わたしの弟

OKAKI

第1話

 わたしには、2つ下の弟がいる。わたしはこの弟、陽介が嫌いだ。


「ひなちゃんのおとうとって、3さいなのにしゃべんないね」

 最初にそう言ったのは、仲良しの花梨ちゃん。花梨ちゃんには、3つ下の妹がいる。陽介より1つ下なのに、たくさんしゃべってかわいいって、いつも言っていた。


「ようすけくんって、赤ちゃんみたいになくんだね」

「ようすけくん、すごい声でさけんでたよ。見えないけど、声、すごい聞こえたー」

「ひなちゃんの弟って、へんだよね」

 友達にそう言われるたび、恥ずかしくなった。


 6才になっても、陽介はしゃべらなかった。なのに、泣き声はすごく大きい。突然、大声で叫ぶ時もある。6才なのに、陽介は赤ちゃんみたいだった。

 陽介が大声を出すと、みんなすごく困った。ママは陽介を落ち着かせようとしてかかりっきりになって、パパは周りの人にぺこぺこ謝った。

 悪いのは陽介なのに。パパもママも、何も悪いことしてないのに……

 だからわたしは、陽介が大嫌いだ。




「陽菜乃、ごめんね。陽介と3人になっちゃって」

「いいよ。しかたないし」

 今日は、陽介をおばあちゃんに預かってもらって、ママと2人で遊びに行く約束だった。だけど昨日の夜、おばあちゃんから電話がかかってきて、足を捻ってしばらく陽介を預かれないと言われた。

 陽介は、少しの間も目を離すことができない。気になるものを見付けると、ふらふら追いかけて行ってしまうから、誰かが付いていないといけない。足を捻ったおばあちゃんが陽介を預かれないことは、わたしにも分かる。だから今日、陽介も一緒に行くことになったのも、仕方ないと分かってる。


「今日は機嫌いいみたいだから、陽菜乃もいっぱい遊んでね」

 車の後部座席の隣に座る陽介は、お気に入りの車のおもちゃを窓枠に走らせて遊んでいる。ママが言うように、今日は機嫌が良さそうだ。

 このままずっと、1人で大人しく遊んでくれてたらいいのに……

 今日は、すごく天気がいい。公園には、きっとたくさん人がいるだろう。人が多いところが苦手な陽介は、興奮して叫んでしまうかもしれない。そしてまた、ママに迷惑かけるんだ。

 大型の遊具、大きな石の滑り台、すごく長いスライダー。どれもすごく楽しくて大好きだけど、陽介が一緒だと、楽しく遊べる気がしない。

「家にいたほうが、よかった」

 口の中で小さく呟く。

 陽介を悪く言う時は、小さな声で言うようにしている。誰かが陽介を悪く言うと、パパもママもすごく悲しそうな顔をする。そんなパパやママの顔を見るのが、わたしはとても悲しい。

 だから、絶対に聞かれちゃいけない。知られちゃいけない。

 わたしが、陽介を大嫌いだってことを。

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