☆3 新学期

 冬休み最終日の夜。俺は暖房をつけのんびりとぬくぬくして過ごしていた。明日から新学期でまた学校が始まる。というのに必死に課題をやってる男がいた。鰤谷ぶりたに紫苑しおんだ。

『本当に見せてくんねぇーのかよ、新汰あらた

「それぐらい自分でやれよ」

 現在、紫苑と通話中だ。晩御飯を食べ終え部屋に戻ってきたタイミングで紫苑から電話がかかってきた。内容はSOS。冬休みの課題が終わらないと答え写させてとせがんできた。俺はしっかりと年内に課題を終わらせていた。

「お前、課題は?」

『最終日にまとめて』

「だよな」見てわかる。

『新汰が見せてくれないからこれは徹夜確定だなー。チラッチラッ』

 なんだ?このとてつもなくうざい感じは。

「だいたい答え写させてもらうなら俺じゃなくても立花さんがいるだろ」

柚子ゆずはダメだった。昼間家に懇願しに行ったんだけど今年もダメだった』

「今年もって毎年やってんのか?」

『毎回だな。夏休みも冬休みも春休みも』

 立花さんも大変だな毎回毎回家まで来て懇願されるのは。

『でもなー小学生のときはあいつも最終日に片づけてた側だぜ』

「まじか」

『まじまじ、大マジ。中学から終わらせるようになった』

「いいことじゃん。お前も見習えよ」

『バカいうなよ。俺は最後まで休みを満喫するんだ』

 そろそろ真面目にやんないとマジで終わらないと言って紫苑との通話が終わった。がんばれよ、紫苑。あと七時間。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 新年一発目の登校。すなわち、新学期。登校後教室に着いた俺はまっすぐ自分の席へ向かう。六列ある机の左から三列目の前から五番目の席そこが俺の席。その右前の席には紫苑がいた。いつもはチャイム鳴っている最中に教室に来るほどギリギリに来る紫苑だが今日の紫苑は一味違うようだ。

「おはよう、紫苑。今日は早いな」

「……」

 あれ返事が返ってこないんだけど、その状態で寝てるのか死んでるのかそれとも俺に気づいてないのか。

「おーい、おーい紫苑」

「無駄よ」

 女の子の声が俺と紫苑の間に割って入ってきた。

「立花さん!」

 誰かと思えば紫苑の幼馴染の立花さんだった。

「朝早く出たかと思えば学校で残りの課題を仕上げてたみたいね。とりあえず、今日提出の物が終わったって感じかな」

 そう言われて紫苑の机の開いてある課題を覗き込んでみると確かに今日提出の課題だった。

「甘乃は課題終わった?」

「もちろん終わったよ」

「そう。やっぱり紫苑がバカなのね。起こす!」

 立花さんは新学期早々怒っていた。多分課題をちゃんと休み中に終わらせなかったからだろう。幼馴染として成長しない紫苑に腹が立ったんだと思う。立花さんは気絶気味の紫苑の耳を引っ張って無理やり紫苑を起こした。

「んあ?柚子?」

 紫苑はまだ寝ぼけている。

「お!は!よ!バカ紫苑」

「おはよう、紫苑」

 立花さんに続いて俺も紫苑に挨拶をした。

「新汰⁉」

「ここ教室だよ。記憶ないの?」

「ああそうか。俺ここに来て課題やったのか。忘れてた」

「で、課題は終わったの?」

「もちろん!今日提出の分だけ」

「残りは?」

「まだ」

 俺と立花さんはもう紫苑に呆れていた。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「お前らー座れー。HR《ホームルーム》始めるぞ」

 うちの担任の古谷先生が教室に入ってきてすぐに呼びかける。古谷先生は怒るとめんどくさいのでみんなすぐに座る。古谷はめんどくさい。これは学年共通の認識だ。ちなみに立花さんは自分の教室にすでに帰っている。

「まずは連絡事項。このあと九時半から始業式が始まる半開始だから考えて行くように。次に課題を回収する。後ろから回してこい」

 みんなは素早く教材ごとに分けて後ろから回して前に集める。

「集まったな。それじゃあ、次。転校生を紹介する」

「「「え?」」」みんなの声が漏れた。確かに一番後ろの席が増えてはいた。転校生がいるのかとクラスのみんなは騒いでいたんだが正直興味がなかった俺はその手の話はほとんど聞いてなかった。

 みんなの声が漏れてから数秒後。その転校生がドアを開けて教室に入ってきた。

 その転校生は茶髪ロングでまるであのときにあった女の子にそっくりでただただびっくりしていた。あのときみたいな髪型ではないし、着物ではなく制服を着ているためわかりづらい。

「こちらは冬島ふゆじま唯誓いちかさんだ。仲良くな」

「冬島唯誓です。よろしくお願いします」

 彼女はそう言ってクラスメイトの前で軽くお辞儀をした。

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