★2 茶髪の女
女の子の顔を見ると少し顔が赤いような気がした。寒いのだろうか。俺は着物をあまり知らないが見た目はすごい寒そうというか薄着っぽい感じがする。
「どうしましたか?」
とりあえず訊いてみた。
「あ、あの…スマホ貸してくれませんか?電話したいけど忘れちゃって」
「あ、はい。どうぞ」
脳死で彼女に自分のスマホをダイヤルキーの画面を出して渡していた。
「ありがとうございます」
彼女は俺のスマホを受け取ると卒業証書を受け取るときみたいにお辞儀をした。礼儀正しい人なんだなと思った。その後、彼女は少し離れた場所に移動し、番号を入れ誰かにかけた。
「もしもし?おねぇちゃん?ごめん、家に携帯忘れちゃって。ちょっと借りた。うん。わかった。じゃあね」
どうやら、終わったらしくこっちに戻ってきた。
「スマホ、ありがとうございました」
「いえいえ、一人で行けますか?」
「大丈夫です。それでは」
一応夜道だし落合場所までは送って行こうかと思ったけど、速攻断られた。なんか傷ついたような気がするけど、初対面なんだから良いっていう方が少数だよな普通。あ、紫苑と立花さんが来た。
「おまたせさん!で、あの子は?なんか喋ってなかった?」
紫苑に言われ振り返るとまだ見える位置にさっきの着物の女の子がいた。下駄を履いているせいで早く歩くことができないためだろう。
「ああ、なんかスマホ忘れたみたいで貸したくらいだよ」
「で?」
「でって何?」
「なんかあったろ、なんか」
溜息が出そうだ。紫苑は何かを期待して突っ込んで訊いてくる。
「特にないよ」
「ほんとか?あの子後ろ姿だけでもわかるくらいかわいい」
「かわいかったのは認めるが何もなかったよ」
「あれ?私は?紫苑のばか」
「え?
ここで俺に振るなよバカ紫苑。
「ああ。そうだよ立花さん。お、落ち着いて」
「落ち着いてるよ!」
ゴォーン!!
ゴタゴタとしょうもない言い合いしてる間に除夜の鐘が大きく鳴り響いた。謹賀新年。
俺はあっと二人の顔を見ると二人とも言い合いを止めて笑い始めた。そうそう。新年から喧嘩とか嫌だしね。でも、鳴ってることに気づいてから止めたからこの二人しょうもない喧嘩で年越したな。
「とりあえず、初詣行くか」
俺と立花さんは紫苑の提案に頷いて神社の社殿の方に歩き始めた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
お参り後、三人は帰りしに各々の願いを訊くというこれまた定番の会話していた。
「ねぇ!何お願いした?」
「そういうのってあんまり言わない方が良いんじゃないの?」
「じゃあ、言える範囲で」
「俺はやっぱり彼女が欲しいの一択だな!」
紫苑が先に立花さんの問いに答えた。それもまた喧嘩になりそうなことを願い事にしてさらにそれを言っちゃうなんてな。
「紫苑、彼女が欲しいんだー。私がなってあげようか?」
なりたいだろうが素直に言えない立花さんはイタズラめいたようで少し頬が赤くなっていた。
「いや、なんで柚子が候補になってんだよ。柚子は柚子で単なる幼馴染だし」
「バカ紫苑」
「ねぇ、甘乃は?」
「俺?俺はー、今年も健康でいられますように、かな」
「えー、
だって、言えるわけないじゃん。あの子にもう一度会いたいだなんて。言ってしまえば二度と叶わないことになりそうで。
「そういう柚子はどーなんだよ」
「私はねー、ないしょ!」
はあー、なんだよそれーなんて声が紫苑の口から漏れてるのがなんとなく聞こえてきた。まあ、確かに人に訊いておいて自分は言わんのかいってな。
そんなバカ話やしょーもない話をして俺たちはいつもの集合場所に戻ってきていた。その後はすぐに解散となった。俺はまっすぐに二人は右の方の道に帰り始めた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
年越し直前、神社の駐車場にて。
「あ、おねぇちゃん!ごめん、携帯忘れてきたうえに迷子になって」
「いいよ。
「うん。ありがとうって言って来たよ?」
「それだけ?」
「それだけ」
茶髪の着物を着た女の子からおねぇちゃんと呼ばれたその女性は妹に言葉に溜息をついた。もっと他にもお礼の仕方があったのではないかと思っていた。あのままでは凍死とかしていたかもしれないわけだから。女性は行方がわからなくなったあとかなり心配していた。自分が振袖を着ることを勧めたので尚更。
「名前は訊いたの?」
「ううん。そのまま返してきた」
手掛かりはなしかと女性は自分のスマホの画面を見た。
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