第8話 麗 千夜子
気が付けば今年も残すところ、あと一か月を切っている。
それどころか私の高校生活はあと四ヶ月にも満たない。実際に登校する日数を考えたら精々二ヶ月程度かな。
推薦により大学を決めた私は同級生が受験勉強に勤しむ中、昔のように一人で本を読む時間が増えた。
同じく推薦入学をする珊瑚ちゃんや大学受験をしないライラちゃんと過ごす時間は増えたものの、反比例するように愛里ちゃん、一くん、進藤くん、伽藍くんとは別行動になることも多くなってしまった。
特に一くんに関しては去年の夏に告白されたのを断ってしまってから、以前ほどは話が出来なくなってしまった。三年生に上がるころには少しずつ話をするようになったが、告白される前と完全に一緒かと言われると否定せざるを得ない。
ベッドの上で仰向けになって本を読んでいたが、少し字が見づらくなってきた。年末が近づき、日が落ちるのが早い。
電気をつけるのも面倒で、そのまま夕飯までぼんやりと過ごしてしまう。
何で一くんを振ってしまったのか。
まだ一くんは私のことを好きなのか。
そもそも私は一くんのことをどう思っているのか。
私は自分のことを可愛いと思っていない。高校生になるまでそれなりにいじめられたり、男の子とまともに話などしたことがなかったし、むしろ友達もいなかった。
最低限の話をするクラスメイトはいたが、高校に上がってから一度も連絡を取っていないし、こうしている今も彼女たちの好きなもの、嫌いなものを何一つ覚えていない。
高校は家から少し遠くし、同級生が誰もいないところを選んだ。
授業のレベルは少し落ちたし、校則のない自由な校風は、大人の言うことを聞いて勉強だけしてきたような自己主張のできない私にとっては良くも悪くも刺激的だった。
高校生になったら友達が欲しいと思った。それに加えて好きな人が出来たらと夢をみていた。
だからこそ、一年生の時に珊瑚ちゃんと同じクラスになれたのが私にとってのターニングポイントだったんだと思う。
最初は金髪でたくさんピアスをしているのを見て、自分とは真逆の存在かと思って警戒してしまったが、それよりもその自信に目が眩んだ。
私が育んできた常識に、全身で反発していた。
性格がとても良いのはすぐにわかったが、とにかく見た目のインパクトは強く、私の意識を変えていくのには十分だった。
その後、愛里ちゃんも紹介してもらい、少しずつ話すようになった。
愛里ちゃんも明るくて運動神経も良くてみんなに好かれるカーストトップの人なのに、私なんかにも分け隔てなく接してくれた。
そんな二人と一緒にいれるように、自分なりにファッションやメイクを勉強し、やりすぎない程度に高校デビューを目指した。
幸い、勉強は得意だったので色んな雑誌や学校にいる人を参考にすることで、無難な仕上がりには出来たんだと思う。珊瑚ちゃんと愛里ちゃん経由で友達が出来たり、男の子と話すことも増えていった。
しかし、性根の部分を変えられる訳はなく、暗く、コミュニケーションが苦手で、誰に対しても弱腰で自己主張の苦手な人間のままだった。
だから、嫌がらせも減らなかった。
小、中学校までに受けたいじめに比べれば可愛いもので、高校生だからなのか偏差値の問題だからなのか、さほど気にするものではなかった。
それでも、よく知りもしない女子に聞こえる様に噂話をされたり、男子から気持ち悪い手紙や教えていないはずなのに連絡が来たりするのは、やっぱり嫌だったし、目の奥の部分がいつまでも重たかった。
「千夜子―。ご飯出来たよー」
親に相談なんか出来なかったし、事を大きくしたくなかったので珊瑚ちゃんや愛里ちゃんにも相談は出来なかった。
靴を隠されたり、教科書をぐちゃぐちゃにされたり、悪口を黒板に書かれたり、授業中に自分にだけ回ってこない手紙でクスクス笑われたり。
それに比べれば大したことではない。ただ、良いのか悪いのか素敵な友達が出来た私は昔に比べて脆くなってしまっていた。
「今日はビーフシチューよ。たくさん食べてね」
「やった! もうお腹減ったよー」
