第2話 やることがない人へ勧めるスマホゲーム

ピンポーン。再び来客を知らせるチャイムが鳴り響く。何がそんなに気になるのか、スマホを必死にいじりながら若い女性が入店してきた。

「いらっしゃいませ」先ほどと同じように挨拶をする。客がいるときはあまり話し掛けてこない茜が珍しく、小声で問い掛けてきた。

「水本さんってゲームが好きなんですか?」

「好きってほどじゃないよ。暇つぶしくらいにしか考えていない」

「私、スマホの珍しいタイプのゲームに嵌っているんですけど、興味ありませんか?あのお客さんを見て急に思い出したんですけれど」

清輝は逡巡した後、「まあ、面白いならやってみたいな。基本無料でしょ?」

「それはそうなんですけど」せっかく誘いに乗ったのに茜の歯切れが悪い。


「これ、お願いします」先ほどの女性客が早くもレジに来た。

「いらっしゃいませ」茜は差し出された菓子パンとヨーグルトを次々とバーコードで読み取り合計金額を客に伝えた。その女性客は会計時もスマホと睨めっこをしていた。

「ありがとうございました」滞在時間でいえば2~3分だろう。忙しい店なら回転率は良いはずなのに、残念ながらこの店はそれが当てはまらなかった。


「えーとですね、ゲーム自体は基本無料なんですけど」茜は何か言い難さそうにモジモジしている。

「え、他に何かいるの?」

「はい・・・むしろそれがないと楽しくないです」

「始めるかどうかはそれを聞いてからにするよ」見切り発車ほど怖いものはない。

「ちなみになんですけど、水本さんってどれくらい貯金ありますか?」

「は?藪から棒に何を聞いてくるの?まあ、使わないから結構あるけど」はっきり覚えていないが、高校生のときはファストフードでアルバイトもしていたので、貰い続けたお年玉と併せれば、30万円近く貯め込んでいるはずだ。

「え!そんなに貯金しているんですか?水本さんってケチなんですか?」

「茜ちゃん、ちょいちょい俺を傷つけているから。勿論、俺はケチでも引きこもりでも鬱でもないから」

「すいませんでした。根にもたないでくださいよ。必要なのはVRゴーグルです。あれって結構高価じゃないですか?」茜の言う通り、確か5万円近くするはずだ。

「茜ちゃん、あんなに高価なものを持っているの?」

「高校の入学祝で親から買ってもらいました」

「なるほど。それはわかったけど、スマホとVRゴーグルの接点がわからない」

「やり方は教えますけど、VRゴーグルがないと全然楽しくないので、そこは水本さんにお任せします」

「うーん、VRゴーグル自体には興味があるんだよね」欲しいとは思うがそれだけの価値があるのかわからない、それに4万円近く投資するには勇気がいった。

「そうなんですか!今ならキャンペーンとかで4万円弱で買えるみたいですよ」

「茜ちゃんがメーカーの娘さんってことはないよね?」茜のはしゃぐ様子を見て清輝は訝しんだ。宣伝文句が通販みたいで、どうにも怪しく思えてしまう。

「違いますって!!でも面白いですよ。他のみたいに暇つぶしでは終わらないはずです」茜は熱弁を振っている。

「ええと、簡潔に説明してくれるかな?」

「要するにVRゴーグルとスマホのアプリと連動させるんです。そうすると、そのゲームはアイドル育成ゲームなんですけど、アイドルが本当に目の前にいるようで、とにかく凄いんです!」

茜の語彙力を残念に思いながらも、清輝は興味を持ち始めていた。アニメのアイドルはもはや3次元のアイドルの人気を凌駕していると聞いたことがある。

「大体、わかった。検討してみるよ」

「そうしてください。私も無理強いできませんから」


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、チャイムの音が鳴り過ぎて壊れたかと思ったら、いつからいたのか、店内には7人も客がいた。


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