第79話 こんなに早く起きる意味を教えてください

 何とか話し合いは出来た。

 今回のモンスターは本当に骨が折れそうで正直行きたくないけど、これを乗り越えないとここまで来た意味がない。


 諦めれば金ももらえないし、報酬もない。何もないまま帰る事になる。


 ここまで来たのに手ぶらで帰るのは絶対に嫌だ、なにがなんでも金を持ち帰る。

 気合を込めていると肩を叩かれ、振り向くと無表情のヒュース皇子が立っていた。


「向かうのはいつだ」

「お前はいつがいいんだよ」

「今回ばかりは主の都合に合わせよう。巻き込んでしまった側だからな」

「そうか、まぁ、当たり前だな。聞いていた話と違うし、ここまでの譲渡があってもいいだろ」


 と言ってもな、いつがいいと聞かれても……。思い立ったら吉日という感じで行動して来たから困ったなぁ。

 明日とかに向かうのもいいと思うが、さすがに武器の調達とか、何か事前準備があるだろうし、すぐは無理だろう。


「リヒトとアルカは何か、事前準備とかあるか?」

「私は何もないですよ」

「俺も大丈夫だぞ」

「そうか」


 何もないのか。俺も特にないからなぁ。それなら、明日でも…………いや、今回の戦闘場は外。


 今、俺達がいるこの国の東に向かった先、巨大な樹木が立ち並ぶ場所にショスがいると聞いた。つまり、天候も戦闘に左右するだろう。


 今まではダンジョン内だったからあまり環境などは考えないで済んだが、こればっかりはどうする事も出来ない。

 少しでも自分に有利な環境で戦いたい。


「この異世界で、明日以降の天候を調べる方法とかあるのか?」

「それなら、ギルドの掲示板に一週間の天気予想が記載されている。確認するか?」

「そうだな、それを確認してから決めよう」

「わかった」


 アルカとリヒトには部屋で待っていてもらうようにお願いした。

 ついてきたところで意味はないからな、すぐに戻るし。


 道案内係として、ヒュース皇子には来てもらったのはいいが……。


 城から出ると、まぁ、人。

 人、人、人。あぁ…………人だぁぁぁあああ。


「顔色が悪いように見えるが、大丈夫か?」

「問題ないと言えないくらいには弱っている。人酔いするんだよ、俺。人が沢山居るところでは気持ち悪くなるの」

「それは一種の病ではないか? 一度医者に診てもらった方がいいと思うのだが…………」

「そこまでじゃない。人込みに行かなければいいという回避方法があるし、休めば治る。ただ、早く終わらせたいから、ギルドに急ぐぞ」

「わかった」


 無言のまま歩いていると、ギルドに到着。

 掲示板には、小さく一週間の天気予報が書かれていた。


 いやいや、こんなに小さいのかよ、言われんと気づかないって。他の情報に目が行くてっば……。


「えっと……、ほとんどが晴れみたいだな。なら、明日にでも行こうか。雨降っていたりしたら、地面がぬかるんで戦いにくいだろうし、視界も悪くなる」

「そこまで考えていたのか」

「当たり前だ。SSランクの冒険者でも逃げ帰ってくるんだろ? なら、用心に用心を重ねないと、今までの奴らの二の舞になるだけだ。それだけは避けたい」

「そうだな。なら、明日にでも行こう」

「あぁ」


 出立日は明日、今日はもう体を休め戦闘に備える。


 戦闘続きで身体は悲鳴を上げそうだよ。

 急いでランクを上げたい気持ちもあったけど、この依頼が終わったら少し休むか。じゃないと、体にも悪いし、効率が下がる。


「んじゃ、帰って体を休めますか」

「あぁ、明日はよろしく頼むぞ、チサト」

「お前もな、ヒュース皇子」


 ※


 ショスが住んでいると言われている森に、無事到着。

 思っていたより早くたどり着く事が出来た理由は、ヒュース皇子のおかげ。


 ヒュース皇子は朝、誰よりも早く起き、準備を整え。いつでも出発できるように馬車を準備してくれていた。

 俺が目を覚まして時にはもういつでも出れる状態になっていたし、アルカとリヒトも驚いていた。


「カガミヤさん、準備はいいですか?」

「俺の準備は出来ているよ、眠たいだけで」

「それは大丈夫ですか? これからSS以上のモンスターに出会うんですよ?」

「仕方がないだろ、まさかあんなに早く起きるとは思わなかったんだよ」


 起きたのは朝の六時。会社員だったとしても、まだ寝ている時間だ。俺は時間のぎりぎりまで寝ているタイプだったし、会社も家から近かったしな。朝はめちゃくそ弱い。


「中に入るぞ、集中しろ」

「わかったって―の」


 やる気満々だなぁ。はぁ、よし。

 いっちょ、頑張りますか。


 武器の準備は問題ない、スピリトも事前に出てもらっていつでも動けるように。

 リンクは今回出番がないと思うから休んでいてもらう。


 姿を出したところでうるさいだけだろうし。


 目の前に立ち並ぶ空を覆い隠すほど大きい樹木。この中で戦闘を行うのか。


 …………引火とかって、しないよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る