第65話 これを見せたかった

5人のアイドルが口をパクパクさせている。録画でした動画を早送りしているからだろう。ただ、ライブの前の意気込みでも語っているのだろう。由衣はそれくらいにしか見えなかった。

清輝からは聞いていたが、由衣と希実に似ていない3人のアイドルがメイン級のアイドルなんだろう。アニメやゲームに疎い由衣でも可愛らしい女の子達だと思った。

その3人がステージに向かうと、由衣の目には自分に似ている望というアイドルと希実に似ている唯というアイドルの2人が何やら口を動かしている。そして、2人は手を繋いでステージに駆けて行った。

そそもそも私たちは仲が悪くなかった。互いに不満はあったが喧嘩するほどのことはなく、うまく折り合いをつけて今まで友達として過ごしてきた。

「まあ、私と希実が手を握るなんてことはしないけどね」由衣は清輝に聞こえないように小声で呟いた。

5人全員が手で持つマイクではなくヘッドセットのマイクを着用しているということは、ダンスの割合が多いいのだろう。実際、踊りながら歌い続けるのは相当な体力と声量が必要になることくらい由衣にもわかっていた。


5人がステージに立つと、割れんばかりの歓声があがった。どうやら清輝は早送りを止めたようだ。

『紗枝ちゃん!今日も可愛い!』

『玲ちゃん、頑張れ!』

『あかり、応援しているよ!!』

さすがメイン級のアイドルだ。応援の声が止まない。


『唯ちゃん、今日もセクシー!最高!!』

「はあ?何を言っているの?あ、そうかこのゲーム内ではゆいは希実なんだっけ」

『望ちゃん、大好き!!応援しているよ!』

由衣と希実の名前が混同しているせいで戸惑うが、どうやら由衣に似ている望もそれなりに人気があるようだ。


ステージの照明が落ちると、センターの紗枝にスポットライトがあたった。

紗枝は目を閉じて祈るように両手をあわせてから、曲に併せてゆっくりと口を開いた。

さすがプロの声優だ。当たり前のことだが歌が上手い。

そして紗枝が歌いだすのと同時に、次々とスポットライトが当たり、5人全員が光に包まれると紙吹雪が舞った。

歌詞を聞いていると、どうやら応援ソングのような気がする。ポップで明るいメロディは元気を迷っている人間に元気を与えてくれそうだ。

由衣が驚いたのは5人の動きだった。ゲームとはいえ、動きに無駄がなく見事に揃っている。

紗枝が前に出ると、後ろに控えていた玲が現れ、次にあかり、そして唯、望と続く。由衣は大画面で繰り広げらるゲームのアイドルの歌と踊りに圧倒されていた。

そして、歌の途中で真っ白な衣装がシックな黒色のドレスに変化した。

横一列に並んでいた5人がアルファベットのWからMように忙しく形を変える。そして曲の山場というところで、またフォーションが変わった。望がセンターに入れ替わり、衣装は白色と黒色が混じり合い、今度は明るめの灰色に変わると全員の衣装が輝きを放ち、元の白い衣装に戻り、5人の背中には片方だけ小さな羽が付けられていた。羽の色は紗枝はピンク色で玲は青色、あかりは橙色。そして唯は紫色。由衣に似ている望には水色。全員が違う色だが、堂々としたパフォーマンスを繰り広げている。

センターに立つ望は汗を掻きながら必死に歌いながら、観客を煽るような手拍子を始めた。

望の意図を汲み取るように観客はリズムにあわせて拍手をする。

望はそれに満面の笑みで両手を振りながら応えていた。



清輝の奴、わざとこの編成を組んだな。

私をセンターのポジションに据えるなんて。

そう思いながら、由衣の目頭は熱くなっていた。



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