第303話 心配性が加速しているような気がするぞ

 戻ってきた俺達に駆け寄るいつものメンバー。


「今回は危なかったね。クラウドが覚醒してよかったって感じかな?」

「まぁ、そうだな」

「? 何かあった?」

「…………まぁ、あったな。戦闘とは関係ない所で、だけど」


 フィールドには、もう準備が整っている二チーム。

 相手はもう負けを覚悟しているのか、構えが甘い。


 ソフィア達は、今までと変わらない。

 余裕があるような、構え。


 見た目だけなら隙だらけに見えるけど、絶対に突っ込んではいけない。そう思わせる佇まいだ。


「…………なぁ、アマリア」

「なに?」

「ソフィア・ウーゴの情報、少しでもいいから教えてくれねぇか?」


 ※


 またしても瞬殺だった試合を見たあと、俺達はソフィアについて聞くため、少し離れた建物の影に集合した。


「ソフィア・ウーゴは元殺し屋で、今まで受けた依頼は全て完ぺきにこなしてきた。裏社会では名前を知らない者はいないと言われているほどの人物だったはずだよ」


 空中で座り、アマリアが簡単に教えてくれた。


「そいつがなぜ、今、表舞台に出てあんな子供の遊びみたいな事をしているんだ?」

「それは、さすがに本人に聞かないとわからないかな」


 そりゃ、そうか。


「なら、なんで殺し屋を辞めたんだ? 続けていた方がいいだろう」

「噂では、最後の依頼でへまをやり、殺されかけたところを生き長らえたと流れているみたいだよ」


 嘘とも言えないが、信じられるような噂でもないな。信憑性にかける。


「ところで、知里はなんでいきなりそんなこと聞いてきたの?」

「んー? あー、なんか、俺、警戒されているような気がするんだよ、見られていたし。それに、さっき、声をかけられた――――のかもしれない」

「すぐに自信なくさないでよ」


 アマリアにつっこまれたが、こればっかりは仕方がない。


 だって、俺以外の奴に声をかけていたかもしれないじゃん。

 俺の隣にいたクラウドに声をかけていたかもしれないじゃん。


「それで、なんて声をかけられたの?」

「『待っているぞ、異世界人』とか言っていた」


 言うと、目を開きアマリアが「えっ」と困惑の声を零す。

 リヒトとアルカも口をあんぐり、驚き何も言えない。


 まぁ、そういう反応になるよな。


「…………異世界人って、どういう意味で言ったのか、気になるね」

「おう。だが、直接聞いても、話してはくれないだろうし、普通に怖い。元殺し屋に声をかけるの」


 しかも、ただの殺し屋じゃなくて、有名な殺し屋。

 名の知れた殺し屋。

 普通に声をかけるなんて、絶対に無理。


「怖がる必要はないよ。殺し屋としては唯一無二の逸材だけど、普段は天然らしいから」

「なに、その女受けありそうなギャップ、いらねぇーよ」


 他の奴らが口を閉ざして何も言わなくなってしまった。

 沈黙、辛いんだが?


「…………今回、決勝まで行ったら、戦うことになるよね」

「まぁ、良いのか悪いのか。当たるとしたら決勝だな」


 このまま順当に行けば、必ず当たる相手。

 賞金の為にも負けるわけにはいかないが、中々に厄介だな。


「どっちにしろ。知里に目を付けているのなら、今後もアクションをしてくるでしょ。こっちは、勝ち進むことだけを考えよう。今は、それしかないよ」

「それもそうだな」


 またアクションを起こされるのも怖いけど、アマリアの言う通りだ。

 それに、決勝で勝つことが出来れば、俺の情報を聞きやすくもなるだろう。


 相手は俺の事を気にしているみたいだし、話す機会は必ず訪れる。

 不本意だが……。


 ――――――――ワァァァァァァァァアア!!


「っ! な、なんだ? 歓声が…………」

「盛り上がってるね。少し、覗きの行こうか」


 アマリアの言葉でフィールドに戻る……と?

 え、フィールドに……。


「氷の、竜?」


 フィールドを覆いつくすほどの大きさはある、氷の竜。

 俺の、Dragonflameダーク・フレイムに似た魔法が発動されていた。


 だが、それだけじゃない。

 その氷の竜には、蔓が巻き付かれ身動きを封じ込められていた。


 魔法同士のぶつかり合い、風圧が観客達を煽り、視界を覆う。


 こうなっちまったら、魔力量が多い方が勝つだろう。

 互角だった場合は、先に体力がなくなった方の負け。



 ――――グワァァァァァァァアアアア!!!



 っ、氷の竜の咆哮。

 鼓膜が激しく揺れ、痛い。


「あそこまで勝ち上がると、ここまでの実力になるんだね。さすがに見誤っていたかな」


 アマリアも、少し困惑しているみたいだ。

 確かに、やばい。さっきまでは決勝までは行けるとは思っていたが、これは話が変わるぞ。


 次は準決勝、どちらかと戦う事になる。

 どっちも、厄介だ。厄介、だが……。


「…………へぇ」

「っ、カ、カガミヤ?」

「カガミヤ、さん?」


 二人から困惑の声、俺の表情を見て戸惑っているらしい。


「…………楽しそうだね、知里」

「あぁ、命懸けじゃないのは気が楽だし、背負っている物がねぇーしな。やりたいように出来るのって、たまんねぇなぁ」


 管理者との戦いは、ガチの命懸け。

 流石に精神的に参る。


「――――あっ」

「おっ、決着つきそうだな」


 やっぱり、竜は強いらしい。

 徐々に動きを封じ込めている蔓を引きちぎり始めた。


 何とかペアの人に氷の竜の動きを封じ込む魔法を繰り出しているが、相性が悪い。

 相手は水だもんな、氷には今ひとつだろう。


 広範囲の水魔法、波が氷の竜に覆いかぶさる。だが、そこまでのダメージはない。


 そんな抵抗など無意味というように、氷の竜は蔓を完全に引きちぎり、復活。

 大きな牙をむき出しにし、襲い掛かった。


「ま、参った!!!」


 氷の牙が二人を食らう一歩手前、チームの一人が声を張り上げ降参。

 それにより、動きを止めた。


 ここで、戦闘は終わり。

 迫力のある戦闘で、テンション上がったなぁ。


「知里、本気を出すのは控えてよ? まず、相手の実力を自分で感じてから考えて」

「え、なんで? あれだけの奴だぞ? 最初から本気の方がいいだろう」

「何度も言うけど、知里は化け物級の魔法、魔力を持っているの。最初から全力出していいのは管理者相手と、ソフィアチームだけ。他のチームの場合は、殺す可能性があるからやめて」


 顔を近づかせ、めっちゃ圧をかけて来るアマリア君。

 凄むなって、子供の顔だからって普通に怖いよ。


「返事」

「わかったって…………」


 アマリア、最近心配性になってないか?

 お前は俺のおかんか。


「クラウドは本気出していいよ。というか、無傷でいるには手加減していたら危険でしょ」

「言われなくてもわかってる」

「なら、良いよ」


 やれやれ、次の戦闘を確認しておこうか。

 次の相手は――――明日公開されるらしい。


 今日は、ここで戦闘が、終わり…………え?


「気合、入れていたのに」

「ドンマイだぞ、カガミヤ」


 肩をポンとするな、腹が立つわ!!


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