第519話 今更考えても無駄だし、仕方がないだろう
「アマリア、お疲れ様」
「本当だよ、マジで疲れた…………」
エトワールから話を聞き出すのがそんなに疲れるのか。
俺なら絶対に嫌だな。
ちなみに今、エトワールはアマリアに「黙れ」と、言われて口を塞ぎ続けている。
そこはしっかりと守るのが律儀だよな。
「それで、今回の説明会はどんなことを聞いたんだ? アマリア、聞いた事教えてくれ」
「ルール、形式が大きく変わっていた事。それが一番驚いたらしい。それと、持ち物も」
「持ち物?」
「魔道具の持ち込み、杖すら禁止らしいよ」
「え、杖も?」
杖も禁止させられたら、リヒト達魔法使いはどうやって魔法を放つんだ?
「公平に選別するため、学校の方から支給されるみたい。それと、変わった形式は、一対一の戦闘。リヒトにとっては危険だね」
「そうだな。他はあるか?」
「あと、場所だね。そのくらいじゃないかな」
アマリアが確認のために黙っているエトワールを見る。
頷いたから、このくらいなのだろう。
「やっぱり、試験管については聞いていないらしいな」
「試験管?」
「今回のは、理事長の次にやばいらしいぞ」
ちらっとヒュース皇子を見ると、小さく頷く。
「どういうことなの?」
「…………今回の試験管は、クインの秘書であるアラリック。魔力探知が鋭く、戦闘力も高い。今回の編入試験に受かる者がいるかわからないとまで言われている」
ヒュース皇子が腕を組み言うと、誰も口を開かなくなった。
…………いや、この場にいる人達がアクアにアマリア、俺にヒュース皇子、エトワールだ。
うん、今の話で動揺する人はいないか。
空気は変わらなかったもんな、うん、余裕そうで何より。
「…………エトワール、今の話を聞いてどう思った。話していいよ」
「ありがとうございます!! やはりアマリア様はおやさしっ――……」
「質問にだけ答えて」
「はい!! 私は余裕でクリアできますが、やはりリヒトさんが難しいかもですね。人に攻撃する事に慣れていないようにも見えるため、そこで魔力の揺れがどう出るか予想が出来ません」
「ありがとう、また口を塞いで」
あ、また黙った。
扱いに慣れているなぁ。
「まぁ、一対一ならエトワールは問題ないよね。それで、さっき言っていたように、人に攻撃をすることに慣れていないリヒトからしたら、難しいかも」
「そうだな。それに、今回の編入試験では死者を出しても失格になるだけで、他にはお咎めなしらしいし、やばいな」
それを言うと、流石に空気が少しだけ揺らいだ。
「それは、本当?」
「みたいだぞ。なぁ、ヒュース皇子」
聞くと、険しい表情を浮かべながらヒュース皇子が頷いた。
「しかも、厄介な事に毎回死者が出ているらしい」
「え、それは初耳なんだが?」
「さすがに伝えても良いか悩んだのだが、一応情報ではあるからな」
「まぁ…………」
毎回死者が出ている、か。
「編入試験は失格になった人でも、次また受けられるのか?」
「いや、編入試験は一年に何回か開催されるが、失格になったものは、一年は開けなければ参加出来ないはずだ」
「それくらいの配慮はあるか。それなら、同じ人が毎回出て殺害しているわけではなさそうだな」
それなら、毎回死者が出るのは、本気で殺す気で行かないと編入できないからとか。
相手の実力を見誤ったか、本当に殺そうとして殺しているのか。
どっちにしろ、危険だな。
「偶然にしては、出来すぎたね。なんで、死者が出ているのに、そこは規則に入れないんだろう。殺しは禁止とか。それに、審判が途中で止めたり、万が一のための魔道具も使わせない。意図がわからないね」
「そこまで考えるのは俺達じゃないし、それは置いておくぞ。それより、どうやって実力だけでリヒトが編入試験を合格できるかだ。さすがに魔道具も使えなくなったとなるときっついぞ。一対一なんて言うのも厄介だ」
今から模擬戦すると言っても、絶対に時間が足りない。
まさか、エトワールの情報がこんなにも古いって……。
いや、古いか。
エトワールは、アマリアと同じくらい生きているもんな。
そりゃ、情報が古いのも頷ける。
「まぁ、今更何を考えても仕方がないし、リヒトの肩に力が入る情報は渡したくない。だから、死者が出ていることと、審査員が強者であることは言わないでおこっ――……」
あれ、なんか、ドアの方から視線。
振り向くと、扉が微かに開いていた。
――――バンッ
「あっ」
「…………」
…………ドアに隙間が出来ていたと思ったら、いつの間にかリヒト達がグレール引き連れ戻ってきていたみたい。
…………まさか、聞いてない、よな?
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