第46話 人には様々な過去があるが、外野が何か言うのはおかしいだろ

「ふぅ…………」

「お疲れさん」

「カガミヤもな!! 最後、助かったぞ。あいつの攻撃が逸れたおかげで背後を取る事が出来た」

「おう」


 戦闘が終わり、お互いに拳を合わせる。

 力を合わせて戦うのはなんとなく気持ちがいいな。

 全てを一発でやるのもすっきりするけど。


 俺とアルカで笑い合っていると、隣から重苦しい空気が流れ込んできた。

 おそるおそる見てみると、杖を掴み俯いているリヒトの姿……え?


「ど、どうしなんだ、リヒト?」

「私、何も出来なかった…………」


 …………あー、そういう事か。

 これ、どうしようか、アルカも苦笑を浮かべてるし。何か声をかけないといけないような気がする。でも、なんて声をかければいいんだ。


「…………えっと。リヒト、まだダンジョン攻略は始まったばかりだ、次があるよ」

「そこは『そんな事ないよ』と言うべきじゃないのか?」

「え、そうなの? なら、そんな事ないぞ」

「そのまんま……」


 アルカから呆れたように訂正されたから言い直したのに、さらに落ち込んでしまった。

 やっぱり、俺の言葉の方が良かったんじゃないか? 


「私なんて、本当になんも役に立たない。何も出来ない落ちこぼれなんだ…………。どうせ、私は…………」


 うわ、これはマジでめんどくさい。

 何が正しいの?


「私は攻撃魔法を一つも習得出来ず、援護も何も出来ないただの役立たず。私が存在する意味なんてないんだ…………」


 え、攻撃魔法を一つも持たない? そんな奴もいるんだな。


「リヒトは、援護に特化した魔法使いなのか?」

「そうなんだが……。どんなに偏りが合ったとしても、一つや二つは必ず攻撃魔法は習得できるはずなんだ。属性基本魔法は必ず攻撃魔法だし」

「リヒトは使えないのか?」

「使えない。攻撃魔法を一つも使う事が出来ないんだ。それを責められ、俺と組む前。一緒に冒険者になった人に捨てられたと言ってた」


 そんな過去があるのか、まぁ、あるわな。

 人それぞれトラウマや忘れたい過去はある。それを抱えるのは辛く、苦しいのもわかる。わかるからこそ、簡単に忘れろなんて言えないし、乗り越えろと言う気もない。


 俺も、乗り越えてないしな。


「――――リヒト」

「……?」

「前線で戦う俺達にとって、リヒトみたいな援護魔法に特化した奴は重要な人材だぞ、多分」

「多分…………」


 あ、さらに落ち込んだ。

 だ、だって。俺はまだまだ戦闘に関しては素人だぞ。

 ここで変に言い切ったら、逆にがっかりさせる展開になるかもしれないだろう。


「話しは最後まで聞け」

「はい」

「今回は、Bランクだったから何とかなっただけの話だ。以前、管理者が襲撃して来ただろう? そうなった場合、必ず回復魔法は必要だし、援護魔法も必須。必要のない奴なんて、存在しねぇよ」


 リヒトに向けて思ったことを言うと、顔を下げてしまった。


 まぁ、怖いよな、また裏切られるんじゃないかって。

 そう思っている可能性があるし、俺なら思うかもしれない。


 …………いや、思わないわ。

 裏切られそうになったら裏切るからな、俺。


「過去を忘れる事は出来ないし、忘れろとも言わない。たが、今もしっかり見てやれよ、リヒト。今のお前は本当に役立たずだったのか、何もしていないのか。それすらわかんなくなったら、お前は過去の自分に負けた事になるぞ」


 これ以上の事は言えない。これでも立ち直らないのなら知らん。

 それに、今の俺にはリヒトよりもっと大事な事がある。


「よし、俺は報酬を取りに行くぞ。どこだ、報酬」

「待て待て待て!! 報酬はリヒトが立ち直ってからでもいいだろ!!」


 リヒトにかけられる言葉を全て伝えたから、もう俺には用無いかなと報酬を探そうとしたのに、アルカに止められた。


 だってさぁ、これ以上何も出来ないし、言葉をかけられない。

 それなら、俺はもう用済み。報酬を探してもいいだろう。


 金だ、金。俺に金を寄越せ、ダンジョンや。


「…………はぁ。もう、カガミヤさん、酷いです。もっと私に構ってくださいよ」

「お前はただ構ってほしかっただけか? それなら俺ではなくアルカにでも頼め。俺は知らん」

「アルカよりカガミヤさんの方が嬉しいです」

「俺は嬉しくない」

「なんで俺が巻き込まれているんだよ、カガミヤにリヒト。さすがに傷つくぞ」


 なんかよくわからんが、リヒトは立ち直ったみたいだな。

 その代わりにアルカが落ち込んでいるが、もう知らん。


「報酬……どこにあるんだ? まさか、あの宝箱じゃないよな?」


 二人に聞くと、首を同時に傾げてしまった。


「さすがにそれはないと思うんだが……。確実にミミックスだろう、あれ。壁に何か扉の取っ手的な物はないのか?」

「あったらとっくに見つけてるぞ」

「だよな」


 でも、アルカがそう言うって事は壁に何かあるって事だよな。

 何か、ボタン的な物があるのか? 薄暗いから、宝箱に近付かないように気を付けながら手探りで探すしかない。


「…………お?」

「何かあったか?」

「ボタンみたいなのがある。でっぱりというか」


 アルカが何かを見つけ壁を触る。

 リヒトも覗き込んで確認しているみたいだけど、首を傾げているな。

 隣に移動して見てみると、壁に赤いボタンがあった。


 これが、財宝へのボタンなのか?


「これ、押してもいいのかわからないな。カガミヤ、押してもいいと思うか?」

「そういう物はな――――押せ」

「え、ちょ!!!」


 ぽちっとな。



 ――――――――ガタン



「ガタン?」


 なんだ、今の嫌な音。まるでトラップが発動したような――……



 ――――――――バッ



「えっ」


 体に襲い掛かる浮遊感。下を確認すると、真っ暗な闇。

 え、床がなくなった? つまり…………。


「お、おちるうううぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!!!」


 三人の叫び声と共に、抜けた床へと真っ逆さまぁぁぁああ!!!!

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