第17話 全体訓練

 移動訓練を終えた俺達は帰路についていた。訓練はそれなりの成果はあったと言える。なによりも同じ攻略隊員としての絆が生まれ、一体感は増してきた。そんな変化から隊員共は浮かれ騒ぎ、お祭り気分のようだ。

 こんな状況なので親睦のため、荒野とサンクチュアリの境界域で打ち上げで労うことにした。

 俺は気乗りしないが、そんなことを言ってられない。


 今回の訓練を終えて、隊員たちの距離感は縮まり、元騎士、探索者といった壁はどうにか取っ払えたところだ。宴会といってもバーベキューパーティーみたいな軽い集まりになる。

 俺とダレンで食材の準備をして、調理は女たちに任せた。


 ふと視線を感じると、フィースが値踏みするように俺を見つめている。

 話があるのだろう。


「さっきはごめんなさい。私が火をつけたみたいね。私は召喚士のフィース。よろしくね」

「ああ、オーティク神父から聞いている。優秀な召喚士は大歓迎だ。宜しく頼む」

「それにしても貴方の攻略隊って女の子ばかりね。それも10代が多いわ。あなた少女趣味ロリコンなの?」

「いや、俺の趣味であればもっと年上だ。……おっと、釣られたな」


 フィースは笑いをこらえている。


「わかったわ、あなた熟女好きなのね」


 一瞬、睨みつけてしまう。

 こいつは男心がまるでわかってない。まあ、良し悪しは年齢だけではないが。


「まじめに返すと望んでこの形になったわけじゃない」

「なるほどね、あなたの人気なさを考慮すると新人は狙い目よね。結構策士だし悪人だわ。もし、淫らなことをしたら二度とできなくするから覚悟しておきなさい!」

「怖いことをサラッと言うな。まあ、本来であれば弱者を切り捨てるのがセオリーだろう。……それなのに、また娘を捨てる気分になり決断できなかっただけだ」


 女は失言したと気づいたのか、視線を泳がせる。

 この反応、俺はもう慣れっこだ。


「そうだったわね、貴方は実の娘さん捨てていたわね」

「捨てたか……。否定するつもりはない。だから娘の足跡を追って深層まで潜ることにした」

「あの訓示はあなた自身の決意でもあったのね」

「よくわかったな」

「元放浪司祭を舐めないでもらえるかしら。人を見る目は内勤神官より確かよ」


 召喚士で司祭になるほどだ、エリートコースで通常であればやめる理由はない。何か話せない過去があるようだ。踏み込んでみるか。


「ところで、君はなんで放浪司祭を辞めたんだ」

「仕事柄、教会の暗部を見過ぎたから。腐敗する組織に耐えられなかったのよ」

「理想や正義感が障害になるか。どこの組織も似たようなものだぞ」

「貴方に言われると言い返せないわね。王家、ギルド、教会にいいように利用された勇者様」

「みじめだろ」


 自傷気味に笑ってしまう。

 フィースは私の眼を見て優しい口調で話しはじめた。


「私は貴方の正義感や攻略スタイルは尊敬してるわ。お子さんのことは別だけど」

「冷静に分析するものだな」

「それなりに苦労してきましたからね」

「女で司祭だからな。苦労もしただろう。そういえば、教会の人造勇者やイオラのことで何か情報はあるのか?」


 フィースは一瞬であるが戸惑いの表情を浮かべた。知っていて話さないつもりのようだ。まあいい。


「私は多くは知らないわ。占い師が情報を持ってる」

「今度、占い師に会ってみるか」

「任せて、私が連れて行ってあげる」

「よろしく頼む。ところで今夜はどこに泊まるつもりだ?」

「貴方の部屋では?」


 冗談でも擦り寄ってくるなよ……。


「あまり、年長者を挑発しないことだ。部屋は空いてるから好きに使うといい」

「ありがとう。今夜からお邪魔するわね。待っていてね」


 フィースは軽くボディータッチしてきて、流し目をくれて離れていった。

 何とも話しにくい女だ。

 本当に司祭だったのだろうか。エロ経典でも説教してきそうだ。


 さて、待たせるのも悪い。打ち上げに参加するか。




 打ち上げは盛り上がり深夜まで続いた。エメリが途中で寝てしまい、連れ帰ったくらいで、特に問題は起きなかった。

 フィース、フラン、女騎士は年齢が近いから仲良くしていた。女同士の関係は難しく、いがみ合うよりは良いだろう。


 ダレンは酒に弱いのか女性に見境なく絡み始めていた。

