第2話 落ち着いて現状を確認するんだ
俺、死んだかもしれない。
そんな可能性に思い至ってから、さらに数時間くらいが過ぎた。
時計もないので感覚的にそれくらいかな、という感じだが、正確に何時間経過したかなど、どうでも良い問題だ。
そう、一番の問題は。
数時間も経ったと思われるのに、一向に俺の目が覚めないことだ。
俺の目が覚めないということは、もしかしたら、ここは夢の中ではないのかもしれない。
ならば、ここは何処だというのか。
死後の世界……?
その可能性も否定はできないが、死後の世界にゲームみたいなステータスがあるってどうよ? しかもそのステータスには、なぜか俺がジェリーフィッシュ――つまりはクラゲだと表示されているのだ。
そしてステータスの【称号】には、『世界を越えし者』という称号がある。これを鵜呑みにするならば、ここは地球ではない別世界……つまり、異世界だという可能性も微レ存。
ここが夢の中なのか死後の世界なのか、はたまた異世界なのか、今の俺に断言することはできないが……とりあえず、異世界だと仮定して活動することにしようかと思う。
そう、つまり、異世界転生というやつだ。
そして俺が、ステータスに表示されているようにクラゲに転生しているとなれば、この二度目の人生……いや人ではないけど、ともかく、二度目の生はすぐに終わってしまう可能性が高い。
他の生物にあっさりと殺されてしまうかもしれないし、何より通常、クラゲの寿命というのは一年そこそこが限度なのだ。
この寿命をどうにか伸ばす方法はないものか。
いや、その方法にはすでに目星をつけているわけだが。そう、ステータスの中にそれはあるのだ。
というわけで、俺は再びステータスを表示し、その各項目を詳細に表示していく。
ここまで数時間が経っているが、その間、ぼうっとしていたわけではないのだ。ステータスを開いて、各項目に意識を集中すると、その詳細が表示されることに気づいたんだぜ。
そんなわけで、各項目の詳細がこれだ。まずはスキルの詳細について。
『ポリプ化』――自身のレベルを代償に、肉体をポリプへと回帰させる。成長の後の【種族】や能力は、代償としたレベルの大きさによって変化する。
『触手術Lv.1』――触手を巧みに操るための技術。MPを用いて触手の強化・再生・成長などを行うこともできる。
『刺胞撃Lv.1』――触手表面に並ぶ刺胞細胞から針を対象に刺し、毒を流し込む。毒の強さはスキルレベルに依存する。
『蛍光Lv.1』――吸収した光を再放出し、発光することができる。レインボー・ジェリーフィッシュの場合は虹色の光を放出する。光の強さ、持続時間はスキルレベルに依存する。
『空間魔法Lv.1』――空間属性の魔法を使用できる。使用可能な魔法はスキルレベルに依存する。スキルレベル1では「空間識別」が使用可能。消費MPは1/分。
『鑑定Lv.1』――ステータスの付与された物体、および生命の詳細情報を閲覧する。ただし情報開示権限はスキルレベルに依存し、権限の及ばない対象は鑑定できない。
スキルについては、こんな感じだ。
どうやらステータスの各項目の詳細を表示できるのは、『鑑定』のおかげっぽい。
まさかとは思うが、自分のステータスが見れるのも、この鑑定のおかげなのだろうか?
