第417話 解決策
「理不尽があるから、助け合える? どういうことだ?」
「理不尽という言葉を口に出すのは簡単だ。この世界には、理不尽は探さんくてもたくさん転がっている」
紅茶を一口飲み、カケルが一息つく。
「だが、そんなことに嘆いているだけだと、苦しくないか?」
「くる、しい?」
「そうだ、理不尽と思うのなら抗う。一人が難しいのなら、誰かに助けを求める。抗いたくないのなら、逃げればいい。理不尽だ、理不尽だ、と嘆くのではなく、助け合い、逃げるだの抗うだのをすればいいんだ。それが、人生を謳歌するための秘訣だろう」
ケラケラと笑いながら当たり前のようにカケルは言い切った。
嘘でも偽りでもない表情に、イルドリは目を微かに開いた。
「嘆くのではなく手を取り合い、助け合う。それが、人間の生き方なのか?」
「皆が皆、そうではない。人間という生き物は複雑だ。必ず、俺の考えに反発する者はいる。それが辛い所であり、面白い所でもある。何でもかんでもマイナスに考えるより、少しでも抗った方が楽しいだろう」
「これも、俺の考えだがな」と付け加え、クッキーを頬張る。
美味いなと零し、今度は紅茶を飲んだ。
カケルの考えは、イルドリにとっては目から鱗。素敵な考えだと思い、自然と笑みを浮かべた。
「ありがとう、凄く助かった」
「助かったのなら良かった。俺はただ、俺の考えを伝えただけだけどな」
その後は、特に意味のない話をした。
楽しく笑い合う二人の声は廊下にも聞こえ、心配で見に来たアンジュとアンジェロは、微かに笑い合った。
※
天候が回復したのは、次の日の朝。
カケルは、まだ眠っているスペクターを抱え、地上に帰った。
残されたイルドリは、雲一つない青空を見上げ、清々しい表情を浮かべた。
「父上、見ておりますか。私、頑張ってみます。一人では無理ですが、必ず皆で力を合わせ、立派な王になって見せます」
宣言すると、ガーネットが空を飛んでやってきた。
「もう、大丈夫なんだな、イルドリ王」
「まだ、王ではない。――――心配かけてすまなかった。もう大丈夫だ!!」
「そうか!」
満面な笑みを浮かべ、ガーネットは拳を突き出す。
イルドリも拳を作り、こつんとぶつけた。
二人は笑い合い、青空へと白い翼をはばたかせ、飛んだ。
もう、同じ事件は起こさせず、親友であるクロヌを救うため、イルドリは地上についても調べるようになった。
※
「……――と、こんな感じだ!! 恥ずかしい場面もあったが、許してくれ!! 今はもう立ち直っている!!」
結構、辛い道を歩んできていたんだなぁ。
というか、へぇ。クロヌが、あの、クロヌがそんなことを?
「信じられないね」
「アマリアは、特にそうだよな。昔のクロヌではなく、変わっちまったクロヌと出会い、過ごして来たんだ。そう簡単に信じられないだろう」
それにしても、そうか、そういう関係性なのか。
聞かなければ良かったなぁ、殺しにくくなった。
「おい」
「なんだ!!」
ソフィアが腕を組みながら、イルドリ王を呼ぶ、何を聞くつもりだ?
「クロヌの事は、殺してもいいのか?」
「それを聞く度胸よ、さすがだぞ、ソフィア」
確かに、殺す形で動いた方がこちらとしてはやりやすい。
殺すより、殺さないで捕獲の方が難しいというしな。
だが、今のソフィアからの質問でイルドリ王は険しい顔を浮かべてしまった。
これは、殺さないでほしいと言われるな。
俺も、正直、めっちゃ冷静に考え、正直に言うと!! 殺さずに済むのならそれに越したことはないと考える。けど、現状と理想は違う。
選択肢は、できるだけ多くしたいのも素直な気持ち。
「そうだなぁ。出来れば殺さないでほしい!! 今は外道な行いをしているらしいが、それでも殺さないで、生きて罪を償わせてやりたい!!」
「それは、地上で起こっている事態を把握しての言葉か?」
「すべては把握しきれてはいないだろう! だが、私はどんな事態を起こしていたとしても、殺すという選択肢はない! フォーマメントに連れ戻してでも!! 私は、クロヌを元の優しい友人に戻したいのだ!」
ソフィアが険しい顔を浮かべてしまった。
たぶん、何を言っても意見を変える気はないと察したんだろうな。
イルドリ王の真剣な瞳、口調。
意志が固く、俺達の言葉は届かないだろう。
必ずしも殺さなければならないというわけではないし、決まりもない。
殺すも殺さないも、俺達の自由。自由だからこそ、今のこの状況は、困る。
「理解はした。だが、お前の協力はしない。俺は、殺すぞ。相手がどんな奴だろうと罪を犯したのなら、それ相応の対処をする。それが、クロヌとやらの考えなんだろう?」
管理者の考えに従うということか、なるほどな。
「話しているところ申し訳ありません。少しよろしいですか」
え、グレール? さっきまで呪いの呪文をつぶやいていたのに、ちゃっかり聞いていたのか?
なんだろう。今のグレールからの言葉って想像できない。
頼むから、真面目な話にしてくれよ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます