第532話 冒険者の仲間だった人
一瞬、何が起きたのかわからなかった闘技場が、すぐにビジョンの魔法だと言う事に気づいた。
だが、おかしい。
第一次試験の時、ビジョンは炎の攻撃魔法、
属性は、一人に基本一つ。
知里やリヒトみたいな例外もいるが、属性をいくつも持っているのは普通ではない。
キロンニスもそこに気づき、杖を下ろした。
「おいおい。今回の受講生はどうなってんだぁ? つーか、こいつら三人はもう、試験をしなくてもクリアでいいだろう」
「私はそれでも嬉しいのですが、戦闘はしたいんですよねぇ。もう少し、見たいものもあるので」
エトワールは汗を拭きとりながら、視線を奥へと向けた。
彼女の目線の先には、髪を一つに結び杖を握っているビジョンの姿。
下げていた視線を上げたビジョンの表情は、先ほどまで怯えていた人と同一人物とは思えないほどに豹変していた。
口角は限界まで上がり、目は真っすぐキロンニスを見る。
杖には魔力が込められ、魔法を放てるようになっていた。
「――――ほんと、今回の受講生はどうなってやがる…………」
困惑しながらも、キロンニスも楽し気に笑った。
エトワールは、もう任せてもいいかなと後ろに下がり、入れ替わりにビジョンが前に出た。
足を広げ、杖を振り上げたビジョンは、笑いながら唱えた。
「
今度は、雷の攻撃魔法を放つ。
キロンニスは簡単に避けるが、その顔は驚いていた。
もちろん、エトワールも驚いている。
「まさか、炎、水、雷と、三つの属性魔法を放てるなんて……」
「もしかして、ビジョンさんも、いくつもの属性を持っているのでしょうか」
「そうかもしれないですね。これは、強力な天才魔法使いを見つけました。アマリア様が育てれば、知里さんと同等の力を放つことが出来るでしょう」
「え、カガミヤさんと?」
「はい」
どういう事だろうかと、リヒトは目を丸くした。
意味を理解していないリヒトを見て、エトワールは追加で説明した。
「魔力自体は全然知里さんには及ばないですよ。ただ、戦闘スキルは今の段階でも知里さん以上。知里さんは魔力でごり押しするけれど、ビジョンさんはスキルで強くなるタイプ。グレールさんみたいな感じですね」
なんとなく理解したリヒトは、視線をビジョンに向けた。
「あの、私達は何をすればいいのでしょうか」
「うーん。この後にも戦闘が控えているとなれば、魔力の事も考えて早めに終わらせたいですねぇ」
うーん、と考えている間にも、戦闘は進む。
「
「
炎のガトリング砲が水の弾で相殺。
空中でお互いの魔法がぶつかり合う。
「魔力量は互角。ということは、ここで私が一番魔力が少ないようですね」
「そ、そういえば、さっきの魔法はなんだったのですか? なんか、見誤ったとか言っていた気が…………」
今のタイミングでしか聞けないと思い、リヒトは戦闘中にも関わらず聞いた。
「それは、また今度ね。それより、戦闘に集中した方がいいですよ」
いきなり、エトワールが後ろに下がった。
リヒトが前を見ると、炎のガトリング砲が迫ってきていた。
「~~~~
前方に水のシールドを作り出し、何とか防いだ。
心臓が飛び跳ね、ドクドクと音を鳴らす。
自分だけ逃げようとしたエトワールを睨むと、彼女はクスクス笑う。
「やっぱり、リヒトさんは追い込めば追い込むほどに、自分の実力を発揮するタイプですね。知里さんと同じ、可愛いですねぇ~」
「なんの話ですか!!」
流石に自由すぎるエトワールに怒ると、エトワールの目線はまた前を向く。
嫌な予感がしたリヒトは、視線を辿った。
「な、なにあ、れ」
「さすがに派手にやりすぎですね。もうそろそろ、一瞬でも勢いを止めないと」
「え?」
エトワールが渋々と言った感じに歩き始めた。
まさか、あんな大乱闘が巻き起こっている場所に自ら突っ込むつもりかと、リヒトは驚いた。
だが、リヒトはもっと驚くことになる。
「うっそ……」
あんなに魔法が飛び交っている中、エトワールは優雅に二人へと歩く。
しかも、エトワールに誰も気づかない。
今、エトワールを見ているのはリヒトだけ。
キロンニスですら、気づかない。
「なにが、起きているの?」
さっきからエトワールが何を考えているのかわからない。
何が起きているのか、リヒトの頭では、もう理解が出来ない。
一つ分かるのは――いや、一つ、思い出したのは、今、自分の目の前にいる人は、やっぱり――……
「
昔、名前を広げた冒険者の、仲間なんだと──……
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