 触り過ぎだから被害者を助けると婚活女だった。失敗である。見て見ぬふりして、やらせておけばよかった。

 予想したとおり俺は結婚女に絡みつかれてしまう、見かねたフランと女騎士が協力して排除してくれた……。


 酔いが一気にさめた瞬間である。




 翌日、俺は隊の編成について考えていた。戦闘要員は俺とエメリにフィースまでは決まった。ダレンの扱いと異世界人の加入が遅れたときの調整が課題になる。

 現在の構想では、要石アタック班は女騎士をリーダーとした騎士でグループを作成する。役割は閉鎖域を維持する要石の破壊だ。


 サポート班は数グループに分けることにした。

 補助魔法班は結界維持と魔素リジェネを担当して残りの騎士とダレンの女達でグループを組む。帰還ゲート班はフランを中心にする。他にはサブアタック班と臨時拠点の維持班などもいる。

 まだ、人数が足りない。



 閉鎖域で何をしているかといえば、仮の役割分担を決めて閉鎖域で実地訓練を繰り返している。騎士の動きが格段に良くなったのは日頃から鍛錬しているからだろう。

 女騎士の武器スキルに打撃強化があり、ワーハンマーを握らせたが、恐ろしい威力で破壊神のようだ。俺が要石を削るより早いだろう。

 本人は剣に思い入れがあるようで渋っていたが、諦めてもらうしかない。


 補助魔法班は騎士の女性二人とダレンの元パーティーメンバーで構成した。

 婚活女は別枠で新規加入の隊員とひとまとめにする。おそらく、婚活女は最終的に臨時拠点班に回すしかなさそうだ。

 課題はサブアタック班と臨時拠点班の勧誘と人選である。


 役割を決めなかった騎士と探索者はサブアタックとゲート班として訓練している。

 横に立っているフランに、今まで気になっていたことを質問する。


「フランの移動魔法は魔道具ではないのか?」

「魔法ですよ。印でなくてルーンを使って、ゲートを介して空間を繋ぎます」

「エメリの上位互換か。テレポートも可能ということか」

「はい、でもエメリちゃんと違って戦闘向きではありません。事前に到達地点をルーンに記録しますから」

「なるほど、ルーンは目視とか印よりも手間がかかるのか。ゲートは何分くらい持つんだ」


 フランは人差し指を顎に当て、首をかしげて話し出した。


「条件で異なりますが、5分くらいは維持できます」

「確か任意で消すこともできたな。人数制限もなかったと記憶してるが」

「閉鎖域でも使えますし、制限があるのは時間だけです。解除も自在ですね。リキャストが長さが欠点です」


 ギルド職員よりも普通に探査隊員になったほうが活躍できそうな技能だ。少し、気にはなるので質問してみるが、本人の意向であるから余計なことは探らないようにしよう。


「よく他の攻略隊が勧誘しなかったな……」

「身内にしか話しておりませんから誰も誘ってくれません。お誘い頂いたのはレイリー様が初めてです」

「俺も専属受付嬢くらいの認識だったから驚いたぞ」

「結果的に良かったではありませんか」

「そうだな、神は信じないが感謝するしかない」


 俺が幸運を神に感謝したのは事実だ。撤退時の不安はかなり払拭された。


 さて、落ちこぼれ組の指導を始めるか。隊員たちがどこにいるか探していると最後尾に婚活女がいた。彼女達には走る指示を出していたのだが、どうみても歩いている。フラフラしているので限界かもしれない。


 とりあえず並走して観察だな。


「おい、走れ!」

「さ、さっきから吐きそうです」

「早くいえ、無理するな」

「はいぃぃぃl」


 婚活女は頭から砂に突っ込んだ。

 どうしたものやら。


「その子乗せていくよ」

「フィースか。助かった。頼んだぞ」

「任せて」


 フィースは片手で婚活女を引きずっていく。


「見かけによらず怪力だな……」

「口は禍の元よ! ねぇ、ダーリン!」


 女は魅惑的な笑みを浮かべ、死語かと思う言葉をサラッと言い放った。


 フィースは手を振りながら去っていく。

 さて、他の連中が真面目に走ってるか確認することにする。



 他の連中は本気で走っていた。かなりやる気になっているようだ。

 いつまで耐えられるか分からないが。

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