第18話 ここは第二の楽園


 転生二十日目。


 昨日、宿敵たる海亀野郎を倒した後、俺はどんどんと水深が浅くなる方へ向かって進んだ。


 すると島らしき陸地を発見するに至ったのだ。いやまだ島だとは確認していないんだけどね。もしかしたら大陸かもしれないし。


 しかし、陸が近いこの場所は、俺が最初にいた海域のように珊瑚が繁殖する小魚たちの楽園だった。


 現在、消耗した体力その他を回復するため一夜を明かし、朝。


 海面から降り注ぐ柔らかな陽光は海底まで明るく照らし、珊瑚たちが大いに繁殖している。そんな珊瑚たちを棲み処にした小魚にタコにエビにカニに貝にと、ここは小動物たちの楽園だった。


 水深は深いところでも10メートル前後といったところで、やはり最初にいた海域を彷彿とさせる。


 流れも穏やかで、非常に棲み良い場所だ。ここを第二の楽園と名付けることにしよう。


 んで。


 そんな楽園を隅々まで眺めながら、俺はその美しさに感嘆していた。珊瑚や小魚たちはカラフルだし、海中に降り注ぐ陽射しは柔らかで美しい。見慣れた形の生物たちも、その体色が想像とは違っていたりもして、見ていてなかなか飽きるということがない。


 そう。


 実は俺、色を識別できるようになったのだよ!!


 その理由というのが『空間魔法』のスキルレベルが3に上がったことだ。


 以前2レベルに上がった時も、既存魔法である「空間識別」の領域が広がっていたのは覚えているだろうか? 1レベルで半径20メートルの球状、2レベルで25メートルの球状だった。


 そして3レベルになった時、何の強化もしていない素のままの魔法で、半径30メートルの領域にまで拡張されたのだ。


 しかし、話はここで終わらない。


「空間識別」さんは更に有能な存在へと進化した。それが領域内の色の識別。モノクロだった世界が色付いたという、ラブソングの歌詞にでもなりそうな現象が実際に起こったのである!!


 色のある世界って素晴らしい!


 俺ってば、実はモノクロの視界にはストレスを感じていたのかもしれない。やっぱり元人間としては、カラフルな視界じゃないと精神的に辛いものがあるのだ。


 流石は「空間識別」さんだぜ。大しゅき!


 そしてそして!


 スキルレベルが3になったということは?


「空間識別」さんが強化されるだけではない。むしろこちらが余禄であり、本命は別にある。


 俺は新しい、三番目の空間魔法を覚えたのだ。


 それがこれ。


 ――「空間障壁」


 …………。


 マジで? と思ったね。


 もちろん、使えねーとか、攻撃魔法じゃねぇのかよとか、そういった感想ではない。その逆だ。


 まさかスキルレベル3で、もうこんなに使える魔法を覚えるとか、ちょっと想像していませんでした。障壁ってことはつまり、バリアってことだぜ?


 こっちを喜ばせておいて、実は超絶弱いんだろ? すぐに壊れるんだろ? 知ってる。


 裏切られた時のショックを緩和するため、自らにそう言い聞かせながら「空間障壁」を検証してみた俺は、しかし、その性能に再度驚かされることになる。


 まず発動してみた。


 10MPを消費して任意の座標に1平方メートルの障壁を出現させる。これが「空間障壁」さんの基本的な性能だが、たとえば中途半端に15MPを込めることで障壁の大きさを大きくしたりもできるようだな。『魔力操作』によって魔力を込めると強度が上がるのではなく、どんどん大きくなっていくようだ。


 んで、「空間障壁」は透明であるため、視覚に頼っているとその存在に気づけない。珊瑚の周囲を泳いでいる小魚たちの前方に、こっそり障壁を出すと面白いように衝突していた。


 しかし、術者である俺にはどこに出現しているか分かる――っていうか、これは「空間識別」さんによって、存在を識別できるようだ。


「空間識別」を使えない存在でも、たぶん『魔力感知』などで魔力を知覚できれば、そこに障壁があることは分かるだろうな。


 それで「空間障壁」を展開できる場所についてだが。


「空間識別」によって認識している場所であれば、どこにでも展開することが可能なようだった。


 試しに前居た小島周辺に設置してある「座標」に「空間識別」を展開し、その中で障壁を発生させてみた。すると10MPが消費され、問題なく障壁が出現したようだ。


 たぶん数百キロは離れているはずだが、距離によって消費MPが変化することはなかった。これって地味に凄くね?


 まあ、とは言っても今のところ、俺のいない場所に障壁を展開する意味はないけどね。使う時はだいたい、俺の前方に盾みたいに出現させることになるだろう。


 さて。


 問題は障壁の強度がどのくらいあるのか、ということだ。簡単に壊れるようでは使い物にならない。


 俺は様々な相手に、「空間障壁」の強度を試してみた。


 色んな相手に試してみたが、全てを語っていては冗長になるので結論だけ述べよう。「空間障壁」はブレイドテイルちゃんの攻撃すら、三回も弾いた。あのウツボ氏を一刀両断にした攻撃を、である。


 ただしこれは、障壁が一枚の時の話だ。


「空間障壁」は魔力を込めても強度を上げることはできなかったが、何枚も重ねて展開できることが分かったのだ。障壁に厚さなんてほとんどないからね。


 ただ、多重展開した障壁の強度を試すには、外洋へ出てブレイドテイルちゃんよりも強い相手を探さなければならない。


 せっかく、比較的安全な海域に到達したというのに、また危険な場所に赴くのは気が乗らない。っていうか嫌だ。しばらくはこの島か大陸か不明な陸の周辺で、スキルレベル上げに集中したい。


 それか、もう一度進化できれば一考の余地はあるが。


 ちょっと話は変わるが、今回はレベル10では進化できなかったみたいだ。次の進化があるとして、何レベルで進化できるのかは分からない。そもそも進化できないのかもしれない。しかし、レベルにMax表記が付いていないので、カンストにはなっていないのだろう。


 もしもレベルカンストしても進化できなかったとしたら、その時は『ポリプ化』を使おうかと思っている。


 閑話休題。


 ともかく、「空間障壁」さんは有能だということだ。


 少なくとも、浅い海域に出現するような相手ならば、敵なしではあるまいか?



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