今までは目立たないように、気づかれないように自分を殺していたが、珊瑚ちゃんと愛里ちゃんを絶対に失いたくないと思う様になってしまった。二人は幼馴染で私が間に入れる訳もなく、二人でいた方が楽しいんじゃないかと思ったことはたくさんあるが。
それでも、画面の向こうや本の中のフィクションだと思っていた素敵な友達と一緒にいたくて自分を殺しきれなかった。
「千夜子ももうすぐ大学生ね。冬休みはまたみんなとどこかに行くの?」
「愛里ちゃんたちは受験だから遊べないよ。珊瑚ちゃんやライラちゃんとはどこか行くかも」
丁度二年ほど前、私は嫌いな男子生徒に告白をされた。
私が友達に近づきたくて高校デビューをしたことが一部の女子を刺激してしまった。地味なやつが派手な友達が出来たことで調子に乗っている、男子に媚びを売っているなど、そんなところだと思う。
女性慣れしていないであろう男子に、私がどうも気があるようだ、という嘘を教え、それに気が付かない私は慣れない男の子との会話に一生懸命になっていて、悪意や下心に全く気が付けなかった。
「デザートにプリンもあるからね」
「食べたいけど太るなー」
「まだ若いんだからちょっとぐらい平気よ。お母さんの分も出して」
不慣れなそうな距離の詰め方は私にとって不快でしかなかったし、それをあしらう術も身に着けていなかった。
今思えば、あの男の子も被害者なのかもしれない。
逆の立場になったとして、せっかく高校生になったのだから彼女が欲しいと思うのは自然なことであって、経験がなく手頃に付き合えそうな女だと思われても仕方がない。
ましてや、自分のことが好きらしい、なんてことを噂されれば積極的になるのは当たり前のことだ。
確か十二月に入った頃だったと思う。部活帰りの下校中に彼が声をかけてきた。
後ろには彼の友達らしき人が数名いて、彼を煽っていた。
何か言われる、何かされると感じた私はわざとらしく用事があるだの、行くところがあるだの言ってかわそうとしたが、気が付けば押し切られるように近くの公園に連れて行かれ告白をされた。
断った。断ったけど、上手く言えなかった。本当は金輪際話しかけて欲しくなかったし、連絡をよこさないで欲しかったけど、日を改めるということでその場は別れた。
二学期から少しずつ変われたと思い込んでいたけど、何にも変わっていなかった自分に嫌気が差すし、身に覚えのない好意を向けられるのも気持ちが悪かったし、知らない人までも私が彼を好きだと噂をしている状況に腹が立った。
寒さを忘れさせるほど悔しくて、憤りが収まらなかったのでしばらく公園で泣いていたら珊瑚ちゃんと一緒にいた見知らぬ男の子に見られてしまった。それが一くんとの出会いだった。
「暇だからって夜更かしして本を読んでばかりじゃダメよ。お父さん帰ってくる前にお風呂入っちゃいなさい」
「この番組が終わったら入るよ」
珊瑚ちゃんは何も聞かずにただ慰めてくれた。一くんも何も言わずに自動販売機で暖かいミルクティーを買ってくれた。
小さいスチール缶のそのミルクティーはプルタブが固かったことを覚えている。
私が上手く開けられなくて、珊瑚ちゃんが代わりに開けようとしてくれたけど開かなくて、結局一くんが開けてくれた。
それが何だかおかしくて、その頃には珊瑚ちゃんがいる安心感と、泣いているところを初対面の男の子に見られてしまった恥ずかしさから冷静になり、ゆっくりと帰った。
一くんはさっきの私を思わせる様にわざとらしく学校に戻ってしまった。二人で帰った方がいいと判断してくれたのだろう。満足にお礼も言えずにその日は別れてしまった。
後日、珊瑚ちゃんにお願いをし、一くんを改めて紹介してもらった。
一くんは私の存在は認識していたらしく、愛里ちゃんとも同じクラスで仲が良いということで話すようになった。
大切な友達の友達ということで、警戒心はあったものの、他の男の子よりも話していて楽しかった。
それから二年生になって、みんなと同じクラスになれたのは本当に嬉しかった。
心の底から学校が楽しいと思い始めたのは二年生になってからだと思う。
ライラちゃんや進藤くん、伽藍くんとも仲が良くなっていき、不釣り合いだとは思いながらも学年でも目立つ彼らと同じグループで行動することで、嫌がらせは徐々に減っていったし、三人のうちの誰かと付き合っているのではという噂のお陰で以前のように男子から絡まれることも随分減った。
