第527話 天才魔法使い
エトワールとリヒトは自分の番が終わったため、一安心。
他の組みを待っている間はずっと見ているだけ。
そして、最後の組みとなる。
それまでは特に何もなかった。
リヒトは、様々な魔法が見れて目を輝かせていたが、エトワールにとってはすべて基本魔法。
少しだけ応用属性魔法も放つ魔法使いがいたが、エトワールの目を輝かせはしなかった。
そのまま最後になり、やっと終わりかと欠伸を零した時、エトワールはある一人を見て目を見開いた。
その人は大人しそうで、おどおどしている見た目は女性。
水色の髪は肩まで長く、杖を握る手は震えている。
それでも、エトワールはその人物から目を離せない。
「へぇ、面白い」
口角が上がり、楽しげに笑っている。
そんなエトワールに気づいたリヒトは、怪訝そうな顔を浮かべた。
「次の戦闘、楽しみね」
「え、エトワール、さん?」
「ふふっ」
「??」
いきなり笑い出したエトワールは怖く、リヒトはこれ以上何も聞かないことにした。
「ラスト、戦闘開始!」
組み分けが終わり、戦闘が開始された。
エトワールが見ている魔法使いは、相手の魔法を全力で走り逃げるだけだった。
「やーめーてー!!!!」
情けなく叫びながら逃げ惑う姿に、リヒトはさすがに驚いた。
自分より怖がりかもしれないと、なんとなく心が軽くなる。
だが、それと同時にあの子は駄目かもしれないと、眉を下げた。
そんなリヒトの心境を察してか、エトワールがニヤニヤしながら口を開いた。
「リヒトちゃん。あの魔法使いと学校一番で仲良くなるわよ。そして、信用に値する人物だったら事情を話し、仲間に引き入れるわ」
「え、だ、だれですか?」
「逃げ回っている子よ。あの子、確実に合格するわ」
何を見てそんなことを言っているんだ、とリヒトは思う。
けれど、自分より確実にエトワールの方が見る目はある。疑いつつも、リヒトは逃げ回っている魔法使いを見た。
見ていると、いきなり逃げながらその魔法使いは、手首に付けていた黒いゴムで髪を結び始めた。
なぜ今? と思っていると、なんとなくリヒトの身体に何かが刺さる。
それは、鋭く尖る空気。殺気ではない、けれど体に突き刺さる空気がリヒトの身体を震わせた。
「――――んじゃ、やるか」
情けない声を上げながら逃げ回っていた魔法使いが、髪を結んだ瞬間豹変し周りを驚愕させた。
空気、口調。なにより、魔力が変わった。
さっきまで微かにしか感じなかった魔力が、今では一般人程度にまで感じる。けれど、雰囲気はそんな程度ではないのはわかる。
足を止めた事で、相手が放っていた炎魔法が迫りくる。
魔力を前に集め、固い壁を作り相手の魔法を消した。
すぐに魔法へと切り替える。
「
唱えると、魔法使いの影が歪に動き出す。
波のように影が浮き上がり、相手に襲い掛かった。
「うわぁぁぁぁ!!」
相手は、影に包まれ動かなくなった。
影はかぶさると地面にまた沈み、魔法使いの足もとに戻る。
「
動かなくなった相手に遠慮なく炎魔法を放ち、気絶させ戦闘終了。
エトワールは今の魔法の攻防を見て目を輝かせ、リヒトは驚きで言葉を失った。
最初は逃げ回っていただけの魔法使いが、髪を結んだことで強気に魔法を放ち始めた。
魔法の使い方、流れ。魔力の無駄使いもしていない戦い方に、エトワールは歓喜の声を漏らす。
「面白いなぁ。私、あの魔法使いとやって見たかったですよ~」
「え、えっと、あれは一体、どういうこと、ですか? なんか、いきなり豹変したんですが、あれも魔法ですか?」
「それは、入学してから教えていただきましょう。それより、まだ残っている人数は多い。試験はまだ終わりではありません。油断せず、頑張りましょう」
周りを見ると、エトワールが言うように、人数がまだ残っている。
次の試験も同じ形なのだろうか。そう考えると、リヒトは体が重くなる。
だが、そんなリヒトの様子とは裏腹に、試験官からは予想外な言葉が放たれた。
「では、次の試験は明日に回す。残ったものは、魔力を蓄えておくように。明日はまた、違う試験内容だ」
違う試験内容と聞き、リヒトはエトワールと目を合わせた。だが、ニコッと笑みを返されて終わり。
この不安は、ひとまず知里に聞いてもらおうと、リヒトはため息を吐いた。
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