第28話 望まぬ再会
閉鎖域の訓練は面白みがないほど簡単に終わるようになり、俺たちは帰路についている。もう少し深い層に移行する時期かもしれない。
考え事をしていると前方から女騎士が走ってくる。
「どうした?」
「前方に王国旗を掲げる攻略隊が道を塞いでいます」
「確か、王子の攻略隊か?」
「はい、いかがいたしましょう。悪意のある布陣ですが」
「訳あって、塞いでいるとして俺達が対象なのか、無差別なのかは気になるな。とりあえず左方向に回避する」
「被せてきた場合には?」
「停止で、俺が前線に立つ」
女騎士は少し安堵した表情をして持ち場に戻っていく。しかし、あのぴったり貼りついた革鎧が好きなのだろうか。
若い男には目に毒なのだが。忠告したほうがいいのだろうか……。
しばらくすると先頭組が停止したので俺とフィースが前に出る。フランとエメリは現在地に待機させた。
間違いなく厄介ごとだろう。
砂漠の風が吹き荒れ、水分を奪い去っていく。俺は表皮に動きを阻害しない結界を展開させた。それは最高の難易度の魔法として知られている。
過剰防御といわれそうだが、何処から襲われるかわからず用心したまでだ。
王子が仁王立ちして、高級娼婦のように派手な女達を引き連れ待ち構えている。さてどうしたものか。蹴散らすと王家との関係に影響を及ぼす。
「殿下、お久しぶりにございます。今日は何用でしょうか?」
「お前に用はない。フランを差し出せ!」
少しお
面倒だ。
「それは本人も承知の上でしょうか? 今時、王族でも強要はできません。不満であればギルドを介して苦情を入れてください」
「はぁ? ここは閉鎖域とわかっているのかお前!」
バカなのか。逆に、お前を殺しても誰も文句を言わないということだ。
実力差もわからないのか。
「失礼ながら、先に攻撃を仕掛けられれば防戦しますし、結果として死傷者が出ても責任は負いかねます」
「うるさい出せ! 早くフランを!!」
「どうか、お引き取り下さい」
これは手を出してくるな。魔素で威嚇だけしておくか。
私は大気から魔素を取り出し身体に蓄える。そして一気に反転させた。
王子をはじめ多くの者がその場にへたり込んだ。
惨めなものである。
「有難うございます。通させていただきます。それでは失礼いたします」
俺たちは王子の攻略隊を置き去りにした。
俺は用心して魔素で縛り付けておく。これは、パラライズ、麻痺魔法の応用だ。
「フラン! ゲートで拠点に戻る。エメリは殿で奴らの監視を頼む」
フランはすばやくゲートを開き、他のグループが順番にゲートを潜る。最後のダレンのグループが帰還した後でフランと俺が帰還してエメリが残った。
エメリが余計なことをしなければいいが。
少し心配だ。
そういえばお目付け役の侯爵が居なかったな。だから暴走したのか。
フランがゲートを消し、時を同じくして、エメリがテレポートして戻ってきた。
訓練の成果が実を結んでいるようだ。
拠点に戻った俺達は反省会と称する簡単な打ち上げを開催中だ。当然であるが日中なので酒は出ないはず。と言っても好きな奴は飲むだろう。そこは見なかったことにする。
「少しいいかフラン?」
「はい、先ほどはありがとうございました」
「いやそれはいい。エメリ悪いが少し席を外してくれ」
エメリは理解したようで手を振りながら部屋を出ていった。
俺は執務室でフランから事情を聴くことにした。ギルドで王子と揉めていたことも確認する理由である。
「王子とは何か因縁でもあるのか。言いたくなければ無理強いはしない」
「はい。どこかのタイミングで相談させていただくつもりでした。申し訳ありません」
「いや、こちらこそあの事件のあとで聞くべきだった。申し訳ない」
フランは勢い良く首を振って否定する。なにか事情がありそうだ。
俺はフランをソファーに座らせて、対面の席の深く腰掛けた。なかなか決心できないのか、俯いたまま手が震えている。
「男性に話しにくいなら、フィースに頼むが?」
「いえ、お話しします」
話を聞くと王子のハーレムパーティーに勧誘されているようだ。いや情欲のはけ口として女を抱え込む色情ハーレムだな。この国は一夫多妻制ではない。王族でもそうなのだが、パーティー扱いにすれば表面上は回避できる。
誰が王子に悪知恵を植え付けたのか。
「もしかして、君や両親とか身内に何か被害はあったのか?」
「まだそこまでは、ただ最近はスキンシップがエスカレートして身に危険を感じています」
相当ひどいことをしてそうだ。王子相手では泣き寝入りするしかないだろう。
「わかった。正式に攻略隊を結成するから、フランも加入してくれ」
「もしかして、私のために?」
「いや、今こそ攻略隊を結成するときだと思った。それだけだ」
攻略隊では弱いかもしれない。あとは教会に頭を下げて庇護下に置いてもらうか、あるいは俺と養子縁組するか。どちらの方法も両親の承認が必要になる。
「王子の出方しだいでは、俺の養子になってもらうかもしれない」
「それは嫌です!」
フランはソファーから身を起こし半立ちになって強く否定する。
親子の縁は切りたくないか。
「それは戸籍上だけだから安心しろ。何も強要しない」
「いえ、そういう意味では……」
まあ、今すぐ決めることではない。
それよりも攻略隊を正式にギルド申請することが先だ。
やっとスタートラインに立てたのだ。
俺は太陽を見上げた。
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