「千夜子、いつまでお風呂入っているの。お父さんがご飯食べてる間に上がってあげて」
「はーい」
だから、二年生の夏休みに一くんから告白をされた時は正直言うとショックだった。
ああ、私は男友達が作れないのかな、と嘆いた。
一くんが良い人だっていうのは十分理解していたし、不快感は全く無かった。
しかし、その好意に応えることは出来なかったし、夏休みが明けても気まずくなってしまった。
人のせいにしているのは分かっているが、それが初めての告白であればまた違う感情にもなったのかもしれない。
その頃の私はやっと男子への警戒心も無くなり、信頼できる男友達が出来た喜びを噛み締めることに精一杯だったから。
ショックではあったものの、何だか自分の殻が破れた気がした。
吹っ切れたというか感情を表に出せる様になった。
たぶん、一くんという男友達を失ってしまった感覚があり、自棄になっていたんだと思う。
今までの私では信じられないが、文化祭で態度の悪い男性にナンパされても言い返すことが出来たし、女子特有の敵意や悪意のある視線にも舐められない様に跳ね返すことができるようになった。
それもあってか二年の修学旅行で夜中に部屋で話をしている際に、変わったよねと周りから言われて笑ってしまった。みんな思っていたけど、ストレスでも貯まっているのかとそっとしておいてくれたらしい。
今の私がいるのはあの時の一くんの告白を断ったからだろうな。もし付き合っていたら嫌われない様に自分を偽り続けていたかもしれない。
「千夜子、洗濯物を自分の部屋に持って行って!」
「はーい、私もう寝るから。おやすみなさい」
三年生に上がる頃には七人で過ごす時間も以前の様に増えていったが、受験勉強が本格的に始まり、前のようには遊べなくなり、進藤くんのバイト先に行く頻度も減ってしまった。
大人になるにあたっての通過儀礼なんだろうけれど、仲の良い友達と離れ離れになってしまうのは悲しい。こうして嫌い事ばかり考えてしまう夜は雪だるま式に切なくなってしまう。
スマホに通知が来て部屋がぼんやりと明るくなる。
ライラちゃんから明日買い物に付き合って、とのお誘いだ。
珊瑚ちゃんは用事があるようなので、二人でのお出かけだ。
ゆっくりと沈んでいた気分はライラちゃんのおかげで、急浮上はしないまでも少しずつ浮いていった。
天井を照らすスマホのライトは、まるで水面越しの太陽光のようでいつまでも眺めていられた。
ライラちゃんの買い物は一くんへのクリスマスプレゼント選びだった。
転校してきた頃は何にでも興味を持って好き勝手動き回る猫の様だったがすっかり落ち着いてしまった。とはいえ、私に比べるとまだまだ十分に明るくて元気なのだが。
「チヨコは何も買わないの?」
「え、買わないよ。だって一くんもビックリするでしょ。クリスマスも忙しいだろうし」
羨ましそうに見ていたのだろうか。確かに一くんと一緒に住んでいたり、受験勉強で忙しくても会える環境にいることを羨ましいと思ったことはあるが。でも、自分から振っておいてそんなことも出来ない。みんなで会うならいいとして、わざわざ冬休みに一人で渡すというのは不自然すぎる。
「違うよ。自分の分とか、人にあげる分とか無いのってこと」
指摘されて気が付く。何で一くんへのプレゼントだと思ったんだろう。おまけに自分の中で色々と言い訳までしてしまった。
ごめんごめん、大丈夫、と慌てて取り繕う。
ライラちゃんの視線に何故か目を背けたくなる。
「チヨコ、ハジメのこと好きなの?」
聞かれたくない質問をされてしまう。答えないでやり過ごしたい。何て返そうと頭を回転させながらライラちゃんを見ると、
「…………ライラちゃん。どっかでお茶でも飲もうか」
誤魔化してはいけない、嘘をついてはいけない、と直感で理解した。
自分のプライドのために友達を傷つけることがあってはならない。
楽しかった夢が急に覚めてしまったかのような表情で私を見ている。
人の顔色を窺って生きてきた私じゃなくても分かるよ。
ライラちゃん、一くんのこと好きでしょ?
