第28話 水魔法検証・1
種族。パラメータ。スキル。
進化して変化したことは、色々とある。しかし、それらは全て以前の延長線上にあるものだ。戸惑うほどの変化はないに違いない。
だが、新たに獲得した『水魔法』については、色々と試してみる必要があるだろう。
――というわけで、さっそく試してみる。
まずは「水生成」から。
(ぬん……ッ!)
俺は気合いを込めて「水生成」を発動した。MPが5ポイント減少し、指定した場所に水が生成された……はずだ。
(海中で水を出しても何が何だか分かんねぇよ)
まあ、予想はしていた。海中で水を生み出したところで意味がないということくらいね。ほ、本当だよ?
なので、次は分かりやすく空中で水を生成してみる。
「空間識別」の範囲は海面を越えて海面上空にも及んでいる。どうやら「空間識別」の範囲内であれば、自由な場所に水を作り出せるらしい。
俺は海面から3メートルほどの地点に、「水生成」を発動させた。
すると、5リットルくらいはありそうな水の球体が出現し、数瞬後、重力に引かれて海に落下した。
(ふむふむ)
もう何回か試してみたところで、俺は「水生成」にできることをおおよそ把握する。
「水生成」は最小1MPから発動することができ、通常であれば最大5MPまで使用魔力を増やすことができる。しかし、『魔力操作』があればかなり自由に注ぎ込むMPを変化させることができるようだ。たぶん、保有MPの全てを注ぎ込むこともできるだろう。やらんけど。
そして1MPにつき、だいたい1リットル程度の水を生成する。
生成された水は空中に出現した場合、1秒に満たない極僅かな間だけ、その場に留まっているが、すぐに重力に引かれて落下する。
生成された水がずっと残るのか、あるいは飲用可能なのかは、今のところ不明。ここではすぐに海水と混ざってしまうから、消えたのかどうか判別することができない。まあ、仮に残らなくても、体や服や食器などを洗うのにも、暑い時に水を浴びて体温を下げるのにも使えるだろう。
本来の役割としては、色々な水魔法で用いる水を確保するための魔法なのだろう。おそらく、水が確保できない場所では、この水を操って色々するんだと思う。
まあ、戦闘に使うだけじゃなく、日常使いとしてもかなり有用な魔法だ。もしも飲用可能な水を生成できるとしたら、その有用さは天井知らずに跳ね上がるだろうね。
ただし、それは地上で暮らす生物にとって――という但し書きがつく。
海で暮らすしかない俺にとっては、はっきり言って無用な魔法だった。使うことあるんだろうか?
そんなわけで、次の検証。
一番期待している「水流操作」だ。
まずは海水を操ってみた。
(――おほほほ! おほほほほほ!)
水流に流されて俺の体が激しく移動する。
……うむ、操れるようだ。ほぼほぼイメージした通りに、水流を操ることができる。ただし、操っている間は常にMPを消費するようだ。おまけに操る水量を増やしても、消費するMPは上昇する。水流の速さが速くなるほど、さらにMPの消費は激しくなる。
何をどれくらいしたらどの程度MPを消費すると、はっきり見極めることはできないのだが、かなりMPの消費は激しいと言って良いだろう。
今のところ、海で自分の体に水流を当てて移動することくらいした、ちょっと楽しいけど活用方法がないぞ。
(いやいや、待て待て! 一番重要なのが残っているじゃないか!)
俺は気を取り直して新たな検証を試みる。
何と言っても「水流操作」くんに期待したいのは、攻撃手段の確保なのだ。おそらくこれを使って、ゲームのような攻撃魔法を再現できるはず……!
というわけで、俺は空中に水球を生成し、それを操ってみようとした。
そう、「ウォーター・ボール」とか「アクア・ボール」とか、そういうよくある名前の魔法を再現しようと思ったんだよ。
しかし――、
(え……? 何これ? 何もできずに海に落ちたんですけど?)
出現した水球は、ぐんにゃりと形を崩すと、すぐに海に落下してしまった。
……俺はどういうことか、必死に考えてみた。
「水流操作」自体は発動していたのだ。そのため、綺麗な球体だった水球は、ぐんにゃりと形を変えた。しかし、俺が想像したように架空の敵へ向かって飛翔することはなかった。
(水流……水流は作り出せていたってことだよな……でも、じゃあ、何で…………ハッ!? も、もしかして……?)
そして気づく。気づいてしまった。恐ろしい真実に。
普通に考えたら、水流を操作したところで水の球が空中を飛翔などしないことに。
水流とは文字通り水の流れのことであって、水球がどこかへ向かって飛翔していく現象を水流とは言わないのでは、と。
つまり、ウォーター・ボールやウォーター・アローみたいな魔法を再現するには、水自体をサイコキネシスみたいなもので操作し、敵に向かって撃ち出す力が必要になるのではないか、と。
水を操るのと、水の球を的に撃ち出すのは全く違う力なのだ。
(び、微妙……)
なんか、思ったのと違う。
しかし、この世界の魔法は複数の魔法を組み合わせて使うのだと、『空間魔法』さんで知っていたではないか。まだ諦めには早すぎる。
検証を続けよう。
次は、「水中呼吸」だ。文字通り水中でも呼吸できるようになるという魔法である。
――はい要らない!
俺、クラゲ、海の中生きる獣! 俺、それ、意味のない魔法!
思わずライムっちまったぜ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます