第10話 背後に気をつけな!
「……さすがに早すぎたか」
俺は約束の集合場所まで来たのだが案の定誰もいない。まあ、それも当然というか当たり前である。何故なら現在の時刻は集合時間の10時より1時間も前の9時であるからだ。
まぁ、要するに……。
「緊張しすぎてんだよなぁ」
というのも仕方ない気もする。半年間、半年間アプローチを続けてようやく勝ち取ったこのチャンス。最早、デートとは言いがたい状況ではあるがこれを逃す手はないだろう。
故に緊張しすぎてしまい家にいられず来てしまったわけだが。実際ヤバイ。マジであと1時間もあるのに落ち着かない。こんなん心臓が保たないぞ?
そんなことを考えながら集合場所の周りをグルグル回っていると突然視界が真っ暗になる。
というより誰かに後ろから塞がれた、と言う方が正しいのだろうか。とても柔らかく感触が目の辺りを支配する。
「だーれだ?」
そして後ろからそんな言葉が聞こえてくる。
この声、そしてこんなことをしそうな人物と言えば……。
「相田……さん?」
「せ、正解です!」
後ろからは少し元気な声が響き俺の視界が晴れていく。そして、俺がゆっくり振り向くと
いつもは長く伸ばしている黒く美しい髪をゴムでまとめてポニーテルにし、青の短パンに白のパーカーといった服装の相田さんが立っていた。
なんかカフェ屋のバイト用の服しか見たことがなかったから新鮮な気分だ。
心なしか足が震えてる気がするけど……あっ、これ一応言っといた方がいいか?
でもなぁ、もし勘違いだったらセクハラになりかねないし……でも震えてるし。
よし。どうにでなれ! 俺が傷つく分には構わん。
「大丈夫ですよ。とても似合ってます」
「ッッッ!!! ほ、本当ですか?」
「はい」
「で、でも割と軽めの格好というかなんというか……」
「それは今日行くのが水族館だから……ですよね? 動きやすい格好にしてくれたのは分かってます。その上で似合ってます。とは言っても相田さんはなんでも着こなしちゃいそうですけど」
「はうぅぅぅぅ」
俺がそこまで言うと相田さんが突然しゃがみ込んでしまった。
まさか……今のセクハラだったか!? すると相田さんは少し顔を隠しながらか細い声でこんなことを言ってきた。
「……南沢くんってズルい。ってよく言われるでしょ?」
「? いえ」
全く心当たる節がない俺は首を横に振る。
「嘘……だね」
「なんで信じてくれないんですか!?」
「だって実際私はズルいって思ったもん」
そう言って立ち上がるとほっぺたを膨らませる相田さん。でもそんなことを言いながらも何故か上機嫌だ。なんでだ?
そして周りの視線が俺たちに注がれてる気がする。なんでだ?
(((朝からイチャイチャしやがって、そこの男背後に気をつけな!!)))
主に男からの嫉妬の気もするが俺と相田さんはそういう関係ではないのだがな。
(((そんなの関係ねぇ。そんな可愛い女の子とデートしてるイケメンとかムカつくんだよ。とにかく背後に気をつけな!!)))
あのー、カフェ屋の奴らもそうですけどナチュラルに俺の脳内覗いてテレパシー送って来ないでもらえます? 普通に怖いんだけど。
「な、なんか視線を感じますね。なんか南沢くんと私がカップルって思われてそうですね。……私はそれでも全然構いませんが」
「「「kill you!!!!!」」」
「殺されてたまるか!」
(((ぶっ◯す)))
最早に口に出してんじゃん! テレパシー必要ない上に丸で隠してるつもりかもしれないけどkill you言ってる時点で隠してないんだよ。
あとお前らの声が大きすぎて相田さんが最後なんて言ったか聞こえなかったし。
くっそ、これ1時間しのぐのしんどい____。
「あれ? 南沢ももう来てんじゃん?」
この男達からどう生き延びようかと思考を巡らせている俺の視界に入ったのは手を振って元気に駆け出してくる野田さんであった。……なんか野田さんが死神に見えてきたな。
(((骨の髄すら残さんぞ!!!)))
ほら。殺意上がったもん。これどうんすんだよぉぉぉぉ。
*
一方その頃の美月さん
「麗華に言われたけど出来るかなぁ……うっ、やっぱり恥ずかしいし。でもデートだと普通らしいし……グググ、どうしたら」
家の中で唸ってました。
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美月さん恥ずかしがってる場合じゃない取られちゃうぞ?
次回 いざ水族館デート!!
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今日はあと1話更新予定。
では!
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