まあ、分からないことを考えても仕方ないので、それは保留することにして。
何と言っても注目すべきは『ポリプ化』というスキルだろう。
俺はまーちゃんの言葉を思い出す。
『たーちゃん、ベニクラゲに寿命はないんだよぉ』
まーちゃんと一緒に読んだ図鑑の説明文曰く、クラゲの中でもベニクラゲという種類には寿命がなく、老化したり、自身が傷ついたりした場合、ポリプという状態に戻り、そこから再度、稚クラゲから成体へと成長することで理論上は永遠に生きられるらしい。
それと全く同じというわけではないが、スキルの『ポリプ化』を行えば、寿命の問題は解決できそうだ。しかも「成長後の種族や能力」が変化するような記述もあることから、たくさんのレベルを代償とすることで強くなれそうな気もする。
いわゆる進化ってやつだな。
んで、さらに気になるのは、レベルを上げることでは進化しないのか、ということなんだが……これについては情報がない。実際にレベルを上げてみるしかないだろう。
さて。
というわけで、次は【称号】について確認してみよう。
『世界を越えし者』――世界と世界の狭間を越えし者に贈られる称号。空間属性の適性が芽生え、スキル『空間魔法』を獲得する。
『器に見合わぬ魂』――肉体と魂の格が合致せず、かつ、魂の格が肉体よりも高い場合に贈られる称号。二つの格差により、【MP】と【精神強度】が増加する。
『賢者』――多くの知識を修めた者に贈られる称号。スキル『鑑定』を獲得する。
どうやら俺のステータスが一部高かったり、『空間魔法』とかいうクラゲにはそぐわないスキルを身に付けていたり、『鑑定』のスキルがあるのも【称号】のおかげだったようだ。
『世界を越えし者』は、まあ、ここが異世界であると仮定して、俺が異世界に転生したからだろうな、たぶん。
『器に見合わぬ魂』は、俺の前世が人間だったから、と思われる。
『賢者』については、推測はできるが確信はない。高校を卒業して三年制の専門学校まで卒業したが、「賢者」と呼ばれるほど頭が良かったり、大量の知識を記憶しているとは思えないからな。
だが、もしも仮に、この世界が現代の地球よりも文明的に発展していなかった場合、現代日本の教育を受けた俺は、この世界での「賢者」に相当する知識量がある――と判断されてもおかしくはないような気がする。
とはいえ、これはこの世界の知的生命体と接触してみなければ、確認のしようがない。
ちなみに、この世界に知的生命体がいることは疑っていない。
何しろ「ステータス」とかあるくらいだぞ? スキルや称号の説明文を見る限り、これが何者かによって「作られた」システムであることは疑いようがないはずだ。
その何者かが「神」的な存在だとしても、このステータスを利用する存在はいるはず。少なくとも、『鑑定』スキルで情報を取得し、かつ、それを理解できるくらいの知性を持った存在はいるはずだ。
なので、たぶん知的生命は存在するのだろう。それが人間かそうでないのかは不明だが。
んで、ステータスから知ることができる情報は、他にはこれくらい。
『レインボー・ジェリーフィッシュ』――虹色に発光するクラゲ。毒があるため注意が必要だが、一部地域では食用にされている。こりこりとした食感で、珍味とされる。
【HP】――生命力を数値化したもの。
【MP】――魔力を数値化したもの。
【身体強度】――肉体の強さを総合的に表した数値。【HP】や肉体を使用するスキル等に影響する。
【精神強度】――精神の強さを総合的に表した数値。【MP】や魔法などのスキル等に影響する。
【身体強度】と【精神強度】は、ステータスのパラメータ的数値の総合値らしい。
俺の種族に関しては……食用みたいだな。いったい誰が食べるんだ。というか、この説明文は主に誰視点なんだよ――というのは、今はおいておこう。
今一番に考えるべきは、何だろうか。
とりあえず、『ポリプ化』を使えば寿命に関しては何とかなりそうだ、というのは分かった。この点については安心だが、しかし、更なる問題がある。
俺はまーちゃんとの会話を思い出していた。
『このベニクラゲってやつ、寿命がないなら不死ってことだろ? なら、どんどん数が増えていっちゃうんじゃない?』
『んーん。寿命はないけど、たべられたりしたら、ふつーにしぬよ? だからそんなにふえないの』
『あ……そうなんだ』
そう、ベニクラゲは寿命はないが、不死というわけではない。他の生物に食べられたら、普通に死ぬ。だから地球でも増えすぎるということはないのだが……これって今の俺も同じことだよな。
たぶん、死ぬくらいのダメージを受けたら、普通に死ぬのだろう。
クラゲとして生きたいか? と問われれば即答はできないが、死にたいか? と問われれば「死にたくない」とは即答できる。
ならば死なないように生きるべきだろう。何とかして。
そのためには、天敵に襲われても撃退できるくらいに強くなるしかない。
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