楽園の残滓

「ここに来た頃から、レア君は一番にダズを虜にして彼の強靭な肉体や武力を味方につけようとしていたよ」

「それは……」

 エリーもうすうす気づいてはいた。一人でここにきた彼女は味方もおらず、ネッドに信用してもらえるまでどうやって自分の身を守るか、あるいは姉との約束をどう守るかばかり考えていたように思える。

「いきなりであった男とあれほど急に接近できるわけもないだろう、半ば強引にいやいや、仕方なく姉がくるまえに状況を整えていたと考えるほうが正しい、もっとも姉はそのことに気が付いていないようだったが、だから見た目ほど順風満帆じゃない部分もあったんだろう」

「それは……」

「それにね」

 ネッドは椅子をキュルキュルと回転させ、せもたれにもたれかかって、頭の後ろで手を組んだ。

「ダズに話しているのをきいたんだ、こっそりね、昔妹ちゃんがいじめられていたとき、姉が助けてくれたらしいが、その時助けた直後、妹ちゃんは鼻血とおしっこをもらし、あられもない姿だったらしい、それを恥ずかしくおもい、妹ちゃんは姉に相談したら、姉はいじめられていたのは自分だったことにしようと、しばらく二人で暗示をかけた、だけど姉がことあるごとにともだちにその暗示通りの話をするものだから、真相をしっている周りの人間は、少しひいて、妹ちゃんも恥ずかしい思いをしたし、自分の事をばかにしているかもしれないと思っていたのだという、それでもかまわない、二人きりの家族だから許すといっていたよ」

「それは……でも、昔の話では?」

「ほかにも、ダズとなるべく距離をとるようにさせていたようだった、まるで姉を潔癖的に保護するように、僕からみれば、まるで、まるでそう、自分が勝ちえなかったものを姉に要求する妹にみえたよ」

 

 その頃RRAIとレアと向き合うアデルとザド、ジュドーたちはどっちがどっちかわからずに、全面的にザドに判断をゆだねるようにして、ザドの反応をうかがっていた。

「RRAI!この状況もあなたの予想通りだというの?」

 ザドが大声で話しかける。だが返答は奇妙な形でかえってきた。二人が二人とも口を覆ったのだ。

「そうよ、すべて想像通りになっている、私は私が―彼女が―何を考えているか手に取るようにわかる」

「レア!!口を覆わないで」

 ザドがそう叫ぶと今度は二人が二人とも口を覆う手を開いた。

「これは、思ったより難儀だぞ」

 とその様子をみてアデルがぽつりつぶやいた。

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