第301話 選択をミスったかと思ったが、離れなければ問題ないだろう

 クラウドにも霞魔法が発動していることは伝えたいが、声に出すと相手に悟られる。


 こういう時、アマリアの音魔法がないのは厄介だな。

 声を出さずに自分の思考を相手に伝える事が出来るのは、めっちゃ使い勝手良かった。


「避けんじゃねぇぇぇぇえ!!!」


 光の刃の連撃、なんとか二人は避けているが徐々に動きが鈍くなっている。


 …………クラウド、本気で殺す勢いだな。

 これは、霞魔法に気を取られていると相手の命が危なっ――……


「っ! なにぼぉっとしてやがる!!!」

「えっ」


 後ろを向くと、濃い霞が俺に向かって襲い掛かろうとしてきた。


 まずい、避けられない。


 ――――よしっ、喰らってみっか。


 クラウドが俺を助けようとしているが、視線を送るとすぐに止めてくれた。

 そのまま霞魔法に捕らわれ――――つっめた!!!!


 水しぶきを勢いよく食らった感じ!!

 なんだよこれ!!


 思わず閉じてしまった目を開けると、辺りが暗い景色に切り替わってる。

 白い何かが周りに漂い、触れようとすると霧散する。


 これは、幻覚、か?


 ────っ、後ろ!


 振り向くが、誰もいない?

 気配を感じたはずなんだが……。


「…………fistflameフィスト・フレイム


 ん? 今、あまり誤差がなかったような気がしたが、気のせいか? 

 まぁ、いいか。炎の拳を握り、周りに意識。


 さっきの気配は、あの少年のうちの一人だろう。一人分の気配しか

 感じなかったし。


「…………」


 霞は、人に幻覚を見せる。

 俺の、heathazeヒートヘイズと似ていると考えていいだろう。


「どこかに飛ばされたのか、閉じ込められたのか。気配を探れば自ずとわかるはず」


 目を閉じ、視覚情報を遮断。

 気配と、微かに聞こえるかもしれない音に集中。



 ――――――――見つけた。



wavewaterウェイヴ・ワーター


 水の波を、気配が強く感じた方向に勢いよく放つ。

 すると、闇は弾かれるように消え、景色は元々いたフィールドに戻った。


 俺が波を放った先では、少年二人が刀を重ね双魔を発動中。


 クラウドは――――え、端の方で待機してる? 頬を膨らませ不貞腐れているし、なにしてんだよ。


 現状が理解出来ないが、まぁいい。


 驚いている二人に向けて、波を放つ。

 避けようとするが、広範囲なため避けきれず、フィールドから押し出され二人は場外。



 ――――ピィィィィィイイイイイイ!!!!



 試合、終了。

 無事に勝つことが出来て良かった。


 …………さて、クラウドへ尋問タイムだ。


「おい、クラウド。なぜそんな所で待機してやがる。俺が双魔にかかっている間、何をしていた?」

「……………………別に」

「別にじゃねぇだろうが、何をしていたと聞いている」


 ――――?

 あ、あれ。こいつの頬、傷がついてる。


 刀傷っぽいな。

 血が流れているみたいだが、そこまで深くはなさそう。


「頬、掠ったのか?」

「お前に気を取られた時に。……そこから、何も出来なくなった」

「何も出来なくなった?」


 そこで唇を尖らせても意味は無いって。

 なんでそこまで不貞腐れるんだよ、子供か。


「あの、早くここから離れてほしいのですが…………」

「あ、さーせん」


 ふてくされているクラウドを引っ張り、フィールドから降りる。

 すると、観戦していたリヒト達が駆け寄ってきた。


「お疲れ様です! 怪我などはありませんか?」

「俺は特にない。無駄に魔力使った以外は想定内だ」


 後ろを向くと、クラウドがまだふてくされている。

 なんでそこまでふてくされているんだよ、マジで理由を話してくれ。


「頬、怪我をしているみたいだね。そう言えば、剣で切り付けられた時から大人しかったかも。もしかして、光の刃って、無傷の時しか発動できないとか。そういう縛りがあるのかな」

「え…………」


 アマリアの言葉でクラウドの肩がビクッと動いた。

 図星、つまり無傷じゃないこいつは攻撃が出来ない役立たず?


 え、うそ。

 それって、マジ?


「…………怪我さえしなければ問題ねぇし」

「今回は無傷では終わらなかったみたいだけどな」

「うるせー」


 うっそだろ。

 これって、選択ミスったか?


 いや、でもこいつの言う通り、無傷ならこいつは普通に強い。

 今回は、俺も霞魔法で一時的に身動きを封じられただけ。

 二人が揃っていれば無傷で何とかなるだろう。


「今回のは霞魔法が初見だったから、知里も困惑したところがあったかもしれないけど、次からは大丈夫じゃないかな。今まで見てきたけど、霞魔法以外はそこまで警戒は必要なさそう。一組を除いて」

「はいはい。元殺し屋チームね。そいつらとは出来る限り早めに激突したいな」

「それは無理だと思うよ」


 言われてトーナメント表を確認すると、納得。

 どんなに勝ち進んでも、ぶつかるのは決勝になりそうだ。


 …………最悪。

 出来る限り早めに当たりたかったのに…………はぁ。


「次の戦闘のために体を少しでも休めた方がいいよ。リヒトの回復魔法でクラウドの頬を治してあげて」

「わかりました」


 リヒトが治そうと手を伸ばすけど、クラウドが苦い顔を浮かべた。

 治されるのは嫌なんだ。


「…………カガミヤさん」

「なんで、俺を呼ぶ」

「攻撃されませんよね? 私」


 …………なんでどいつもこいつも、何かあれば俺の名前を呼ぶ。

 俺だって、出来る事と出来ないことがあるんだ。名前を呼ばれても困る。


「治してもらえ、クラウド。次の戦闘、お前を待機させることになるぞ」

「…………チッ」


 よし、素直に治されているな。

 俺も次の戦闘のために準備でもしておこう。

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