第43話 俺からしたら楽勝だな

 武器と防具を調達した後、アルカと三十戦くらいし、眠りについた。


「ふあぁぁああ。ねむっ」

「昨日、私は止めましたからね、眠たいのは自業自得です」

「リヒトが冷たい」


 確かに、昨日は頑張り過ぎた。

 アルカにつられて三十戦もするんじゃんかったわ。後悔しても遅いけど。


 今は欠伸を零しながらダンジョンに行く準備。

 新しく買った武具も忘れないようにしないと。


 俺の武器である魔導書は持ち運ぶのに困るので、ベルトを買い腰に巻き付けて運ぶ事にした。ローブで隠す事が出来るから盗まれる事もないだろ。


「やっぱり似合うな、カガミヤ」

「それはどーも」


 さて、出る準備が出来た訳だし、さっそく向かうか。


「…………かっこいい」

「昨日も言ってくれたよなリヒト。どーも」

「少しは意識してくれてもいいのに…………」

「俺は犯罪者になりたくないんだよ、悪いな」


 頬を膨らませて怒っても無駄です。もっと俺より良い人を探しなさい。

 アルカとか裏切らなそうだし、いいんじゃないか?


 二人の褒め言葉を受け取りつつ、部屋から出ようとドアノブを回した。


「先行ってるぞー」

「あ、待ってください、カガミヤさん!!」

「置いて行こうとするなよカガミヤ!!!」


 ※


 地図を取り出し、一番近いダンジョンを探す。けど――……


「どれがここから近いのかわかりにくい地図だな」


 地図に書かれているのは、ダンジョンと何を示しているのかわからない翼のマーク。あとは村の名前程度。

 最低限の物しか書かれていないから、正直わかりにくい。


 俺が地図と睨めっこしていると、隣からアルカが覗き込んできた。


「なぁ、近場にワープできる場所とかないか?」

「え、なにそのシステム」

「ダンジョンの近くにワープが出来るゾーンが現れる事が多いんだ。そこにワープすれば簡単に移動できるぞ」

「簡単すぎてビビるんだが」

「楽でいいだろ」

「確かに」


 でも、そんなワープゾーンがどこにあるのかわからんくないか? この地図だと。


「これだと。このマークがワープゾーンになる」


 アルカが指さして教えてくれたのは、翼のマーク。

 あぁ、何の意味があるのかわからなかったけど。ワープゾーンだったのか、覚えていこう。


「んじゃ、ワープするぞ」

「お願い」

「任せた」


 水色の石がはめられている指輪を取り出したアルカ。

 それは確か、ダンジョンから村に帰る時に利用した指輪か?


「行くぞ。ムーヴ」


 唱えるのと同時に、体を光が包み込み、視界が覆われる。

 刹那、突如として体に浮遊感が――……


 ※


 ――――――――ドンッ!!


「っ。やっぱり、衝撃が酷い。体への負担を考えてほしいわ」


 無事目的地に到着。

 体に強い衝撃、本当にキッツいなぁ。おじさんの身体の事をしっかりと考えてくれ。


 えっと、ここは…………。


 周りを見渡すと、大きな建物以外何もないただの草原。一回目のダンジョンと少し似ている気がする。

 大きな建物は細長く、上を見上げても屋根が見えない。


 これは何階建てだ? 結構高いな。

 タワーマンション以上の高さは確実にある。


「では、早速行こうか」

「おう」


 二人が緊張気味に受け答えをし、目の前の建物を見上げる。

 やっぱり、緊張するよな。ここは命を懸けて上を目指す場所、緊張しない訳がない。


「カガミヤ、行くぞ」

「おー」


 …………まぁ、今回は間違いがなければBランクのダンジョン。

 ワイバーン級のモンスターは出てこないはず。


 アルカを先頭にしてダンジョン内に入り、周りの気配に警戒しながら進む。


 中に入ってすぐ、上に続く螺旋階段。細長い見た目だったから作り的にこうなるよな。空間が捻じ曲げられていなければだけど。


「階段を登ろうか」

「そうだね。途中にトラップとかがある可能性があるから気を付けよう」

「わかった」


 二人が俺を守るように前を歩いてくれるのは助かるが、この中で一番強いのは俺じゃねぇか? 守ってくれるのなら俺は別にいいが、無理はするなよ?


