第428話 天才研究員

 懐に入れていたナイフを取りだし、瞬時に投げ魔法を発動。

 動き出した地面は、投げられた風魔法が纏われているナイフにより、霧散する。


 これ以上暴れられては困る。そう思い、ソフィアは唖然としているブライアのうなじを殴り気絶させた。


 地面に落とし、背中を向ける。

 地面に落ちているナイフを拾いあげ、アンキもソフィアに続いた。


 先程、邪魔されて入れなかった建物の中に入ると、中には誰もいなかった。

 あるのは、中央にテーブル、壁側には棚や椅子。

 誰かが暮らしていたような痕跡はあるが、肝心の人がいない。


 気配を探るため、ソフィアは目を閉じた。

 何を思ったのか、銀色の前髪で隠していた右目を露わにする。


 右目辺りは黒く染まり、ソフィアは醜いと思っていた。

 これが呪いだと考えたが、すぐに解除しようとはせず、少しでも力を軽減する方法を考えた。


 その結果、隠す事。


 次に考えたのは、利用方法。

 魔法も魔力もないソフィアは、誰よりも劣っている。

 魔法が当たり前の世界で、魔法が使えないのはどうあがいても不利だ。


 なら、呪いだろうとなんだろうと、使えるものは使う。

 正しい使い方をすれば、呪いだろうと自分の味方。


 それで編み出したのが、


 左目を閉じ、右目を開ける。

 漆黒に染まっている闇の瞳が、家の中を見回した。


 景色は、左目と変わらない。

 だが、一か所に黒いもやがあふれ出ているのが見えた。


 近付くと、靄のように見えていたのは、文字だった。

 人の負の感情が、床下の方から溢れ出ていた。


『出来ない』

『私には才能がない』

『だから私は殺される、殺されるんだ』


 そんな文字が次々溢れ、ソフィアは顔を歪ませた。

 久しぶりにしっかりと人の負の感情を見てしまったため、頭痛が走る。


「大丈夫っすか?」

「問題ない」


 腕を組み、床下を見る。

 左目を開け、ため息を吐いた。


「ソフィアさん、ま、まさか…………?」

「そのまさかだ」


 右手で拳を作ったかと思えば、文字があふれ出ている床を見据える。

 瞬間――……


 ――――――――ドカンッ!!!


「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 床を壊したのと同時に、女性の叫び声が響き渡った。


 ※


「もぉぉぉお!! ソフィアさん! 来るなら一言くださいよ! さすがに驚きました!」

「そんな話より本題に入るぞ」

「私の話も聞いてください! もぉぉおお!!」


 ぷー!! と、頬を膨らませ怒る女性を無視し、ソフィアは壁側に座った。


 アンキは、ソフィアにおびき出された女性を見上げ、ぽかんと口を開けて茫然としてしまった。


 女性は、どういう原理で動いているのかわからない、空中に浮かんでいる車いすに座っている。


「ソフィアさん。もしかして、この人がソフィアさんの暗殺道具などを作っている天才研究員である、エヴリンっていう女っすか?」

「そうだ。こいつに任せれば何でも作れる」


 滅多に人を褒めないソフィアがここまで褒めるとはと、アンキは目を丸くする。数回瞬きした後、エヴリンを見た。


 ソフィアを見て、頬を淡く染めているエヴリンを見て、すべてを察したアンキは、余計ないことを言わないようにしようと、口を閉ざす。


「またこの人も、難儀な人を選んだものっすねぇ…………」

「何か言ったか? 難儀?」

「なんでもないっすよ。それより、ここに来たという事は、何かを頼むんすか?」

「あぁ」


 言いながらソフィアは、エヴリンをを見た。


「今、少々厄介な事に巻き込まれてな。使えるもんを増やしたいんだが、相談してもいいか?」

「も、もちろんですよ! 私に出来る事があれば、何でもします。ですが、まず一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 周りを見ながら、エヴリンは問いかけた。


「なんだ」

「たしか、私を守るため、一人の殺し屋を雇っていたはずなのですが…………」

「ブライアのことか。外で寝てるぞ」


 当たり前のように言うソフィアにため息を吐き、エヴリンは一応外を見る。

 ソフィアの言っていた通り、地面に転がっているブライアを見て、またしても浅いため息を吐いた。


「ソフィアさん相手ですもんね、仕方がありません」


 言いながら近づき、うまく傾かせるとブライアを膝に乗せ、戻ってきた。

 影側に寝かせ、元の位置に戻る。


「お時間いただきました。では、本題に戻りますね」


 膝に手を置き、ソフィアを見た。


「先ほど言っていました、厄介ごととは何でしょうか?」


 真剣なマン差しを送りながら問いかける。

 ソフィアは少し考え、首を横に振った。


「説明は省く」

「そうですか……。いつもそう言って私には教えてくれませんよね。殺し屋をやめた日だって、何も言わずにいなくなってしまって……。私も一緒に行きたかったですよ」


 顔を逸らし、ソフィアは何も言わない。

 微妙な空気になってしまい、アンキは二人を交互に見た。


「…………昔の事を話しても意味は無い。頼みたい事があるんだ」

「…………わかりました。どのようなものをお考えでしょうか?」

「武器にも防具にも使用できるものを頼みたい」


「防具……」と、呟きながらエヴリンは考え込む。

 ソフィアは目を閉じ、考えがまとまるのを待つことにした。

 アンキも余計な事を言わず、だんまり。話が進むのを待った。


 その間、ソフィアの品減関係について思い出しており、クスッと思わず笑う。


「ソフィアさんの人間関係って、面白いっすねぇ」

「黙れ」

「聞こえていたことにおどろきっす~」


 頭を殴られ、アンキは気絶してしまった。



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