第2話
遊具がたくさんある大きな公園で、みんな楽しそうに遊んでいるのに、わたしはちっとも楽しくない。ママは陽介に付きっきり。さっき陽介がママを引っ張って、林の奥に行ったっきり戻ってこないから、私は1人で遊んでる。
陽介だって、時々は遊具で遊ぶ。だけど今日は人が多いから、人の来ない林の奥で木の枝や小石を拾ったり、木の根方を掘ったりして遊ぶことにしたらしい。1人で大人しく遊んでいるうちは、ママもほっとしてると思う。だけどどこで気が変わって、遊具に並んでる子の間に割り込んで行くか分からない。だからママは、いつも陽介から目を離さない。
陽介が一緒の時、わたしはいつも1人で遊ぶ。1人で遊んでいると、時々、知らない子が「いっしょに遊ぼう」て、言ってくれる時があるから。
1人で遊びながら声をかけてもらえるのを待ってるけど、みんなお父さんやお母さんと一緒に遊んでるから、声をかけてくれる子はいないみたいだ。
「ひなちゃん! ひなちゃん!」
ブランコをこいでいると、大声でママに呼ばれた。声の方を見ると、ママが私を手招きして呼んでいた。
「どうしたの? ママ」
ブランコを飛び降りて、急いでママの側にかけ寄った。陽介に何かあったのかと思ったけど、陽介は熱心に穴を掘っていた。
「ママね、おトイレに行きたいの。ちょっとだけ、陽介を見てあげてくれない?」
「えーっ!」
叫んだ後にはっとして口を押さえたけど、遅かった。ママは困ったような顔をして「ごめんね。楽しく遊んでたのに……」と言った。
わたしは顔の前で手を振って、明るく元気な声で言う。
「トイレじゃ仕方ないよね! いいよいいよ、行っといでよ! 私、もうすぐ4年生になるんだよ! 少しくらい、陽介のめんどうも見られるよ!」
本当は、陽介のめんどうなんか見たくない。でも正直な気持ちを言ったら、ママは困ってしまって、悲しそうな顔をするに決まってる。わたしは、ママに悲しそうな顔をして欲しくない。
ママは私の返事を聞くとほっとした顔になって「すぐ戻るから。いつもごめんね」と言って、トイレへ走っていった。
ママはいつも、謝ってばかりいる。周りの人だけじゃない、わたしにも謝ってばかりいる。
悪いのはママじゃなくて、陽介なのに……
ママに謝られるたびに悲しくなって、ますます陽介が嫌いになった。
ママがトイレに行っても、陽介は変わらず穴を掘っていた。何が楽しいのか分からないけど、それはかなりの深さになっていた。
ふと見ると、さっきわたしが乗っていたブランコには、小さい女の子が乗っていた。女の子はお母さんに背中を押してもらって、とても楽しそうに笑ってる。
「陽介なんか、いなければいいのに」
ぽつりと今日もつぶやいた。
陽介には、常に誰かが付いている。外はもちろん、家の中でも誰かがずっと見守っている。わたしは、いつもほったらかし。陽介がいるから、お姉ちゃんだから仕方がない。
「陽菜乃は、本当にしっかりしているね」
「陽菜乃は、1人で大丈夫よね?」
よくそう言われる。最初に言われたのは、いつかな? 覚えてない。
小学校に上がってからは、先生にも「しっかりしてるね」「えらいね」と、言われるようになった。先生が褒めてくれてるのは分かるけど、ちっとも嬉しくない。
「もう2年生だし、1人で行けるよね?」
初めてのおつかいは、おばあちゃんの家の近くのスーパーだった。少し怖くてどきどきしたけど、言われた物をちゃんと買って帰れた時は、すごく誇らしかった。
「さすがね、ひなちゃん。賢いねー」
「ひなちゃんは、しっかりしてるねー」
おばあちゃんはたくさん褒めてくれるけど、一緒に遊んでくれない。陽介の側に付いていないといけないから。
陽介のよく分からない遊びにはにこにこ付き合って、陽介が物を散らかしたら「散らかしちゃダメよ」て優しく言うだけで、絶対に怒らない。わたしが同じことをしたら、優しいおばあちゃんもきっと怒るだろう。
おばあちゃんはきっと、陽介だけが可愛いんだ。
「陽介なんか、いなくなればいいのに」
あんな風に、ママに背中を押してもらってブランコに乗れる。滑り台だって、スライダーだって、ママと一緒に滑られる。ママが謝ることも、きっとなくなる。
おばあちゃんだって、わたしと遊んでくれるかもしれない。もっとわたしの話を、聞いてくれるかもしれない。おつかいだって、きっと一緒に行ってくれる。
陽介がいなければ……
陽介がいなければ……
陽介がいなければ……
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