第6話

 二千花に聞いたところダンジョンに潜ったことはないとの事。俺がいるとは言えども戦闘要員一人で潜ろうとする燿がおかしいだけだ。しかしダンジョンに潜るための最低限の準備はしているとのことなのでダンジョンに向かうことにした。ただ、確認をしたら本当に最低限ですらなくダンジョンの事全く調べていないような内容だったので本当にチョロッと潜るだけだ。流石に昨日のように一部屋で終えるつもりはないが。


「うーわ……」


 対スタンピード対策のコンクリート壁内部を見た二千花が青い顔をした。まぁ、アホ見たいな数の銃口を向けられながら歩くのだから怖いのは仕方がないだろう。コレを見て怯えるどころかテンションを上げていた燿がおかしいのだ。


「全部弾込めはされてないから撃たれる心配はないよ」

「弾を入れてないんですか?」

「あ~、半装填、引き金引いただけじゃ出ないけどすぐに撃てるような状態になってるらしい。スタンピードは予兆があるからそれでも十分間に合うからね」


 平然と歩く燿の後ろを二千花が恐る恐るついていく。そんな二人を他の探索者達が怪訝な表情で見ている。二人とも小柄で童顔、ぱっと見、探索者のコスプレをした女子高生に見えるのだ。こんなところで何してるんだと思うのは当然だろう。

 妙な注目を浴びつつ二人は進み、ダンジョン前の歩哨に止められ受付に確認を取られるというハプニングを超えてダンジョンに入った。下が全く見えない階段は怖いようで二千花はずっと燿の服を掴みながら降りていた。

 下に降りた燿はメインとサブの遊底を引いてホルスターに戻すと二千花の方を見る。


「もう一度確認をしておくけど、二千花さんは今日が初めてなんだよね?」

「はい」

「僕も昨日が初めてで今日が二回目。昨日は一部屋入ってゴブリンを殺してすぐに帰ったけど、今日はもうちょっと探索をする予定」

「分かりました」


 言いながら燿は背嚢から紙を取り出す。


「知ってると思うけど、ダンジョンは降りる場所がランダム。同じ階段でも別の場所に降りる。だからまず必要なのはここが何処なのか見当をつけることね」


 燿は二千花に見えるように神を広げる。すると少し光りながら迷路のような地図を映し出した。


「これは……」

「電子ペーパー。一時期流行った紙みたいな画面のタブレット端末」

「こんなのあったんですね……今はないんですか?」

「昔ながらの堅いタイプの方が頑丈で使いやすいとみんな気付いたんだよ。おかげでかなり安く買えたね」


 今では複雑な形状の柱等に貼り付けて広告を写すぐらいにしか使われていない。機能も大分古いが地図を映し出す位なら問題ない。


「コレが第一層の地図、暫定だけどね」

「暫定、ですか」

「いつの間にか大きくなっていることがあるんだって。ダンジョン探索黎明期は今の半分以下ぐらいの広さしかなかったらしい」

「433.785」


 周りを見渡して地図と見比べていた燿に俺は座標を伝える。第一層の全体図は俺も知っている。そこから現在の位置を探し当てるのは電子生命たる俺にとっては簡単な作業だ。


「おお、ここか。ありがとう」

「なんでこの地図分断されているんですか? 未確認の場所というには少し変に見えますけど」


 二千花の言うとおり地図はバラバラに分断されているように見える。そして切り離された通路やドアに線が引かれている。


「現地で測定した通りに地図にすると通路が貫通していたり部屋が広かったり狭かったりしておかしな事になるんだよ。おそらく空間がバラバラに切り貼りされていて、ダンジョンが広くなるというのは切り貼りされた部分が通常に戻る現象じゃないかと言われている」

