第11話 新魔法御披露目!


 進化している間、どのくらいの時間が経過したのかは分からない。


 だが、目覚めた時の場所と降り注ぐ陽光の変化から、それほど時間は経っていないのではないかと思われる。


 なので日付は跨いでいないだろうと仮定し、今日はまだ転生七日目としておく。


 さて、そんな転生七日目。


 先ほど進化を終えてステータスを確認した俺は、次に、進化する前に得た「新たなる力」を確認することにした。


 何のことかと言うと、『空間魔法Lv.2』のことだ。


 そう、遂に『空間魔法』のスキルレベルが上がったのだよ! 『鑑定』の方はまだ1レベルだけどな。


 ともかく。


 スキルレベルが上がって変化した『空間魔法』の力、その一つ目は――、


(……やっぱり、認識できる範囲が広がってるな)


「空間識別」の認識範囲が僅かに広がっていることだった。


 スキルレベル1の時は『魔力操作』で強化しない素の性能で、およそ半径20メートルの球状空間が「空間識別」の範囲だった。


 それがスキルレベルが上がることで、およそ半径25メートルの球状空間を認識することができている。


『魔力操作』のスキルレベルも上がったので、今では最大半径35メートルの球状空間を認識することが可能だ。


 この調子で「空間識別」の範囲が広がっていけば、以前のように天敵との不意の遭遇を回避することもできるようになるだろう。これは大いに期待したいところだ。


 で。


『空間魔法』さんの進化は、これだけに留まらない。


 何とスキルレベルが2になったことで、既存魔法の性能が強化されるだけではなく、新たなる魔法を使えるようになったのだ。


 その魔法の名は――――「座標指定」


 ……ああ。


 うん、まあ、ね?


 元々そんなすぐに攻撃に使える魔法を覚えるとは思っていませんでしたよ? でも、それにしたって、もう少し何とかならなかったのですかねぇ?


 これ単体では、きっと役に立ちそうにない予感が、ぷんぷんするぜぇ。


 だけど希望は捨てないの。


 俺は念のため、確認のために、「座標指定」を使ってみる。


 すると何となく使い方が理解できたので、とりあえず、目の前の巨大珊瑚がある場所を指定してみた。


(――え? 嘘、なんで?)


 すると、ごっそりと体内から魔力が引き出される感覚がした。慌ててステータスを確認してみると、今ので10MPも消費されていたのだ。


 そして肝心要の効果の程はと言うと……、


(これは……もしかして、あれか? 指定した座標の位置を、何となく把握できるという……)


 驚くべきことに、効果はそれだけだったのだ。


 もう少し正確に言うと、10MPを消費することで、最小1立法メートルの空間座標を指定することができる。その指定した座標の位置を、俺は魔法の不思議パワーで何となく把握することができるのだ。


 これってもしかしなくても、空間転移とかできるようになった時に、転移先座標を指定するための魔法なんじゃなかろうか?


 つまり、これ単体では、何の意味もない魔法…………だと、思っていました。


 ええ、まったく、それは「空間識別」という有能魔法をレベル1から持っていた『空間魔法』さんを侮り過ぎというものですね。


「座標指定」さんは、ただ座標を指定するだけの魔法ではなかったのです。


 まず一つ目。


(おいおい、指定した座標がある方向がどこにいても分かるじゃねぇか!!)


「座標指定」した巨大珊瑚から離れてみたところ、「空間識別」の範囲外に巨大珊瑚が出てしまっても、俺には巨大珊瑚のある方角がはっきりと分かったのだ。


 それはどれだけ遠く離れても、どこへ移動しようとも、である。


 つまり、この広すぎる大海原の何処にいても、俺は「座標指定」によって指定した座標へ帰ることができることを意味する。


 海流によって外洋へ流されても、俺はこの浅い海域へと間違いなく帰ってくることができるのだ。


 これはこれから先、俺が行動範囲を広げるに当たって大いに役立つ能力だろう。


 そしてそして!


「座標指定」さんの凄さはこれだけではない!


 俺はさっき、「座標指定」は空間転移などを使用する時、転移先を設定するためのものだと言ったな?


 だからこそ、「座標指定」単体では、もっと言えば現時点では、有用な魔法ではないと判断してしまった。


 大間違いだった。


「空間魔法の転移先を設定する」――ということを、もう少し深く考えてみれば、「座標指定」の真の役割は自ずと判明しようというものだ。


 つまり「座標指定」とは、指定した座標に遠隔で魔法を発動させることができる――ということに他ならない。またそうでなければ、空間転移などできるはずもないからだ。空間転移は現在位置と転移先の両方に魔法の効果を及ぼせないと実現はできないだろうからな。


 そして俺は、空間転移ではない別の『空間魔法』を行使できるではないか。


 すなわち、「空間識別」の遠隔発動だ。


 巨大珊瑚から遠く離れた――といっても、距離にして100メートルくらいだが――場所に移動してから、俺は「座標指定」した場所で「空間識別」を発動するように念じた。


 すると、いつものように1MPが消費され、「空間識別」が展開される。目論見通り、座標指定した巨大珊瑚を中心として。


(お、おお……!! 「見る」にはちょっとコツが要りそうだが、問題なく認識できるな……!!)


 自分の周囲と離れた場所の二つに「空間識別」を同時展開していると、ちょっと注意力散漫になりそうだ。それゆえに領域内を「見る」には集中する必要があるが、問題という問題はそれくらいなもの。


 離れた場所を、その場に居ずして認識できる。


 それは擬似的な千里眼ともいうべき能力だった。


 MPの消費はちょっと激しくなってしまうが、その点を考慮しなければ、多くの場所の座標を指定するとこで、一時的に超広範囲へ「空間識別」を同時展開することさえ可能だ。


 これは夢が広がるな。


 索敵能力が大幅に上昇するに違いない。


 問題としては、一度設定した「座標」が時間経過で消えるかどうか……なのだが、数時間前に指定した巨大珊瑚の「座標指定」はいまだ消える気配がない。


 消えるか消えないかは、実際に様子を見てみないと何とも言えないとはいえ、少なくとも短時間で消えることはないのではないか、と俺は思う。


 なぜなら、この魔法が空間転移を前提としているならば、短時間で消えてしまっては使い勝手が悪すぎるし、長距離の転移は不可能ということになってしまう。


 もしも、この世界のステータスを作った存在と、魔法スキルを作った存在が同一だとするならば、あまりにも使い勝手が悪い魔法を設定するだろうか?


 たとえば、「座標指定」の長期間に及ぶ保持には道具やアイテムを使うことで可能になるとしても、それを作り、利用できる存在は生命全体からすればごく一握りだ。


 俺のようなクラゲにもステータスが与えられている以上、それはないのではないか……と、希望的観測をしてみる。


 まあ、ぐだぐだ悩んだところで仕方ない。これは大人しく経過を観察してみるしかないか。



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