第23話 サハギンの物は俺の物


 転生二十六日目。


 第二の楽園が島の周囲に広がる海域だと判明してから、三日が経過した。


 この間、俺は浅く穏やかな海でゆったりと過ごしながら、MPを消費して島の内部へと「座標」を設置していった。


 もう説明するまでもないだろうが、「空間識別」の外縁に「座標」を設置して、そこを起点に新たな「空間識別」を設置して……と、何度も繰り返していったのだ。


 知りたいのは島に人間が住んでいるかどうかではあるが、島の周囲を一周してみた結果としては、人が住んでいる痕跡は発見できなかった。だがしかし、もしかしたら万が一、島の内部に村か何かがないとも限らない。


 そんなわけで島を横断するよう一直線に「座標」を設置してみたわけだ。


 それによると島の直径は、場所にもよるが大体3キロメートルだと判明した。これって結構デカイ島ではあるまいか? 少なくとも、何とか人が住めるくらいの広さはある。


 島を縦断するために設置した「座標」だけでも、100個以上が必要だった。何しろ「座標」を設置していくには「空間識別」の領域の、半径分しか伸ばせないからな。つまり単純計算で3000メートル割る30メートルで「座標」100個となるわけだ。


 設置した「座標」だけでも、消費したMPは1000を超えている。最近では『MP回復速度上昇』のスキルレベルも上がっているから、その気になれば1日で設置できる数ではあるが、まさかそれだけにMPを費やすわけにもいかない。


 結局、「座標」を設置して島の内部を調べるには、二日かけることになった。


 で。


 その結果なんだが、やはり島に人は住んでいないようだ。島の全域を「空間識別」で確認したわけではないが、人が住んでいる痕跡すら発見できなかった。なので、ほぼ確実と言っても良いだろう。


 島の内部には森が広がっているばかりで、小動物はいても大型の動物すらいなかったしな。


 ちなみに島の中央部は小さな山になっていた。ほぼ円形の島だったから予想はしていたが、プレートの移動で生じた島ではなく、火山の噴火によって出来た島なのだろう。


 これらのことを調査するのに、二十四日目と二十五日目の丸々二日間を要したのだ。


 もちろん、調査だけにかまけていたわけではない。


 積極的にレベル上げをしていたわけではないが、優雅にエビやタコやウツボなどを食しつつ、スキルの鍛練はきちんと行っていた。


 特に銛という武器(いや正確には漁具と呼ぶべきか?)を手に入れたのだから、『銛術』や『槍術』みたいなスキルが手に入らないものかと、銛の素振りをしてみたりもした。


 まあ、残念ながらそういったスキルは生えなかったのだが。


 それでも、まったく何の成長もなかったというわけではない。微々たるものだが、スキルもちょっとは成長した。


 現在の俺のステータスが、これだ。



【名前】なし

【種族】マナ・シームーン

【レベル】18

【HP】139/139

【MP】583/583

【身体強度】17

【精神強度】389

【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.Max』『鞭術Lv.2』『刺胞撃Lv.7』『蛍光Lv.7』『空間魔法Lv.3』『鑑定Lv.3』『魔力感知Lv.6』『魔力操作Lv.7』『MP回復速度上昇Lv.8』『魔闘術Lv.5』『生魔変換・生』『隠密Lv.2』

【称号】『世界を越えし者』『器に見合わぬ魂』『賢者』『天敵打倒』

【加護】なし



 触手を鞭代わりに使ってはいないのだが、スキルとしての『鞭術』は強化の上乗せで常用しているからスキルレベルが上がったようだ。他にもまあ、細々としたところが上がっている。


 特にツッコミたいのは『蛍光』だ。


 こいつは全然使っていないのに、なぜスキルレベルがどんどん上がっていくんだ? 本当に謎だ。今までも気づかないふりをしてきたが、そろそろ無視できなくなってきたぞ。


 いや、スキルレベルが上がって困るということは別にないのだが。代わりに良いこともないけどね。


 ともかく。


 島の内部の調査を終えて、その翌日。つまりは今日。


 俺は海底洞窟の奥にあった、サハギンどもの巣を調査してみることにした。


 まあ、調査自体は、すでに設置している「座標」から「空間識別」を展開して「座標」を増やしていけば良いだけだから、特に移動する必要もないのだが、俺はとある理由からホームグラウンドを海底洞窟の近くへ、一時的に移すこと決めた。