「不思議ですねぇ……」

「ダンジョンだからな」


 小学生のような二千花の感想に燿は苦笑いで答えた。


「そうだな……今日は上り階段の付近を探索して戻るから」

「分かりました」

「探索するエリアはこの赤い部分ね。これから出ないように」

「出るとどうなるんですか?」

「そこの上り階段が消える。地上に帰るには固定の上り階段から帰る必要がある」

「固定というのは……コレですか? 結構遠いですね……」

「そう、だから今日は赤い部分だけを探索する。OK?」

「はい」


 二千花は素直に頷き、燿も満足そうに頷く。自身の指示に素直に従ってくれるのが嬉しいのだ。今まで見た目で舐められてきたからなぁ……。


「二千花さんは陰陽術は扱えるんだよね?」

「はい。大丈夫です」


 そういうと二千花は懐から札を出した。

 陰陽術は古典魔術に分類される魔術だ。起源は併合歴四年、土御門義一と蕪木玲二という陰陽師二人が酒に酔った勢いで「魔術なんてあるんだしコレでも火が出たりして」と札を組んでみたところガチで火が出て火事になった事だ。かなり新しいにもかかわらず古典とされているのは神秘を術の基礎としているからだ。燿の扱う現代魔術は科学知識を元に術を組んでいる。


「基本的に俺が化け物を倒すけど、二千花さんにも倒して貰うから」

「……はい」

「治癒術士だから基本攻撃する事はないけど、攻撃し慣れないといざという時危ないからね」


 二千花は立ち振る舞いや言動から真っ当に教育を受けているのがよく分かる。そういう者は生き物に危害を加えることに躊躇いを覚える。日常生活ならともかく、ダンジョン内でそれだと命に関わる。自分だけならともかく、味方の命まで危険に晒すのだ。だから躊躇いなく殺せるようになってもらわねばならない。

 あ、そうだ。聞いておくか。


「二千花、金はどれぐらい持っているんだ? 所持金じゃなくて貯蓄な」

「え? そうですね……軽自動車を買えるぐらいはありますけど」

「んじゃ、今日の帰りにそれで銃を買う。引き金引くだけで攻撃できるから万が一の時の為に持っておけ。探索者をつづけるつもりならな」

「銃……」


 二千花はこくりと唾を飲んだ。今更自分の立場に気付いたかのように極度に緊張している。これは危ないな……燿が解せればいいんだが、人間不信なだけにその辺りは苦手な奴だ。俺が一肌脱ぐか。


「二千花はどうしてクランに入らなかったんだ?」

「クラン、とは何でしょうか?」

「……探索者目指してて何故わからんのだ」

「すいません……ダンジョン内部の宗教シンボルの話を聞いたらいてもたってもいられなくて勢いで……」


 二千花は恥ずかしそうに俯いた。ダークエルフにしては真面かと思っていたが違った、こいつはダークエルフでもヤベェ奴だ。ユスネアロで度々災厄を引き起こしてきたマッド系ダークエルフの臭いがする。一般的なダークエルフなら興奮してても探索者について調べるぐらいの理性は残すはずだ。


「クランっていうのは大きなパーティーみたいな物だね。事務方まで含めると百人超えるようなクランもあるよ」

「新人はクランに所属するっていうのが最近の流行だな」

「へぇ……稲継さんはなんで入らなかったんですか?」

「クランはねぇ……決まり事が多くて面倒だからかな。クランは大勢を養わなきゃ行けないから儲け優先になるからね。それに、自分の力でどこまでいけるかやってみたいし。二千花さんみたいな目的なら個人か小さいパーティーがやりやすいと思うよ」

「なるほど……そうかもしれないですね」


 二千花は感心したように頷いている。燿は色々言ったが、クランに入らなかった主な理由は人間不信だ。大勢の輪に加わりたくなかっただけだ。


「それじゃ、そろそろ行こうか」

「はい」


 燿は電子ペーパーを仕舞うと銃を下に向けながら歩き出した。二千花はやや緊張した面持ちで燿の後に続いた。


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配信しながら執筆してます。生配信に来ていただければ質問等に答えます。

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