第12話 クラゲは島を発見した


 転生十二日目。


 やあ、皆さん、こんにちわ。クラゲです。名前はまだありません。


 新しい種族へと進化した日からはや五日が経過していた。


 この間、俺はいつものように狩りをしてはスキルの鍛練を行い、MPが枯渇したら瞑想して回復する――ということを繰り返していた。


 まあ、いつも通りの日常ということだ。


 幸いにして海亀の襲来はなく、サメやイルカなどの強そうな生物を見かけることはあったが、勝ち目のない相手に挑むような蛮勇は、俺にはない。なので危険を感じれば巨大珊瑚の下や、海底の岩場の陰などに触手を使って隠れていた。


 そうして積極的に危険を回避していれば、今の俺にとって、この浅い海域は命を脅かされることはそうそうない――という事実を、俺は認識していたのである。


 どうも、海亀のような積極的にクラゲを捕食する生物でもなければ、向こうから俺を襲おうとする生物は、ここら辺にはそんなに多くないようだ。


 弱肉強食の大自然であることに変わりはないが、四六時中ビクビクする必要はないらしい。


 そう判断してからは、俺は周辺を探索してみようと思う程度に、心に余裕ができた。俺もこの異世界とクラゲ生に、そこそこ馴染んできたのかね?


 そういえば、この異世界で俺が知っている場所など、巨大珊瑚があるこの辺の一部でしかないのだ。


 それに色んな場所に「座標指定」の魔法を設置しておきたい、という思惑もある。


「座標指定」をたくさん設置しておけば、必要な時にはそれだけ広範囲に「空間識別」を展開できる、ということでもあるからだ。


 そんなわけで俺は周辺の探索に乗り出した。


 今なら道に迷って外洋に流されてしまう心配もないしね。いや、道はないけど。


 ともかく。


 俺は日々の日課の合間に、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしながら、所々で「座標指定」の魔法を設置していった。


 同時に、強化した「空間識別」で周辺の地形を探ってみることも忘れない。


 その結果、どうやら俺がいるのは小さな島を中心とした遠浅の海域であることが判明した。


 いやね、海がどんどん浅くなる方へ向かったら、陸があったのだよ。そこを中心としてぐるーりと周囲を一周してみたところ、途中途中で設置した「座標」が円を描いた。


 んで、その円の大きさからすると、かなり小さい島のようだったのだ。


 大きさから言って飲用可能な水場が存在するとは思えないため、十中八九で無人島だろうな。この世界に「人」が存在するかは分からんし、海水でも問題なく飲める身体構造をしていないとは断言できないし、はたまた魔法で飲み水を作れないとも限らないのだが。


 とりあえず、人工物らしきものは何も見つからなかった、とだけ言っておく。


 ちなみにこの時点で判明したのだが、やはり設置した「座標(以後、「座標指定」した設定座標のことを「座標」と呼ぶ)」は、五日が経過しても消えなかった。


 もしかしたら、術者が消そうと思わない限り、消えないのかもしれない。


 というのも、設置した「座標」は術者が意図すれば消去することも可能なのだ。


 まあ、普段は意識しなければ認識できないとはいえ、「座標」が膨大な数になれば、混乱してしまうだろうから、消去できるのは納得である。


 話は少し逸れてしまったのだが、この小島をぐるりと一周する間も、俺はいつもの通りに狩りに鍛練にと勤勉に打ち込んでいた。


 幸いと言うべきかは分からないが、小島周辺の海域に生息する生物は、俺が最初にいた場所とほとんど変わりはないようだった。


 ゆえに、俺が狩ったのはヒトデに小魚にウツボなどがほとんどだ。一匹だけブレイドテイル氏を見かけたのでこれも狩らせていただいた。他にもフグっぽい生物も見かけたのだが、テトロドトキシンのような猛毒を持っていたら嫌なので、こちらは見なかったことにした。カニや海老や貝などの殻がある生物も消化に悪そうなので却下だ。小さいカニとかエビであればいけそうだが、経験値的には美味しくなさそうだし。


 ちなみにウツボ氏は問題なく狩ることができたぞ。


 というのも、普通に『刺胞撃』が有効な上に、今の俺ならば強化した触手で拘束することが可能だったのだ。


 進化してから【身体強度】が8に上がっていたのが、地味に影響しているようだ。触手の力強さが以前とは違う。今ならばアルミ缶を潰したり曲げたりを繰り返して金属疲労させることで、バラバラにできそうなほどである。つまり、一般的小学生程度の腕力(触手力?)ならば発揮できそうだ。


 他にも、地味に消化吸収能力が向上しているようなのが嬉しい。進化前の俺だと、ウツボ氏くらいの大きさの獲物は喰えなかったのだが、今の俺なら「こいつでも消化できる!」と本能で分かった。大食いファイターが目の前に出されたメガ盛り定食を本能で「食える!」と確信するようにだ。


 ……ちょっと違うか?


 ――ともかく。


 そうして狩りと鍛練を繰り返した結果、俺のステータスはこうなった。



【名前】なし

【種族】マナ・シームーン

【レベル】4

【HP】47/47

【MP】295/295

【身体強度】10

【精神強度】212

【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.6』『刺胞撃Lv.4』『蛍光Lv.4』『空間魔法Lv.2』『鑑定Lv.2』『魔力感知Lv.4』『魔力操作Lv.5』『MP回復速度上昇Lv.5』『魔闘術Lv.2』『生魔変換・生』

【称号】『世界を越えし者』『器に見合わぬ魂』『賢者』

【加護】なし



 いやぁ、最初の頃と比べるとだいぶ成長したなぁ。


 それに進化した後のパラメータの伸びが、進化前よりも断然良い。小突かれたら死にそうだった【HP】も、一応はそこそこ耐えられそうなくらい成長している。【身体強度】も遂に二桁の大台に乗ったぜ。


 で、順当に成長しつつあるスキル群の中で、特筆すべきものは何と言っても『鑑定』のスキルレベルが上がったことだろう。


 成長した鑑定さんは、何と種族名だけでなく、別の情報も表示してくれるようになったのだ。


 試しに巨大珊瑚を『鑑定』してみた結果が、これ。


【名前】なし

【種族】ミネラル・コーラル


 いやいやいや違う違う違う!


 俺が求めていたのは、HPとかスキルとか、そういう戦闘に役立ちそうな情報なんですけど!?


 巨大珊瑚に名前がないのなんて、鑑定するまでもなく分かってるんですけど!?


 むしろ名前があったら恐怖なんですけど!?


 ……どうやら、鑑定さんの覚醒には、まだ時間が必要なようだな。


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