誘拐

「何があったの?」

 ザドが尋ねるも、ネッドは椅子にすわり、左右に揺らしながらしばらく沈黙していた。

「……私たちを信用していないのね」

「それは、君が言う事をきかなかったからだ!!」

 突如激高するネッド。

「すまない……今はそういう場合ではないかもしれない、それにもとはといえば、君にだまって君を“次の戦略”から除外したからこんな事になったのかもしれない」

 そういうとモニターをふりかえり、彼は皆に説明をし始めた。

「三日前、RRAIの経路の予想を始めたんだ、それから独自の情報網で彼女の目撃情報と照らし合わせた、それによる彼女はどうやら、僕らの拠点近辺を歩き回っているらしい」

「そんな……どうして、何の目的で」

「それがわからないから!!私は調べていた、あるとき深夜、僕は少し庭に出て休憩したあと部屋に戻ると、資料が散らかっているのをみた、まさかと思い、君の部屋をみにいったら君は熟睡していたよ」

 そういい、ネッドはザドに目をやる。

「まさか、とは思うが、あの子ならありえる、あの子は、君のことをとても気に入っていたから、ここ数日だって、どうやったら君と僕とが仲直りできるかってずっと……」

「ちょっと、落ち着いて状況を説明してよ」

「ああ……そのあと、今日も同じく調べていたんだ、彼女、RRAIの予想される経路を、それと同時にさっき、クローラの居場所も調べていたんだ、彼女のブレスレッドは発信機になっていて……迷子にならないように、そして今日そのふたつの居場所が同じところにおちついたんだ」

「どういうこと?まさかあの子単独で何かしようとして、RRAIと接触したとか、誘拐されたとかそういう?」

「……」

 ネッドが頭を縦に振った。レアがそこで、二人の間に割ってはいった。

「彼女……どういう子なの?あなたの本当の子供じゃないわよね」

 ネッドは皆の顔をみると、しぶしぶと彼女の過去について話はじめた。

「彼女は、僕が“組織”に逆らい、裏切って世界を放浪していた時に初めてであった 子なんだ、人知れず滅びたコロニーの中で一人で生き残っていた、その時、僕は組織を離れて地上を生き抜く方法を、考えてもいなかったし知りもしなかった、だが彼女は、たった一人、世話役の壊れかけの執事型ロボットとともに生き延びていた」

 ザドが会話に割り込む

「単独で行動する、初めて会ったときもそう、何日も一人でいきのびていた、ただの人間でもないわよね」

「ああ、そうだ、彼女の半身はサイボーグ、戦争後はそういった身体改造は行われず、忌み嫌われているだろう、だから彼女は……世界に嫌われすてられていた、それでも生き延びた強い子なんだ、組織を離れて放浪した僕に、一人で生きる希望を見出してくれた、そういう子だ、彼女から与えられたものは多い……」

「ネッド……私を信用していなくてもいいけど」

そういって、ザドが切り込む。

「どうかあのRRAIと交渉させて、たとえ彼女が関係しているとしても、何らかの目的をもって行動するはずよ、あのRRAIは理知的だった、それがよかろうと悪かろうと」

「でも、どうする?」

「おちついて、彼女の予測される経路上に通信端末をおくだけでいい、私が交渉する」

「わかった、頼んだ、どうにか私の娘を無事に、無事に助けだしてくれ、そうなれば私は君たちの願いを何でも聞こう」

 そういって、ネッドは涙を流すのだった。


 それから二日間、皆は緊張しながら、悶々としながら日々をすごしていたが、あるときネッドが大声で庭に出てきて、また皆をかき集めた。

「急いで、急いで!!」

「ええ、わかった、わかったって」

 皆をかきあつめ、特にザドの背中をかかえて部屋にこいとせかす。そして部屋に入ると、資料の山をかきわけて、アゴでよびつけたザドに受話器を渡すと小声でこう耳打ちする。

「何があったの?電話が?」

「そう、彼女が電話にでたぞ、ほかの誰とも話したくないって、ザドと会話させろ、それだけでいいと」

「わかったわ」

 受け取ったザドは大きく息を吸い込む。

「RRAI!?あなたなのね」

 息を精一杯はきだしながら勢いよくまくしたてるザド。

「約束と違うじゃない、なぜあの子をさらったの??」

「あの子……この子ね、名前はなんていうの?」

「クローラ」

「勘違いしないで、私は、彼女を保護しただけよ、ね、クローラ」

 そういうと向こうで端末をごそごそと受け渡す音が入った。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、ザドお姉ちゃん、私は大丈夫、この人お姉ちゃんにとてもにているの、だからきっとお話しすれば、ネッドもお姉ちゃんもきっと仲直りできるよ!」

「ねえ、あなたのいう通りにしたのに何が気に食わないの?」

「気に食わない?私はここ数日、ずっとあなたたちのエージェントに監視されているのよ、四六時中ね!!あなたたちだって、私の“大事な時間”をこうして邪魔したじゃない、ほら、こうやって、まあこれは結果論だから別にそれくらいはいいのだけど、あなたたちクラックスの仲間の行動が問題なのよ、私は発信機をつけられているはず、もう少しで“本部の彼ら”がチームで動きだす、私の大事な30にちをクラックスが邪魔するなら、あなたを裏切りあなたを殺すわ」

「なぜわかるの?」

「いったでしょう、私は異次元からきたの、いろんな運命を見てきた、とにかく、あなたと会って話がしたい、私の目をみてもう一度、私の話をきいて、そしたら“あなたたち”にこの世界の事を任すから」

「私とあなたが合えば、彼女を離すのね」

「そうよ、あ、まって、それから」

 とRRAIは一呼吸おく

「ネッドとできるだけ距離をとりなさい、引き渡しがおわったらね」

「???」

 電話を終えたRRAIは、その端末を大事そうにしまうと、近場にいたクローラの頭をなでて、肩をだきひきよせた。

「大丈夫、話はおわったわ、けれど……私の推測通りになっているわ、この先にある不幸は、姉妹を襲う、その時私は私を許せるかしら、ネッドとあなたはイレギュラー?不確定要素になるのかどうか、見ものだわ」

 

 一方ネッドの拠点ではザドは電話がきれたあと、ネッドに向かい合い、まっすぐ目をみてこういった。

 「大丈夫、確信があるの、あのRRAIは理性的だわ、リスクは私が侵す、それでいいでしょう?」

 ネッドは地面に正座をするようにすわり、ザドに頭をさげた。

「頼む、頼む、助けてくれ」

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