第21話 進化か派生か


 強奪した銛でサハギンを突き殺すと、レベルが一気に二つも上昇してしまった。現在レベルは17だ。


 おそらく、溜まっていた経験値がレベルアップ直前だったということもあるだろうが、それにしたってサハギンの経験値は多い。


 この周辺にいるのがサハギン一体ということもないだろうし、これはレベル上げが捗りそうだ。前々からの弱点である攻撃力不足も解消できたし、良いことづくめである。


 んで、流石にサハギンはデカすぎて喰うことはできないので、その場に放置して移動する。いずれ小魚か、血の臭いを嗅ぎ取ったサメたちが綺麗に食してくれるだろう。


 っていうか、サメが来る可能性があるので、その場を離れた次第だ。


 そして、俺は安全を確保してから今も触手で握っている骨製の銛を『鑑定』してみる。



『シーサハギンの牙骨銛』――シーサハギンの牙と骨から造った銛。特別な効果はない。



 うーむ……。


 これシーサハギンの骨なのかよ……。仲間の骨で武器を造るたぁ、野蛮な奴らだぜ。問題は殺して素材にしたのか、死んでしまった仲間を素材にしたのかだが……後者であると信じたいところだ。いや、何となく。


 まあ、それはどうでも良いんだけど、この銛……シーサハギンの何処の骨を使ったら作れるんだ?


 銛の長さは1メートルは超えている。そして柄の部分はかなり真っ直ぐなんだよな。サメどころか、クジラなどの巨大生物の骨からじゃないと、この銛は造れないと思う。


 というのも、銛の柄は1メートル近い。普通、真っ直ぐかつここまで長い骨はほとんどない。人間のように二足歩行だったり腕を使ったりする生物であれば、腕や足の骨――上腕骨、大腿骨、脛骨あたりなんかは、そこそこ真っ直ぐではあるのだが、1メートルも長さがあるわけがない。


 だから、クジラなどの巨大生物の骨から削り出したのかと思ったのだが……違うらしい。どう考えてもサハギンの体にこんな骨はないはずなんだが。


 あと、先端の三叉になっている部分も、地味におかしい。削ってこんな形にしたというよりは、最初からこんな形の骨を利用した、という感じに見える。銛先は他と質感が違うので、おそらく牙を利用しているようだが、完全に骨の部分と融合しているようにも見えるし、形もどうやって加工したの? という感じだ。明らかにサハギンの牙よりも大きいんですけど。


 これって地球の技術をもってしても造れないんじゃ?


 本当にサハギンどもがこれを造ったのだとすると、その技術力は侮れない。サハギンのくせに生意気だ。


 まあ、不思議ではあるが、考えたところで意味はないか。


 たぶん魔法で造ってるんだよ。不思議なことはだいたい魔法のせいにしておけば良いのだ。


(っていうか、ずっと持っているとなると結構重いな)


 銛を持っていると、その重さで徐々に沈んでいってしまう。


 傘の部分に『魔闘術』を発動すれば開閉で浮上することもできるから、大きな問題ではないのだが。地味にMPを消費するのが痛い。


 それでも銛を捨てるという選択肢はないけどね。


 武器の攻撃力には、消費するMP以上の価値がある。


(さて……銛についてはこれで良いとして、お次は……)


 続いて、俺は自らのステータスを確認する。


 レベルアップで上昇したパラメータは良いとして、特に確認すべきはスキルの変化だ。



【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.Max』『鞭術Lv.1』『刺胞撃Lv.6』『蛍光Lv.6』『空間魔法Lv.3』『鑑定Lv.3』『魔力感知Lv.6』『魔力操作Lv.7』『MP回復速度上昇Lv.7』『魔闘術Lv.4』『生魔変換・生』『隠密Lv.2』


『鞭術』――鞭を巧みに操るための技術。MPを用いて威力の強化・鞭の操作などもできる。



 ……お分かりだろうか?


 触手で銛を操るという今までにない経験を積んだ結果か、遂に『触手術』がレベル10に達し、同時にMaxとの表記が付いた。そして新たに『鞭術』というスキルを獲得している。


 今まで新しいスキルを獲得した時には、必ず獲得した順番にスキル名が並んでいた。しかし、『鞭術』はどういうわけか、その法則を無視して『触手術』の後ろに名称の記載がある。


 スキル獲得のタイミングから推測するに、おそらく『鞭術』は『触手術』がレベルカンストしたことで生えたスキルなのだろう。


 正当なスキル進化……というよりは、新たな派生先が解放された、といった方がしっくりくるな。


 んで、たぶんというかほぼ確実に、俺の触手が鞭扱いになっているのだろう。


 ……試しに触手を鞭のように振ってみる。


(ふむ、これは……!? つ、使えん!!)


 海中だから水の抵抗が大きくて、威力のある攻撃を繰り出すのは無理そうだ。鞭の達人のように先端が音速を超えるのも不可能だろう。要するに、これで海亀やサハギンを倒すほどの威力は出ないだろうってこと。


(いや、待てよ……? もしかして……)


 だが、ふと思いついた俺は、今度はスキルによって触手を強化してみた。その上で振ってみると、今までよりも明らかに威力やスピードが向上していた。


 どうも『触手術』と『鞭術』は別々のスキル扱いだからか、それぞれで強化のために魔力を流せるらしい。つまり、強化のために触手に込めるMPの上限が上昇し、その分だけ力が増したようだ。


 まあ、それでも殺傷力の高い攻撃にはならないんだけどね。


 やっぱ銛で突き殺すのが正解だわ。



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