 ・

 ・

 ・

 ・


 カツン、カツンと。三人の足音が響く階段。今のところトラップ的な物もないし、モンスターが襲ってくる気配もない。


 壁には等間隔に窓代わりというように穴が空いているから周りは太陽光で照らされ明るい。視界が遮られなくて良かった。


「長いね」

「もう階段を上り始めて数十分は経っているはずなんだけどな」


 あぁ、道理で。結構体力削られているし、疲れたはずだ。

 俺はもう若くないんだぞ、体力を考えてくれよ。


 もう、なんでもいいからモンスターでもなんでも来てくれ。

 こっちは早く終わらせたいんだ。


 げんなりしながら終わりの見えない階段を進んでいると、アルカとリヒトが歩みを止め周りを見回し始めた。


「っ、気配」

「上からだね」


 え、気配? 疲労でなのか俺にはわからんのだけれど。


 集中してみるけど今の俺にはわかっ――――下から気配? 

 え、でもアルカとリヒトは上からって言っていたよな。まさか…………。


 嫌な予感が頭の中を駆け回ると同時に、上下から大量のコウモリが襲ってきた!?


「これは、集団で行動するDランクのモンスター、蝙蝠こうもりだ!!」

「名前そのまんまじゃねぇか!」

「気にしたら負けだ。ひとまず、こいつらをどうにかしないと先には進めないぞ」


 全方位から突進してくる蝙蝠。flameフレイムでなぎはらっ――――


lehrdレールド!!!」


 っ、今の声、魔法発動したのか?


 リヒトの声と同時に水の膜が俺達を守るように張られる。

 蝙蝠達はそんな膜にぶつかり、弾力性のある膜はそのまま跳ね返した。


 これは、ワイバーンを倒した時にも見た防御魔法か!!


「よくやったぞリヒト!! ここからは俺達に任せろ!!」

「うん!! 気を付けてよ、アルカ!!」

「おう!!」


 アルカが背中に背負っていた片手剣に手を伸ばし、引き抜く。

 腰を低くし、笑顔を浮かべ上から襲ってくる蝙蝠を見上げた。


「カガミヤさんは下の蝙蝠をお願いしてもいいですか?」

「おー」


 腰に付けていた魔導書に手を伸ばし、ページを捲る。そこには、何語なのかわからない文字。

 予め魔導書に魔法は印字している、準備は完璧だ。


 俺達特攻隊の準備が整った事を確認したリヒトは頷き、杖を横に振った。

 すると、俺達を守っていた膜は薄くなり、なくなった。


「行くぞカガミヤ!!」

「ほーい」


 アルカは階段の手すりを使い上に跳ぶ。剣だから近づかないと切れないもんな。

 俺はその場から動かず、右手を前に突き出しいつもの魔法。


flameフレイム


 今までは手に炎が集まり、魔力を注げば注ぐほど強くなっていた。

 今は、呟いた瞬間に炎の玉は、俺のイメージしていたバスケットボールくらいの大きさになる。薙ぎ払うように横へスライドして蝙蝠達に放った。



 ――――――――ギャァァァァァァァアアアアア



 よし、一振りしただけで終わったな。

 アルカの方は――――楽勝だな。


 アルカは空中戦もいけるらしい。

 大量の蝙蝠を足場にし、次々と蝙蝠を真っ二つにしていく。どれも一発で仕留めており、寸分の狂いもない。


 笑顔を浮かべているから余裕なのもわかる。

 今まで何回かアルカとタイマンしてきたが、決して弱い訳ではないのは知っていた。どちらかというと強い。


 自分の力を出し切る事が出来たら、アルカは普通にAランクくらいはありそう。

 ランクの基準がわからんから適当だけど、Bではないのは確か。


「ラスト一体!! 終わりだ!!!」


 見事上から剣を振り下ろし、ラスト一体を討伐。

 ふわっと、風に乗るように階段に戻ってきたアルカは余裕な笑みを俺達に向けてきた。


「楽勝だったな!!」

「うん!! カガミヤさんもお疲れ様!!」

「おー」


 このまま楽勝に終わればいいな。まぁ、Bランクなら心配いらないだろ。

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