第22話 同志
俺が昔話を話し終えると背後のギャラリーが増えていた。どうやって聞きつけたのだろう、非番の者は全員そろっているようだ。俺は穴があったら入りたいほど恥ずかしくなる。
でも、いまは
婚活女は静かに話し始めた。
「旦那様。いいえ、改め……お師匠様と呼ぶ。だから尊敬する師匠に聞く。私は勇者ではなく魔術師。それにスキルは二個。こんな私でもみんなに追いつけるの? 無理でしょ!」
「追いつくことは不可能ではない。俺を見ろ! 結果として追い越してしまった」
「それは勇者だから」
昔話に効果はなかったようだ。
前提自体が間違っていたのかもしれない。
俺は遺物による職能判定と軽視していた。しかし、判定された側から見れば現在の成績評価なのだ。その受け止め方を否定できない。
「何を目標と設定するのか冷静に考えろ。それに、理想が高すぎるように思うぞ」
「確かに勇者を抜こうとは思ってないけど、ダレンにさえ置いていかれてる」
「目標がダレンとして、お前は何をするんだ。いや何をしてきた?」
「婚活しかしてないよ!」
本当に結婚したいだけなら、こんなところに居はしない。
また、説教じみた誘導をすることになる……。
「俺は乳母に見放され捨てられた。それだけでなく、後ろを歩いていた後輩たちも俺を追い越していった。腐らなかったかといえば嘘になる。そんな落ちこぼれの俺でも興味を持てるものが見つかった。閉鎖域の生態系に惹かれたのだ」
閉鎖域の植生、生物は多種多様だった。太古に絶滅した種を含めても。
融合により生物種は爆発的に増えた。
子供の俺は夢中になる。
なぜ絶滅したのか、生き残った原因は。興味が膨らんだ。
「何かに打ち込む、熱中できる対象に出会えたとき、それが俺にとっての始まりであり転機だった」
「はぁ……」
「今思えばジョセフが攻撃魔法を禁じたのは魔素のコントロールだけでなく補助魔法をマスターさせるためだったと思っている。そもそも、閉鎖域で生活するまで俺は補助魔法を一切使えなかった。それなのに閉鎖域で生活しているうち、気づけば魔法やスキルが増えていた」
スキルや魔法は生き物だ。天性として固定されたものではない。
加護、ギフトと考えるから間違うのだ。
「閉鎖域で生活して、そして補助魔法を習得! でも補助魔法より攻撃魔法は強いです。納得できない!」
「確かに攻撃魔法は強い。それでも、俺より高度な魔法を使えたテレジアを相手にして、俺は難なく下位魔法で彼女を下している。お前に当てはまるかはわからないが、閉鎖域に慣れて魔素量を増やし、補助魔法を極めることが出発点だろう。それに自分を見失わないことも」
「他の勇者は自分を見失ったのですか?」
「今となっては判断のしようがない。だが、俺に限れば親のように慕っていた乳母に捨てられたこと、それが結果的に良かったのだろう。俺は自分の不甲斐なさを呪ったくらいで、
今となってはわからない。救いを求める眼をしたテレジアに魔法を連射するくらい余裕はなかった。確認できるようなタイミングではなかったのだ。
スティーブも壊れる寸前に何か言っていた。
もう、思い出せないが……。
婚活女は俺を見つめたままゆっくりと目を瞑った。すると結界内なのに癒しの風が吹く。俺が辺りを見回していると、意を決したのか婚活女は目を開けて話し始める。
「全く納得はできません。でも、閉鎖域で好きなものを見つけます。そのためには自衛できる補助魔法に取り組むこと、これを目標にします」
「婚活なら、好きな人の間違いでは?」
「それはもういいの! ほっといて!!」
叫び終えると真顔に戻り、何を思ったのか俺に慢心の笑顔を投げかける。俺の基準では決して可愛くない。綺麗でもないが、不思議と魅力的だった。
「迷ったときは相談に来い。いつでも話を聞いてやる。俺も落ちこぼれ、お前とは同志の関係だ」
「同志。いいですね。迷ってばかりなので、またご相談に乗ってください」
誰ともなく拍手を始めた。それは連鎖して拡がっていく。婚活女は恥ずかしそうにうつむいてしまう。
非番の女性が婚活女を取り囲み話し始める。
俺はそっとその場を離れた。
過去の話はあまりいいものじゃない。どちらかと言えばつらい思い出が多いから。初恋のテレジアのこと、あっけない師匠の最期、咎められても慕っていた乳母の狂気。他にも思い出したくないことばかりだ。
ふと思ってしまう。婚活女へのアドバイスは適切だったのだろうか。
少し不安になってきた。
何気なく空を見上げると砂丘から暗雲が湧き出してくる。嫌な兆候だ。
そして砂漠の雨なのに霧雨ときた。
あまりにも不自然すぎる。
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