第71話 もう、予想外な展開はお腹がいっぱいだってば…………

「あのカガミヤさん? まだ体調が優れないですか?」

「え、そうなのか? まだ休んだ方がいいか?」

「…………なんでもない」


 俺は、俺は……。あぁ、あぁぁああ、黒歴史を作ってしまったぁぁぁぁぁああ。



 今俺達は、約束の場所に向かう為、表通りを人込みの中歩いていた。

 人酔いする場面なんだが、今はそれどころではない。


 俺は今日、二度寝をしてしまったらしい。

 それはいいんだが、目を覚ました時なぜか目の前にリヒト。手に違和感があり見てみると、俺が、リヒトの手を、握っていた。


 いつ、いつだ? 俺はいつリヒトの手を握った? 思い出せない……。


 死にたい。マジで、死にたい。寝た時の俺は何をしていたんだ、なんで自分より子供のリヒトに縋っていたんだ。


 誰か俺をころせぇぇぇぇえええ。


「もしかして、リヒトの手を握っていたのが気になっているのか?」

「黙れ」

「やっぱりか、だろうなと思ったわ」


 アルカがリヒトに聞こえないような声で言ってきやがる。しかも、ピンポイントに当ててきやがった。

 誤魔化せる頭が今はないんだからやめてくれ。


 ケラケラ笑っているアルカの頭に鉄槌でも落としてやろうかと考えた時、リヒトが前方を指さした。


「あ、もしかしてあの人かな?」

「ん? あ、本当だ」


 二人の視線の先、一人の青年が人込みを避けるように影に立っている。

 王族のような服装に、藍色の髪を一つにまとめている。金色の瞳は黒ずみ、生気を感じない。


 近づくと、相手もこっちに気づき近寄ってきた。


 ――――って、こいつ、え、こいつが待ち合わせ相手の皇子の側近? 

 側近なのか? 雰囲気的に皇子本人っぽかったんだけど、というか──……


「お前って、ギルドに居た…………」

「やっぱり、見えていたんだ」


 思っていたより高い声。中世的というか…………。


「ちっさ」

「……ほう」

「いった!!!!!!」


 こいつ!!! 容赦なく俺の脛を蹴りやがった!! なんなんこいつ!!

 だって、仕方がないだろ!! お前は俺の腰辺りだぞ!! 頭が腰辺り! 小さいと感じるのは仕方がないだろうが!


「私に向かってそのような事を言うなど、ぬしは恐れを知らん。一度牢に入れてやろうか」

「何が恐れを知らないだよ。なら、お前は常識を知らないの罪で牢へと入ればいい」


 何なんだよこの糞餓鬼。

 ……リヒトより小さいんじゃないか? なのに、態度はでかい。


「はぁ、まぁいいわ。ひとまず、今回の護衛対象である皇子に会わせろ。確か、ヒュースとかいう奴のはずだ」

「もう会っているぞ」

「もう会っているだと? 意味わからん事を言うな。俺は知らんぞ」

「この流れでわからないとは、これだから底辺は…………」

「自分が底辺だと思っている相手にわかるように話さないのはいかがですかね。いや、話さないのではなく、話せないの間違いかな? 悪いな、出来ない事を強引にさせようなどは思っていない、安心しろ」

「何だと? それぐらい出来る」

「だが、底辺である俺には今のお前の言葉は理解出来なかった。つまり、お前は誰にでもわかるように話せていない。それが意図的にかは知らんが、今の俺には、お前には出来ない事なんだと理解するしかないぞ」


 お、拳を握って怒りを堪えている様子。

 まだまだ餓鬼だなぁ、俺を挑発しようなんぞ百万年早いわ。


「…………わかった。誰にでもわかるように話そう」

「話せるんなら最初から話せや」

「その減らず口、黙らせてやる」


 おいおい、ここで乱闘を始める気か? 

 今俺達が話している場所が建物の影になっているとはいえ、乱闘騒ぎなどを起こせば一気に広がり収集が難しくなるぞ。


「私が、ぬしの護衛対象、ヒュース・アグリオスだ」

「何言ってんだお前」

「自己紹介をしただけだ」


 思わず口が滑ったが、え。こいつがヒュース・アグリオス? ヒュース・アグリオスって、たしか皇子なんだろ? 

 皇子がなんでこんな所で胡坐をかいてんだよ、城に戻れよ。というか、護衛対象が一人で出歩くなんて、護衛付ける意味なくねぇか?


「なんだ、まさか馬鹿にしていた相手が皇子という上位の立場で驚いたか」

「確かに驚いたな。まさか、今回の護衛対象がこんなちびなんておもわっ――どわ!!!!」

「ちびではない。少し、人より成長速度が遅いだけだ」


 くっそ、またしても脛を蹴りやがって……。

 弁慶の泣き所なんだぞここ、ふざけるな……。


「それを一般的にはちびという。お前は今いくつだよ」

「答える必要はない」

「隠す必要ないだろ二十五歳」

「なんで知っている!!」

「いや、護衛依頼の資料に書いていたからだが?」

「今すぐ忘れろ」

「無茶言うな…………」


 こいつが今回の護衛対象。あぁ、頭が痛くなってきた。

 これは確かに、依頼を断られても仕方がない。


「まぁ、いいわ。俺はこれからお前の護衛をしなければならない。お互い嫌だろうが、そこはお互い我慢するぞ」

「その必要はない、護衛依頼は無くなるからだ」

「……………………はい?」


 アルカとリヒトも驚いているが、俺が一番驚いているぞ。


 こいつは何を言っているんだ? 護衛任務がなくなるだと? 

 なら、俺達は何でここまで来たんだ、ダンジョン攻略を後回しにしてまで、なぜ俺はここまで来た?


「私は行くなど言っていない。親が勝手に決めた事だ、オスクリタ海底に住む王の娘と婚約など絶対しない。だから、私は行かない」

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