第11話 所属アイドル『星野紗枝』

紗枝は高校2年生。清輝には、その情報だけでよかった。

誕生日、星座、そんなことを言われても覚えられない。身長。スリーサイズに関しては本当にどうでもいい。知りたいのは初期のステータス値だけだったが、それはプロデューサーに昇格しないと知ることができないようだ。


そもそも、マネージャーの仕事とは何なのだろう?

答えはアイドルのスケジュール管理、それと本当にアイドルのお世話だった。

事務所で勉強している紗枝がシャープペンを落とすと、「マネージャーさん、すいませんけど、拾ってください」と言われ、落ちたシャープペンをタッチすると拾ったことになる。

尽くす=なんでもやるとはならないはずなのだが、こういったイベントは多かった。


小声で「それくらい自分で拾ってくれよ」と愚痴を漏らすと「マネージャーさん、何か言いましたか?」と紗枝が怪訝そうな顔をした。迂闊に言葉を発せない清輝は、だんまりを決め込めこむことにした。



「マネージャーさん、ちょっとここを教えて欲しいんですけど」

紗枝は明るいし、顔も可愛い。しかし、残念なことに勉強ができな過ぎた。

「日本で一番高い山ってどれなんでしょう?」

「どれ?」ということはスマホの画面では選択肢が表示されているのだろう。清輝は「富士山」と短く答えた。

「じゃあ、英語で、こんにちはってどう言うんですか?」

もはやどんな選択肢が表示されているのかが怖くなる。「HELLO」清輝は短く突き放すように答えた。マイクは正常に作動しているようだ。紗枝が「ありがとうございます」とお礼を言ってくるので伝わっているようだ。


紗枝は真面目で常に勉強しているのだが、どうも小学3年生あたりの問題で苦戦しているようだ。

「また間違えっちゃった、エヘ」と紗枝が自分の頭を軽く叩いているさまを見て、この子はアイドルとして成功させなければならないと強く感じた。

1つでも人に勝るものがあるなら、そこで勝負すれば良い。紗枝はそうしたほうがいい。そうでないと紗枝の未来が心配だ。ゲームとはいえ、清輝は責任感と使命感が芽生え、ゲーム内の紗枝の行く末を本気で案じた。



「今日からお前には星野紗枝をプロデュースしてもらう。期待をしているからな!」

社長は別人に入れ替わったのか、「貴様」や「ゴミ虫」をという言葉を口にしなくなった。なにせ、黒いシルエットだけなので判別がつかない。ただ偉そう態度は変わらなかった。


見習いと同様に、マネージャーにならなければ先に進めないのは改善するべきだ。あんなことはやりたい人がやればよいのだ。

ただ、茜の言う通り、見習いさえ乗り切れば、マネージャーの期間など短いし、アイドルとコミュニケーションをとり、床に落ちたシャーペンを拾い、アイドルが割ってしまったコップの後片づけをする。それくらいしかない。アイドルの使い走りというか、従者になってしまったようで、決して楽しいとは思えなかった。

それでも、やっとのことでプロデューサーになれた。初ログインしてから5日目にして、清輝はプロデュースする権利を得た。

ガチャは必ず回していた。無料なのにガチャを回さないというのは、偏屈な金持ちくらいだろう。

アイドルカードはSSRが3枚。SRもそれなりに貯まった。Rはどうするか後で考えとして、Nのアイドルは全て移籍させてマニーに変えていた。



まずは紗枝の初期ステータスを確認する。

ステータスは、ボーカル、ダンス、ビジュアルの3種類。紗枝は全てが初期値40と特出した得意要素がない。ただ、勉強の数値がなくて良かった。もし、そんな要らない要素があったら、残念ながら紗枝の勉強値は10くらいだろう。


ゲームの流れとしては、月に4回のアイドルの育成方針を決める。それを2回続けると季節が変わる。春からスタートして、36回で1年が終了するということだろう。

据え置きのゲーム機でもアイドルの育成ゲームをやったことがあり、スマホでも1つだけ試しにプレイしていた清輝には、特殊だが、このゲームでアイドルのプロデュースするのは3回目だ。ゲームの進行は他の育成ゲームと変わらないように思えた。


アイドルは無名のDランクからスタート。そこから経験を積み、ファンを増やしランクを上げる。この部分はどうしても似たり寄ったりになってしまう。

さて、どうしたものか?と考え込んでいると、眼鏡の色が赤く変わった益代が、「営業やレッスンでアイドルのランクアップを目指しましょう」とぎこちない笑顔をみせている。

どうせ、どこかで躓くはずだ。それなら、営業、ボーカル、ダンス、ビジュアルのレッスンを1回ずつで回してみよう。

これでも、どうにかなるだろう。


「紗枝、これからよろしく。あれ、紗枝?紗枝ちゃーん!」

「へ、は、ひゃい」

紗枝は点けっぱなしのTVの前に置いてあるテーブルに、体を突っ伏して寝ていた。



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