第10話 進化するぜ


 さて。


 この世界に転生した当初、俺には『ポリプ化』という自己進化できるようなスキルがあるからこそ、レベルの上昇では進化できないのかと思った。


 しかし、レベルが10に達したことで、ステータスは進化可能だと俺に伝えている。


 というかステータスを見ずとも、何となく自分が進化できるのだと感じていた。漠然とした本能のようなものだろうか。だが、俺にはなぜか、強く確信できるのだ。進化できると。


 そしてこれは、『ポリプ化』のスキルによる進化ではない。


(これは……どうなんだ? スキルを使って進化した方が良いのか、それともスキルに任せず進化した方が良いのか……)


 俺には二つの選択肢がある。


 レベルを代償に『ポリプ化』で新しい自分に生まれ変わること。これは「種族が変化する」とスキル説明欄に記載されていたが、進化するとは書いていなかった。つまり、必ずしも進化ではない可能性がある。


 対して、レベルカンストによる進化は、間違いなく、この世界のステータスによって定義される「進化」であるはずだ。


(そうなると……『ポリプ化』はいつでも使えるはずだし、進化一択か? 進化して『ポリプ化』のスキルが消える……なんてことはないよな?)


 一抹の不安はある。


 だが、俺は決断した。


(よし、進化しよう)


 そうと決まれば、触手を操って巨大珊瑚の下に潜り込む。


 進化にどれくらいの時間がかかるのかは分からないが、もしも時間がかかるとしたら、外敵に襲われにくい環境で進化するべきだ。


 捕食したブレイドテイルがまだ消化途中なのが気になるが、まあ、問題はないだろう。進化の途中で吐き出されたとしても、それはその時だ。


 俺は絶えず、心の内側から響いてくる「進化するか?」という無言の問いかけに、「進化する」と強く答えた。


 瞬間――俺の意識はふつりと途切れた。



 ●◯●



 浅い眠りから目覚めるように、意識が浮上する。


 気がつくと俺は、明るい場所にいた。巨大珊瑚の下に隠れていたはずなのだが、だとしたら明るさを感じているのはおかしい。


 慌てて「空間識別」を展開すると、どうやら珊瑚の下から這い出して、海中を漂っていたようだ。周囲は見慣れた光景なので、それほど流されてはいないようなのが幸いだった。


 んで。


 気になる自身の変化と言えば……、


(お、おお……! 本当に、姿が変わって……は、いるな。うん、微妙だけど)


 進化前の俺は、8本の触手も含めて体長1メートルくらいのクラゲだった。


 それが進化した後の俺は、12本の触手と、5本の口腕が生えていたのだ。大きさは進化前の1.5倍くらいだろうか。クラゲとして見れば結構巨大だな。


 んで、「口腕」というのは何かというと、触手が傘の縁から生えているのに対して、口腕は傘の内側、クラゲの口の周りから生えている。


 進化前の俺にも一応はあったはずだが、その時は短くて目立たなかった。だが、進化後の口腕は触手並みに長く成長している。


 触手は糸のように細長いのに対して、口腕はワカメのように幅広でびらびらしていた。


 俺はまーちゃんとの会話を思い出す。


『この口腕っていうの、何のためについてるんだろうな?』

『んとねー、触手でとったエサを、口に運んだりするんだよぉー。あとねー、口腕にも刺胞があってぇー、外敵から身をまもったりするのにも、つかえるんだってぇー』

『へぇ、そうなんだ』


 口腕は触手のように器用に動かすことができ、かつ、その表面には刺胞細胞が並んでいるから、触手と同じように使うこともできる、というわけだ。


 要するに、俺としては触手が増えたと思っておけば良いのか。


 で、見た目の変化としてはこれくらいなものだ。何か角が生えたりとか、牙が生えたりとか、そういうエキセントリックな変化は一切ない。見た目はやっぱり、普通にクラゲだわ。


 だが、ステータス上の変化はどうか?


 俺は自らのステータスを確認する。



【名前】なし

【種族】マナ・シームーン

【レベル】1

【HP】34/34

【MP】245/245

【身体強度】8

【精神強度】184

【スキル】『ポリプ化』『触手術Lv.5』『刺胞撃Lv.3』『蛍光Lv.3』『空間魔法Lv.2』『鑑定Lv.1』『魔力感知Lv.3』『魔力操作Lv.4』『MP回復速度上昇Lv.4』『魔闘術Lv.1』『生魔変換・生』

【称号】『世界を越えし者』『器に見合わぬ魂』『賢者』

【加護】なし


『マナ・シームーン』――豊富な魔力を宿したクラゲの一種。海面から見る時に海に浮かぶ月のように見えることから、そう名付けられた。その身は珍味として食されるほか、魔力回復薬の素材としても活用される。


『生魔変換・生』――【HP】の数値が1以下となった時、自動的に【MP】を【HP】へと変換する。変換効率は1対1である。



 ステータスはこんな感じだな。


 進化した種族は「マナ・シームーン」というらしい。『鑑定』による説明では、相変わらず食材扱いの上、今度は薬の素材扱いだ。この説明が誰に向けて書かれているのかは不明だが、どんどん俺の希少価値が上がっていくんですけど。


 もしかしてこの世界の知的生命体に出会ったら、狙われてしてまうのでは? という不安が湧き起こる。


 だがまあ、今から心配していても仕方のないことではあるよな。うん、気にしないことにしよう。


 んで、進化したことでステータスの数値が【HP】と【身体強度】は僅かに増え、【MP】と【精神強度】は結構増えた。


 マナ・シームーンという種族は豊富な魔力を宿しているらしいし、納得の変化ではある。


 増えたスキルは『生魔変換・生』の一つだけ。こいつは『ポリプ化』と同じでスキルレベルがないようだ。そういうスキルもあるってことだな。たぶん、スキルの効果が最初から一定なんだろう。


 他には、進化したことでなぜか『魔力感知』『魔力操作』『MP回復速度上昇』の三つのスキルレベルが1ずつ上がっている。


 これら全て、魔力に関連したスキルだ。ということはもしかして、これらのスキルを覚えていなかった場合、進化でこれらのスキルを獲得できた――ということかもしれない。


 元々スキルがあった俺の場合は、元のスキルに統合されてスキルレベルが上がることになったのかも。推測だけどさ。


 あと、地味に進化で『ポリプ化』が失われなかったのは嬉しい。まだ使ってないもんね、このスキル。


 総評としては、順当な強化といったところか。MPが増えて、『生魔変換・生』のスキルで死ににくくなった印象だ。


 しかし、大幅に強化されたという感じではない。


 相変わらず攻撃力不足が課題だな。豊富な魔力を活かして、攻撃魔法の一つでも使えるようになると良いんだけど。


 まあ、それはこれからに期待しておくか。


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