第419話 安らぎの時間になるはずだったのに…………
「殺したい」
「別に、殺すなら殺してもいいよ? 知里なら簡単に僕を殺すことが出来るでしょ」
「僕はもう死んでるよ〜」
「二人してリアル事情を冗談に挟むなよ。言い返すの難しいわ」
はぁぁぁぁぁぁ……。
なんか、アマリアって、必ず俺が弱っている時に現れるよな。
少しは感じるんだろうけど、弱っているとわかっているのなら、ほっといてほしいとか思うのは俺の身勝手か?
「二人? あぁ、グラースがいるんだ、気づかなかった」
「お前と同じタイミングから居たらしいぞ。というか、着いてきたんだろう」
グラースを見ると、「テヘ」と舌を出し誤魔化した。
…………幽体出なければ殺してた。
「まぁ、いいや。それより、一人でたそがれていた理由って、オスクリタ海底の景色を見てしまったから?」
「まぁ、な」
「それなら、なんでわざわざオスクリタ海底が見渡せるこんな場所に来たの?」
「それ、俺も後悔していたところだからあえて口に出さないで」
俺を励ましたいのか、落ち込ませたいのかどっちだ。
いや、落ち込ませたいと思ってんならほっといてくれよ。
落ち込ませようとするな、苦しいって。
深くため息を吐いていると、アマリアが何かを差し出してきた。
な、何だ?
「…………煙草?」
「そう。あまり吸わないけど、たまにはいいんじゃないかなって思って」
いつの間にかアマリアは、煙草を咥えている。でも、火はついていない。
素直に受け取り、煙草を咥える。すると、アマリアからひと言、ツッコミたくなるような言葉を発してきやがった。
「火」
「………………………………はぁ」
グラースは大爆笑。もう、どうでもいいです。
久しぶりのニコチンだ。
別に、煙草がないと生活できないとかはないけど、あるとあるでいいな。ストレス発散になるわ、これ。
…………やば、はまりそう。
「アマリア~、酷いですよぉ~。なんで私を一人にするんですかぁ~」
「あれ、アクア?」
アクアが眠そうに目を擦りながら俺達の元にやって来た。
声も子供みたいに甘い。やっぱり、見た目は大人、心は子供だな。
「起きたんだ」
「なんか、寂しくて目が覚めましたぁ~」
「心寂しくなったかな」
アマリアがアクアの頭を撫でると、「えへへ」と、喜んだ。
今はアマリアも大人の姿だから、兄弟の会話を見ているような感じだな。
煙を吐きながらグラースと見ていると、アクアが眉間に皺を寄せて、俺を見た。
しかも、鼻をつまんで。いきなりどうした?
「なんで知里、たばこを吸っているんですか~」
「待って? なんで俺だけに言うの? 頭を撫でているアマリアだって煙草吸ってんじゃん」
言うと、今気づいたのか、アクアがアマリアを見た。
おいおい、今かい。
近づいた時、というか一目見れば煙草を吸っているとわかるだろうが。
「アマリア、なんでたばこ…………」
「ごめんごめん。アクアが来るとは思っていなかったんだよ。でも、もう少しだけ楽しませて。今しかゆっくり吸えないだろうし、心を休ませたい」
白い煙を吐き出し、アマリアが言う。
アクアは険しい顔を浮かべたけど、今以上のことは言わない。
少しだけ距離を取り、アクアが満天の揺れる星空を見上げた。
「海の中でも、星空って見ることが出来るんですね~」
「今日が満月だからじゃないか? 光が強いから、ここまで届いていると思ってた」
今まで見えなかったもんが見えるから不思議には思ったが、満月だからという理由があれば特に悩まんでもいい。
「…………あの、なんでお二人は、こんな所にいるんですか?」
「俺は、一人になりたいと思って。あと、普通に寝れなかっただけ」
「僕は、知里が気になって来ただけ」
「おい」
そこは、こう、なんか、隠せよ。
普通に何も言えなくなるわ。
やめて、さっきまでとはまた違う胸糞悪さが広がるから。
『ふふ』
(「笑ってんじゃねぇぞ、グラース」)
二人に見えていないのが本当に都合いいな、こいつ。
「アマリア、知里の事、本当に好きなんですねぇ?」
「それはアクアもでしょ?」
「はぁい!! また、命を懸けた戦いをしたいですぅ~。手加減などしなくても良い、思いっきり魔法をぶつけられる戦いがしたいです~!!」
ウキウキしながら言うんじゃねぇよ。
マジでこえーわ。というか、絶対に戦わないからな?
アクアはもう敵ではないし、無駄な争いは絶対にしたくない。
「アマリアは、なんで知里が好きなんですか?」
アクアからの質問に、アマリアは固まってしまった。
煙草を咥えながら固まるのは、少しばかり危険じゃないか?
もう、二人の会話に耳を傾けているとこっちが疲れる。
ほっといて煙草を楽しんでいると、アマリアがやっと口を開いた。
「んー、多分だけど、安心するんじゃないかな」
…………アクアからの視線が痛い。
怪訝そうな顔――と、言うわけではないけど、なんか、視線が痛い。
やめてくれ、俺をそんな、変な会話に巻き込まないでくれ。
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