ガシャガチャアイドル -新人プロデューサーは今日もゲームとリアルで苦悩するー

モナクマ

第1話 暇なアルバイトは女子高生と話して過ごす

「今日も暇ですねえ」そう言って、武田茜たけだあかねは右手で口を覆い隠しながら欠伸をした。

「いつものことじゃん。本当によくこのコンビニは潰れないもんだ」

茜につられて、水本清輝みずもときよてるは大きな欠伸をして体をほぐすように両手を頭の上で組んで左右に揺らした。


近くの駅まで徒歩で10分、大通りには面しているものの、駐車場には5台しか停めることができない。ここでコンビニを開いたオーナーの意図など清輝にはわかるわけもなく、挑戦者と褒めるより、無謀としか言いようがなかった。

夜の8時だというのに、来店客はたったの5人。清輝は採用されてまだ半年経つが、店が存続していることが不思議で仕方がなかった。

「水本さん、大学はどうですか?」

「それもいつもと同じ。楽しくもつまらなくもない」茜からの問いに清輝は冷めた顔で淡々と答えた。

「そもそも、俺は4年生になるんだよ?残りの1年間は本当に大変だと思う」就職活動には相当苦労させられるだろう。目標を追い続けるか、どこかで妥協しないと就職浪人をし兼ねない。清輝は雲った表情でガラガラの店内を見回した。

「でも、3年間は自由に遊べたんじゃないですか?いいな、大学生は」

茜は今年高校に入学したらしい。中学生から高校生に変わるというのは大きいだろう。まだ中学生の面影を残した茜は清輝の呆気ない返答に口を尖らせた。

「茜ちゃんは高校生になってからどう?俺は小中高と全然変わらなかったし、大学生になったからといって、あまり変わらなかったけれど」

「私は・・・」茜は言い淀み、「私は楽しいです」と無理に笑ってみせた。


「別に無理しなくても良いんだよ。まだ半年しか経ってないんだから」

「本当は・・・本当はあんまりです」

清輝から優しい眼差しを送られた茜は本音を漏らした。

「環境に適応できているだけマシなんじゃないの?俺はそんな風にしか考えていないけど」

「それはそれでどうかと思いますけど」

ピンポーン。来客を知らせるチャイムが店内に響き渡る。

「いらっしゃいませ」清輝と茜はやまびこのように挨拶をし、軽く頭をさげた。

「194番の煙草を2つちょうだい」

「はい」茜は慣れた手つきでケースから煙草を取り出すと、「こちらでお間違えないでしょうか?」と丁寧な対応をした。

酒や煙草の年齢確認は毎年のように厳しくなっているらしい。

「未成年に販売してしまうととんでもないことになるからね」と優しそうなオーナーは清輝に大事なことをしっかりと伝えなかった。ただ、清輝にもそれが閉店に追い込まれるくらいヤバいことくらいわかっていた。

「ありがとうございました」明らかに年配の男性の客に頭を下げると、店内にはまた清輝と茜しかいなくなった。

「あれ?なんの話をしていましたっけ?」

「なんだっけ?まあ、それはどうでもいいとして、茜ちゃんはやっぱり手際がいいね。俺も見習いと駄目だな」

「覚えたときには、この店が無くなっているかもしれませんけどね」茜はそう言って意地悪く笑った。

「まあ、あり得る話だよね」清輝は苦笑した。

「あ!思い出した!そうですよ!学生生活の話ですよ!」

「そうだった。でも、その話ってそんなに大事なの?」

「私には結構大事なんです!」165センチもある茜は5センチしか変わらない清輝に顔を近づけた。

「最近の女の子はみんな背が高いよね。俺も一応170センチあるのに、なんか凹むよ」清輝は自分の顔が赤くなっているのを隠すように顔を背けた。

「私は身長のことはあまり考えたことがなかったです」

「でもさ、付き合う基準とか気にする女の子もいるじゃん。あれ?茜ちゃんって彼氏はいなかったんだっけ?」

「い・ま・せ・ん!!水本さん、私にも興味がなさすぎですよ!同じ質問されすぎて嫌味かと思います」

「ごめんごめん。興味がないというかなんというか・・・」清輝はしどろもどろに答えた。現役の女子高生と働くことを羨ましがる奴も多いのだろう。茜は決して悪い顔をしていない。かといって美人かといえばそれも違う。要するに普通だ。清輝は自分のことも至って普通だと認識していた。

「水本さんって社交的に見えないんですけれど、普段は何をしているんですか?」

「うーん、寝ているかゲームをしているか、どっちかかな?」

「それって廃人じゃないですか!水本さん、本当に大丈夫ですか?」茜が真顔で心配そうな声をあげたので、「いや、俺は一応大学生だし、ちゃんと学校にも行っているし、友達もいるからね」と茜を安心させるように言葉を連ねて、「それから引きこもりでも鬱でもないから」と付け足した。

「こうやって一緒にバイトをしているんですから、そこまでは心配していないですよ」

「それならいいんだけれど」茜がおかしそうに笑うので、清輝は少しムキになって言い返した。


廃人か・・・ピンとはこないが、家でゲームをするか寝てばかりいると、そういう風に思われても仕方がないのかもしれない。

茜に強く言い返したものの、「違う、廃人なんかじゃない!」と否定するだけの自信が清輝にはなかった。


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