温かいミルクティーを手に、混雑したカフェでライラちゃんと向かい合う。
話すべきことがあるから誘ったのに、何から話せばいいか分からない。
ライラちゃんはもそもそとスコーンを食べながら、カフェオレをすする。
スコーンがあまり美味しくなかったのか、カフェオレが熱かったのか、これから私に何を言われるのかが不安なのか。いつも晴れやかな笑顔だからこそ、曇っているとわかりやすい。
私から話すのを待っている。当然だ。私はまだ質問に答えていない。
どう思われてもいい。昔の私であれば、自分の意思とは別であっても人が求めていること、聞きたがっている言葉を口にしていたが、私を変えてくれた人に不義理はできない。
「私ね、一くんが好きかもしれない。でも、まだハッキリ好きかどうかはわからない」
自分から告白する気はない。だって一度断ってしまったし、そもそも自分の気持ちがよくわからない。
もう一度告白されたら受け入れるだろうな、という浅ましく嫌らしい考えがあることは自覚している。
「…………そうなんだ。受験が終わったらハジメはチヨコに告白すると思うよ」
「そんなことないでしょ。だって去年の夏に断っちゃって、少しは話すようになったとはいえ、随分話すことも無くなっちゃったし」
「ハジメは諦めないから」
まるで一くんの心を知っているかのような、確信した笑みを浮かべていた。
「…………ライラちゃんは? 一くんのこと好きそうだよ?」
「私は…………」
この子は好きか嫌いかハッキリ言うし、言い淀むことはない。
昔に比べて落ち着いてきたとはいえ、男の子にだって好きだと照れもせずに言う。
思えば、いつからだったんだろう。一くんに対してベタベタくっ付かなくなっていたように思える。
彼女の中で、友達としてではなく恋愛感情が芽生えてしまったんだろう。
まるで自分を責める様に表情が暗くなる。間を埋めるためにスコーンを口にするも、ただ噛んでいるだけにしか見えない。
一口、また一口と噛んでいる間は時間が止まっているとでも言う様に、一生懸命何を言うべきか考えている。
最後の一欠けらをゆっくりと食べ終え、少しぬるくなったカフェオレを飲み干す。
「私はハジメのこと好きかもしれない。でも、ハジメはチヨコのことが好きだから………」
「そうかな? 告白されてから一年以上経っているし、他の人を好きになっている可能性は高いよ」
静かに首を横に振る。
「ハジメはチヨコのことを諦めないよ」
絶対に諦めないから、と力無く呟く。私が知らないだけで一くんは結構情熱的なところもあるんだろうか。一緒に住んでいるライラちゃんの方が一くんの色んな表情を知っているだろうし、一概に否定はできない。
「ライラちゃんから告白はしないの?」
「しないよ。ハジメの幸せを邪魔は出来ないし。チヨコもハジメのことが好きならみんな幸せでしょ?」
「でも、ライラちゃんは幸せにはならないじゃない」
「私は今のままでも幸せだよ」
その笑顔に嘘はなかった。ただ、切なさや後悔が含まれているのも間違いなかった。
私は一くんとライラちゃんを選べない。そもそも私が選ぶ立場だと思っているのが傲慢だ。
私は卑怯者だから責任を人に押し付ける。今の私はそういう狡さも身に着けている。
「じゃあ、一くんに選んでもらおうよ。ライラちゃんのことが好きだったらそれで丸く収まるよ」
「…………チヨコはそれでいいの?」
「もちろん。だって私一度断っているし、今更付き合いたかったなんて虫が良すぎるよ。それに一くんはライラちゃんのことが好きだと思ってるし」
