犯した罪
第389話 地下掃除
青空に囲まれている島、フォーマメントではアンヘル族が争いごとを起こさず、秩序を守り生活をしていた。
白い翼を広げ、空を飛ぶ男女。
翼を使わず、花壇に囲まれている道を歩く親子。
和やかな空間が広がり、平和そのもの。だが、そんな和やかな空気に似つかわしくない音が上空から聞こえていた。
争いごとを好まないアンヘル族だが、二人の男性が片手に光の刃を宿し、何故か空中で戦っていた。
ガキン、ガキンと音を鳴らし、火花を散らす。
「技の制度を上げたな、クロヌ!!」
「余裕だな、イルドリ。その余裕、どこまで持つか」
楽し気な声を上げながら戦闘を行っているのは、イルドリ=メイヴェンと、クロヌ=ヴァルテンの二人。
滅紫色の短髪を揺らし、藍色の瞳を輝かせているイルドリは、素直にほめているつもりだった。
だが、受け取った青年、クロヌは眉間に深い皺を刻んだ。
漆黒の髪を翻し、同じ色の瞳は苛立ちを含めイルドリを見る。
お互い引かぬ攻防を繰り返しており、終わりが見えない。
周りを飛ぶアンヘル族は、「またか」というような表情を浮かべ、我関せず状態。
一部のアンヘル族は、興味ありげに目を輝かせ二人を見上げていた。
そんな二人へと近づく、一人の男性。
滅紫色の髪をハーフアップにし、王族の服を身に纏っている。
戦闘を行っている二人を目にし、額には青筋が立て、口は怒りで歪んでいた。
拳は強く握られ、白い翼を大きく広げる。
気配を消し、戦闘を繰り広げている二人に近付いた。
淡い光を両手に灯し、二人に向かって振り上げた。
瞬間――……
「何しとるんだ馬鹿どもがぁぁぁぁぁああああ!!!」
――――ゴッチーーーーーーーーーン!!
振り上げた拳は、二人が攻撃を仕掛けようと距離を縮めた瞬間に落とされた。
痛々しい音が辺りに響き渡り、イルドリとクロヌは頭を押さえ、涙目になり痛みに耐えた。
「な、なんだ…………」
「この痛み……来てしまったらしいな!!」
二人が顔を上げると、目の前には腕を組み仁王立ちのような姿で翼を広げている男性、シリル=メイヴェンが怒りの形相で飛んでいた。
「父上…………」
「まったく……。何をしているのだ、無闇な戦闘は控えろと幾度となく言ってきただろうがぁぁぁぁあ!!!」
腹から声を出している為、大きく、近くで聞いている二人は耳が痛くなる。
両手で塞ぐが、全てを遮断できず眉間に皺を寄せた。
「シリル王……。また、邪魔をしおって……」
――――ゴチン
「懲りぬな、クロヌよ」
「こんの……」
またしてもクロヌの頭に拳が落ちる。
たんこぶが二段となり、隣にいたイルドリは「おぉ……」と、後ずさる。
「今回は、どちらが先に手を出した」
シリルは、黄緑色の瞳を二人に向け問いかける。
最初、お互い顔を見合せ沈黙、罪を擦り付けるようにお互いを指差した。
「「なっ!!」」
お互いに行動が予想外だったのか、驚愕。
言い合いが始まり、放置しているとまたしても手が出そうになる。
「貴様ら……」
殺気をシリルが放つとすぐに鎮火。
お互い怒りが収まらない中、顔を逸らしふてくされた。
「はぁぁぁぁぁあ……。まぁ、大体は予想が出来る。またクロヌが突っかかり、イルドリが受けたのだろう。毎回毎回、飽きないな」
シリルの言葉に否定も肯定もしない二人。
ふれくされたまま顔を逸らし続ける。
「今回は、まだ被害が出ていないため、城の地下掃除だけで勘弁してやる」
シリルの言葉は、二人の顔面を青ざめさせた。
拒否しようとしたが、それを許すほどシリルは甘くない。
問答無用で二人を城の地下に閉じ込め、掃除が終わるまでで出る事を禁じさせた。
※
「最悪だ……」
「まったくだ。なぜ私がお前と掃除をしなければならないのだ!!」
「我が聞きたい……」
二人は言い争いをしながらも、じめじめとしている地下牢の掃除をしていた。
ひんやりとした空気に、真っすぐ続く牢屋。
光源である松明は、等間隔で壁に備え付けられており、淡い光が灯される。
そんな中で、二人は箒と雑巾を片手に掃除。
クロヌは始めて早々飽きて、箒の持ち手に顎を乗せていた。
「さぼるな、クロヌよ!! 私だけにさせるでない!!」
「うるさいぞ……。こっちはやりたくもない掃除をさせられているのだ、休憩くらい良いだろう」
「まだ初めて五分だ!! 休憩には早すぎるぞ!!」
「真面目過ぎてうざいな」
「早く終わらせ、地下から抜け出るためだ!! 正直、ここは胸糞が悪い!!」
イルドリが言うように、地下牢は寒い。それだけでなく、血なまぐさい臭いが充満している。
長くいれば気分が下がってしまう場所だ。
ため息を吐きながらイルドリは、雑巾を片手に檻を拭く。
地下牢には、今まで違反を犯したアンヘル族が閉じ込められている。
今も、うめき声や、助けを求める声が響いていた。
「やぁ、また掃除をしているのかい?」
掃除を進めていると、イルドリに声をかけるアンヘル族がいた。
声をかけられ視線を向けると、一人の老人が手を振りイルドリを見ていた。
余裕そうに胡座をかき、ニコニコと笑みを浮かべ二人を見た。
「話しかけるでない」
「そんな悲しいことを言うな。老い先少ない老人の相手くらいしておくれよ」
イルドリが睨んでも、老人は余裕そうに笑うだけ。
険しい顔を浮かべ無視を決め込んでいると、老人は気になる事を口にした。
「主、今後大きな事件に巻き込まれるぞ」
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