第8話

「お父さん、おかえりー!」


「おぉ!ティナただいま。」


家に入ると、小さな女の子が出てきた。

ラウルさんの娘さんらしい。

女の子がこちらに気づいたようで、慌ててラウルさんの後ろに隠れる。


「誰?お客さん?お父さん今日はお店やってないんじゃないの?」


女の子は人見知りのようで、明らかに僕たちのことを警戒している。


「ティナ、この人たちはお父さんの命の恩人なんだ。だからそんなに警戒しないでいいんだぞ。」


「聞き捨てならないことが聞こえたけれど、まずはお客さんをそんなところに立たせてないで、早く部屋に案内しなさい、ラウル。」


「セシル!?動いても平気なのか!?」


突然、現れたのはラウルさんの奥さんだった。

薬草をラウルさんが取りに行っていたのは奥さんのためだったのか。


「今は平気よ。それよりほら、案内してきなさい。あ、お二人ともこれからご飯を作ろうと思うのだけれど、苦手なものとかはないかしら?」


どうやら、晩御飯をご馳走してくれるようだ。

至れり尽くせりっていうのは、こういうことなのかな。


「僕は特にないです!アメジスさんは大丈夫?」


「あぁ、問題ない。」


「そう。じゃあ出来上がったら呼びに行くわね。あなた、あとのことは任せたわよ。」


「わ、わかったよ、セシル。ティナはお母さんの手伝いをしてやってくれ。サフィニア、アメジスじゃあ行こうか。」


ラウルさんについていき、二階に上がっていく。

一番角の部屋に案内されると、かなり広かった。

でもあれ?ダブルベッド?


「お前さんたちあれだろ、恋人。だから一緒の部屋にしておいたぜ。じゃあ晩飯ができるまでゆっくりしてろよ。」


そのまま出ていってしまった。


ダ、タブルベットってなんだか....。

い、いや別に僕たちいつも一緒に寝てる訳だし!?


「ア、アメジスさんそれにしてもいい部屋だね!」


緊張を誤魔化すためにアメジスさんに話しかける。

だが、


「..............。」


アメジスさんは何か考え事でもしているのか、反応がない。


「....アメジスさん?」


呼びかけてみると、ハッとした表情をした後にこちらに顔を向けた。


「無視してしまったようですまない。」


「大丈夫だよ。でもどうしたの?そんな考え込んで。今日もいつもより全然喋ってなかったし。もしかして、ラウルさんのこと苦手とか?」


「いや、あれ個人にそこまで興味はないんだが..。そうだな。サフィニア、私は人間が嫌いだ。」


「え....。」


人間が嫌い?つまり......。


「僕も嫌いってこと......?」


泣きそうになりながらアメジスさんに言う。


「それはない。誤解を招く言い方をしたな。正しくは、サフィニア以外の人間が嫌いだ。」


「そっか、よかった....。嫌われてたのかと思った。」


僕アメジスさんに嫌われたら死んじゃうよ。


「嫌じゃないのか?サフィニアは人間も好きだろう。」


「全然嫌じゃないよ。それに僕もアメジスさんに酷いことする人嫌いだもん。人間が好きか嫌いかは、僕自身も人間だし正直わかんないけど。」


アメジスさんは今まで人間に奴隷にされてきたんだもんね。

そりゃ嫌いにもなるか。


「私はサフィニアと出会えてよかった。サフィニアと出会えていたかったら今頃私は...。」


最後の方はあまり聞こえなかった。

けど、


「僕もアメジスさんと会えてよかった。」


そして僕とアメジスさんは抱きしめあった。


「ふっ、僕たちなんだかいつもこうやって抱き合ってるね。でもこうやってぎゅっとしてると安心する...。」


「あぁ、そうだな。」


それにしても、アメジスさんの話を聞いてこうやってくっついていられるのが僕だけの特別だって思ったらなんだか、優越感がすごい。

こんなかっこいい人なのに僕みたいな普通の人間を愛してくれているのってとっても不思議だけど、幸せなのは間違いない。

こうやって一緒にいるだけで、ずっと幸せでいられるってなんだかいいなぁ。


「こうして触れているとわかるが、私とサフィニアは相性がかなりいいようだ。」


「相性?」


「あぁ、触れているだけなのにサフィニアの魔力を感じる。今まではわからなかったが、サフィニアが魔法を使った時から強く感じるようになった。普通ではありえないが、サフィニアの魔力には治癒効果があるようだな。魔力の回復がいつもよりずっと早い。」


「そうなんだ!じゃあ僕、ずっとアメジスさんにくっついて癒し続ける!なんてね!」


「それもいいかもな。」


「え..!」


びっくりしてアメジスさんの顔を見ると、悪戯が成功したかのような笑みを浮かべていた。

いつもと違う笑い方してるアメジスさんかっこいい..。

じゃなくて、もしかしてさっきの冗談だった!?

ちょっと残念だけどそんなとこも好き....。


「私は別に冗談にしなくてもいいぞ。」


「え、それって....!」


アメジスさんに抱き上げられると、そのままベットに下ろされる。

まさかこれって..なんてドキドキしていると、


「今は何もしない。ただこうしていてくれ。」


そして抱きしめられる。

さっきとあまり変わらないはずなどにベットの上というだけでなんだかソワソワする。

それになんだか、眠くなってくる。


「サフィニア、眠いのか。」


「うん...。」


「あと少しで呼びに来るだろうから、それまで寝ているといい。」


「うん、そうする..。ありがとう、アメジスさん。」


そのまま僕は眠りについた。

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