それは嘘ではない。決定的な何かがあった訳ではないが、きっと一くんはライラちゃんが好きだ。
思い返せば知り合った時からライラちゃんを羨ましいと思う感情があった。
すごく小さくて気が付かなかったが、一くんと一緒に暮らしていること、友達以上の親しさで接していることが、ずっと心に引っかかっているのを感じていた。
「じゃあ、そうしよっか…………。チヨコがそれで納得するなら…………」
ライラちゃんの表情は少し晴れやかになった。それは自信から来るような笑顔ではなく、自分を納得させるような笑顔に思えた。
「あ、この話ってしばらく保留でもいい? ハジメも毎日勉強していて大変そうだから。確か二月の上旬ぐらいには全部の試験が終わるようなことを言っていたから」
もちろんだよ、と答えて店を出る。
一くんのことを思うその表情は、どれだけ大切に思っているかが隠せていない。
年が明けて二月十四日。既にほとんどの人が試験を終えていたが、最後に進藤くんの試験がその日にあった。
大学受験の慰労会をしようと約束しており、進藤くんのバイト先に集まっていた。
もう結果が発表されている人もいるのと、自己採点からみんなそれぞれの進路の予想がつきつつあった。
卒業まで残すところあと一か月ほど。
ちょうどバレンタインデーということもあり、私と珊瑚ちゃんとライラちゃんの三人からチョコレートケーキをプレゼントし、四人とも喜んでくれた。
愛里ちゃんは作る側にも混じれなかったことを悔やんでいたが、一口食べるとそんなことはどうでも良さそうに味わってくれた。
本当であれば今日からずっと遊んでいたいところだが、伽藍くんの第一志望が明日結果発表になるということで、無理をせずまた明日から時間の許す限り遊ぼうと話し合い、遅くなり過ぎない時間に解散をした。
それは私がそうなる様に仕向けたところもある。
「一くん、ちょっと時間いいかな」
ライラちゃんには事前に話しておいた。この日に私は一くんにチョコを渡すことを。
十二月に二人で話してからも自分なりに色々考えた。一くんのこともライラちゃんのことも今一度見てきた上で、私は今日この日にチョコを渡そうと思う。
今更誰かに隠すものではないので、駅に向かう途中で声をかけたが、みんなも察したのか何も言わずに、また明日と声を掛け合い行ってしまう。
さすがに声をかけられるとは思っていなかったのか、一くんだけ状況が飲み込めていない顔をするも、すぐに何かを決心した様に着いてきてくれた。
ライラちゃんの顔は見られなかった。
「ごめんね、急に呼び止めちゃって」
「いや、俺は全然大丈夫だけど…………」
近くの公園のベンチに二人で腰かける。
まだまだ寒いが、こうなることは分かっていたので毛布を足に巻く。一くんにカイロを渡し準備万端だ。
「受験お疲れ様。これ、バレンタインだから…………」
鞄から包装した手作りのチョコレートを渡す。
ありがとう、と受け取ってくれてしげしげと見つめると、大事そうに鞄に仕舞ってくれた。
俺さあ、と一くんの方から口を開く。
「去年振られたんだけど、千夜子さんのことがまだ好きなんだ。しつこいかもしれないけど、もう一度告白させてほしい。俺と付き合ってください」
思ったよりも早く告白をされた。チョコを渡せば告白されるんじゃないかとは予想していたけど。素直に嬉しかった。そもそもチョコを受け取ってもらえなかったらどうしよう、という気持ちも無くはなかったから。
私は意を決して想いを伝える。
「ごめんなさい」
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