おお……!? なんか、見た目は格好いいぞ……!!)


 波打つ海面から、海水で作られた透明な槍がみょーんと生えてくる。太陽の光を受けて輝いているその姿は、どこか神々しくさえある。


 触手を振るって槍を投げてみれば、普通に飛んだな。


 ならばと、今度は「水生成」で出した水に「形体付与」してみた。


 水球は落下の途中で槍の形になり、海の中に落ちてくる。肉眼だと見えないだろうが、俺の「空間識別」には槍がまだ形を保っているのが分かった。


 次に気になるのは、この槍の強度だ。


 水の槍を作るのに5MPを消費した。これは『魔力操作』で強化しない場合の消費である。これでどれくらいの強度になるのか。


 俺は海中に落ちてきた水の槍を触手で掴み、海底の岩に叩きつけてみた。おりゃあッ!


(…………まあ、そうだと思ったぜ)


 結果、壊れた。


 岩にぶつけたところから崩れたかと思うと、槍は形を失い、ただの水となって海中に拡散していったのである。


 どうやら、かなり脆いらしい。


 しかし、諦めるにはまだ早すぎる。まだだ、まだ終わらんよぉッ!!


 俺は現在の『魔力操作』で込められるだけのMPを込めて、水の槍を作ってみた。消費MPは何と驚きの50! ひえー、燃費悪すぎだよぉ……!!


 だが、今回の槍は岩に思いきり叩きつけても壊れなかった。


 そこら辺を泳いでいた小魚を突いてみても壊れなかった。


 俺は狩った小魚を捕食しながら、今度は岩に何度も何度も槍を叩きつけてみる。すると8回目で槍は壊れた。


 中々に頑丈ではあるらしい。黒サハギンから奪った槍の代わりにはならないけど、これくらいの強度があるなら、高速で飛ばしたりすれば、かなり威力が出ると思うんだけどなぁ。


 ――というわけで、高速で飛ばしてみたんだよ。


 流石に槍を高速で撃ち出すことはできなかったので、撃ち出す物は銃弾のような形にした。ただし大きさは結構大きく、成人男性の拳ほどもある。海中で飛ばすために、この弾丸には「水中抵抗軽減」も掛けた。


 んで、撃ち出すためのバレルも「形体付与」で作り出す。2メートルくらいの筒状で、弾丸となる固めた水がピッタリ収まるように穴を作るのが大変だった。バレル内部にはライフリングも刻んでみた。


 ここまでやってから、ようやく準備が終わる。


 最後に、筒の中に入れた弾丸を飛ばすため、バレルの後ろから全力も全力の「水流操作」で水を叩きつける!


 バレルから撃ち出された弾丸は、海底の岩に着弾し、その表面を砕いた。


(うん、微妙)


 それが俺の、偽らざる本音である。


 弾丸の大きさは砲弾レベルなんだけど、威力は大砲に遠く及ばない。本物の大砲なら、表面だけじゃなく全部粉々にしたはずだ。


 どうやら「水流操作」で弾丸を飛ばすための圧力を生み出すのは、かなり無理があるっぽい。


 何しろ一回撃ち出すだけで、これMP300以上消費してるからね。いやどんな大魔法だよおい!


 内訳としては弾丸を作るのに50。抵抗軽減に5。バレルを作るのに200。ちなみに「形体付与」は体積によって込められる最大MPが変化するようだ。ともかく、続いて弾丸を撃ち出す「水流操作」で50。さらにバレルを目標に向かって保持するためにも「水流操作」を使っていたので10。全部で315MPの消費である。


 マジ、使えねー。


 いや、何とかならないかと思って別の方法も試してみたんだよ?


 バレルの後ろに瘤みたいな膨らみを付けて、内部を密閉空間にする。そしてそこに「水生成」で大量の水を一気に生み出す。その圧力で弾丸を飛ばせないかと思ったんだけど、バレルが破裂した。どうやら強度不足らしい。


『水魔法』のレベルが上がれば強度を上げられるかもしれないけど、この方法だと最初のやつよりMPの消費が多いんだよね。


 つまり、強度問題が解決しても使えない。


 ファンタジーのウォーター・ボールとかいう魔法、マジ高度すぎだろ。


 今のところ、使えそうな水魔法は「水中抵抗軽減」だけだな。



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