 そのとある理由とは――――武器だ。


 サハギンから強奪したこの銛は、大変に素晴らしい物である。それは分かっている。だが、不満がないわけではない。


 まず一つ、三叉になっているので深く刺すことができないこと。


 これではサメなどの巨大な生物に襲われ、戦うしか道がなくなった時、大したダメージを与えることができない。欲を言えば切れ味抜群の槍のような物が欲しいが、最悪、先端が分かれていない銛でも良い。


 そして不満の二つ目、先端部分に「かえし」が付いていることだ。


 不幸中の幸いとでも言うべきか、この銛は「かえし」がしっかりしていないために、獲物に突き刺しても相手の重量が大きければ力ずくで引き抜くことができる。しかし、何度も攻撃するには如何にも不便だ。


 なので「かえし」の付いていない長柄の武器が欲しい。つまり槍だ。圧倒的槍だ。槍しかない。


 だが、槍を欲しいと言っても、どこにあるのか?


 いやいや、これがあるんですよお客さん。


 以前、サハギンの巣を発見した時、俺は大勢いる奴らの中に、槍を持っているサハギンを発見していたのである。


 つまり、槍はある。サハギンが持ってる。となれば――あとは、分かるな?


 強奪だ。


 俺の物は俺の物。サハギンの物も俺の物である。


 そんなわけで島の反対側にある海底洞窟の近くへと移動した。


 調査した時はそこまでの移動に1日半は要していたが、それは折々に「座標」を設置していたからでもある。移動だけでなく、調査と「座標」設置と狩りと修行を行っていたため、移動速度が遅くなっていたのだ。


 今の俺が触手式高速移動術で移動に専念すれば、およそ半日程度で島の反対側まで移動することができた。


 そして――、


(え、ちょッ! せめて心の準備くらいさせて欲しかったんですけど!?)


「――――!?」

「――――!!」

「~~~~!」


 海底洞窟の近くまで移動した後、俺はそうそうにサハギンどもと遭遇してしまった。


 おそらく狩りか何かで外へ出ていたのだと思うが……それにしても、一度に3体とエンカウントしてしまうとは。


 3体のサハギン。


 正直、俺は焦っていた。


 MPはだいぶ消耗してしまうが、障壁を展開して時間を稼ぎ、一体ずつ倒していけば倒せないことはない――と思う。


 しかし、それは前回倒したような平均的な戦闘力を持ったサハギンの場合だ。


 俺は戦闘が始まるより先に、素早く奴らに『鑑定』をかけた。



【名前】なし

【種族】シーサハギン

【レベル】3


【名前】なし

【種族】シーサハギン

【レベル】4



 これが鑑定結果だ。


 3体の内、2体は平均的なサハギンだ。むしろレベルから言えば、少し弱いくらいかもしれない。しかし、この2体を率いるように真ん中にいる最後の一体が問題だった。


 他のサハギンよりも体格が良く、身長は140センチくらいある。しかも筋骨隆々といった感じで、筋肉が発達しているのが一目で分かるマッスルボディだ。牙も大きく鋭いし、サハギンのくせにどこか怒りに満ちたような凶悪な顔をしている。


 そして体色が緑ではなく、黒色だった。


 どう見ても上位種です、本当にありがとうございました!!


 これだけでも最大限に警戒するに値するが、こいつ、俺が欲しかった槍を持っていやがる。刺突専用の槍というよりは、大きな刃の付いた、斬撃もできる槍だ。


 確かに槍は欲しいと言ったけど、槍を持っている奴が手下を引き連れて来るなんて卑怯だろ!!


 だが、俺の嘆きは止まるところを知らない。


 一番の問題は、こいつに『鑑定』が効かないことだ。


 さっき2体分のステータスしか表示しなかったのは、間違いでも何でもない。あのシードラゴンですら名前と種族は鑑定できた『鑑定』さんが、なぜかこいつ相手には効かないのだ。


 たぶん、鑑定が妨害されているとか、スキルレベルが足りなくて見えないとかでもない。


 そもそもスキルが発動している感覚さえなかった。


『鑑定』の対象に指定できないのだ。


 どういうことだってばよ……!?



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