第19話 こいつが人類か否か、それが問題だ
転生二十一日目。
昨日は「空間障壁」の性能を確認するので、ほぼ一日を費やしてしまった。
なので、今日からは後回しにしていた周辺の探索を進めようかと思う。
第一の楽園たる小島を見つけた時と同じように、海岸沿いをぐるりと回ってみるのだ。途中途中で「座標」を設置していけば、大まかな海岸線の形も判明するだろう。
んで、実際に回ってみた。
さすがに一日で全てを回ることはできず、夜が来て日が変わる。これでも以前、小島の周囲を探索した時よりは、遥かに速く移動できているんだが。
それというのも、海底に珊瑚や掴めそうな岩場があれば、順々に触手を巻きつけていくことで、かなり速く移動できるのだ。
以前はMPの消費を気にして「ここぞ」という時にしか使っていなかった移動法だが、今の俺は500以上のMPがあるからね。加えて『MP回復速度上昇』のスキルレベルもだいぶ上がっているので、これくらいの消費ならば気にすることもない。
なので、すでに以前の小島を一周したくらいの距離は移動しているのだが……まだ、ここが島なのか大陸なのかは判明していない。
もしも大陸だったら、さすがに一周することはできないので、途中で諦めることになるだろう。
ちなみに今日狩ったのはウツボ氏にカラフルな小魚たちに、小さなエビだ。テナガエビっぽい奴がいたので、補食してみた。ちゃんと殻を消化できるか心配だったが、幸いにして消化不良になることはなかった。
この調子ならば、小さめのカニも消化することができるだろう。この際なので色々食べてみようかと思う。
それから、レベルアップはしなかった。小動物たちでは、やはり経験値が不足しているらしい。だがまあ、それは最初から分かっていたことだ。ここは気長にレベルアップを待とう。
転生二十二日目。
海流に浚われないよう、珊瑚に触手を巻きつけながら睡眠をとり、そして目覚めた俺は、今日も今日とて探索を続ける。
昼くらいまで探索を続けた結果、徐々にここが何なのか分かってきた。
どうも海岸線は歪な弧を描いているようで、以前の小島よりは遥かに大きいが、大陸ではなく島の可能性が濃厚だ。すでに調べた海岸線は半円を描いているし。
もしも島なら、今日を含めてあと一日でぐるりと一周し、探索開始地点まで戻れるだろう。
俺が最初に辿り着いた場所の近くには砂浜があったのだが、ほぼ反対側となるこちらでは岩が多く、陸地との境には岩壁が続いていた。
海流も少し激しく、棲息している魚たちの種類も変化している。フグやハリセンボンっぽい魚や、ブレイドテイルちゃんたちの姿が多く見られるようになっている。
フグは相変わらず毒が恐いので無視することにして、ブレイドテイルちゃんたちを積極的に狩っていく方針だ。レベル上げをするには、こちら側まで足を運んだ方が良さそうだな。
(ん? ――んん!?)
そんなことを思いながら海中を泳いでいると、「空間識別」の中に出会ったことのない存在が入って来た。
驚いたのは、そいつが「人型」だったからだ。
身長は1メートル20センチくらいだろうか? かなり猫背というか、背中が丸まっている。体色は深い緑色で、全身に鱗が生えていた。手足には水掻きがあり、頭頂部から背中にかけて背鰭のようなものがある。顔つきは完全に魚類で、口には鋭い牙が生え揃っていた。
人型だが、魚に近い姿だ。
魚人……では、ないだろう。たぶん。
というのも、俺は外洋を彷徨っていた時に見つけた帆船の中で、この世界の魚人の姿を確認している。それはかなり人に近い姿だった。対して、目の前の存在は人型の魚類とでも言うべき姿だ。
しかし。
こいつがこの世界の「人類」ではないと断言はできない。なぜならば、奴はその右手に銛のような物を握っているからだ。
観察してみたところ、何かの骨を削って作られたような、三叉の銛だ。明らかに加工された物であり、それを握りながら海中を泳いでいる姿は、素潜り漁師もかくやという風格。つまり道具を作り、道具を使う知性ある存在というわけだ。
なんてこった。
だとしたらやはり、「人類」と呼べる存在なのではあるまいか? しかも海中特化の人類だ。そんな彼になら、クラゲの身であろうとも、友好的な関係を築けるのではあるまいか?
そう考える間にも、彼はどんどんとこちらに近づいてくる。
確実に俺の存在を認識した上で、接近してきているようだ。
俺は意を決して、ボディランゲージでの交流を試みることにした。触手をふりふりして、彼にご挨拶する。
は、ハロー? ナイストゥーミーチュー。
瞬間、容赦なく突き出される銛の先端。
(ふぁッ!? く、空間障壁ッ!!)
間一髪で障壁の展開が間に合った。銛の先端は障壁によって弾き返したが、ブレイドテイルちゃんの斬撃よりも威力は高そうだ。二撃目は耐えられないかもしれない。
僅かに焦る俺だったが、焦った――というか、驚いたのは向こうも同じらしい。いや、魚顔なので感情の変化は分からないのだが、見えない壁に銛が弾き返されて、警戒したように僅かに後ろへ下がったのだ。
その隙に、俺はこいつを『鑑定』してみた。
【名前】なし
【種族】シーサハギン
【レベル】6
『シーサハギン』――海に適応したサハギン族の一種。簡単な道具を作り、道具を扱う程度の知能はあるが、本能に忠実で狂暴性が高い。エラと肺の両方があるため、地上でも活動することができる。人型をしてはいるが、体内に魔石があり、人ではなく魔物である。魚人をサハギン、またはサハギンを魚人と呼ぶのは、魚人にとって最大の侮辱となるため注意が必要。
あ、はい。
こいつ「人類」ではなかったわ。
っていうか、魔物だったわ。
地味に「魔物」なる存在――というか、魔物だと確信できる相手と出会ったのは初めてだ。いや、水竜とかシャーク様とかアーマー・シーピラニアとか、これってファンタジーでよくいる魔物なんじゃね? と思う生き物には色々出会ってきているけど、その確証がなかったのである。なんせ、その時には種族の二重鑑定とかできなかったからね。
っていうかこいつ、名前もないし、外洋で遭遇した水竜よりも知能は低そうだな。
挨拶もなしにいきなり攻撃してくるとか、野蛮にも程があるでしょ! 所詮は蛮族……いや、魔物か。
魔物なんぞと意思疎通を図ろうとした俺が間違っていたのかもしれん。
――え? 何で『鑑定』でレベルとか分かるのかって? 今は説明している暇がないけど、簡単に言えばスキルレベルが上がったからだ!
レベルが見えるようになっただけでなく、以前はできなかった【種族】の二重鑑定ができるようになったのだよ!
そんなことはともかく、今は目の前のこいつだ。
『鑑定』さんも「魔物」だと断言しているし、どうやら俺にとっても敵対的な種族のようだな。こちらを警戒しつつも、諦める様子がない。
もしかしてこいつ、俺のことを喰うつもりなんじゃ? っていうか、真っ直ぐ俺のところに来たし、当然のように狩ろうとしたし、こちらを食料と思っている可能性は高い。俺ってば珍味らしいしな。
となれば――――戦うしかないようだ。
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