第5話

突然腕を引っ張られ、僕は追っ手に捕まってしまったのかと思い、逃げようと暴れるていると縛られていた手の縄が外された。


「サフィニア、落ち着け。私だ。」


「え、アメジスさん...?どうしてここに?」


僕の腕を掴んでいたのは、アメジスさんだった。


「私が屋敷に戻ったときに、サフィニアの父親がサフィニアのことを売り飛ばしたと言っているのを聞いたんだ。売り飛ばされる前に助けられず、悪い。」


「ううん、助けようとここまで来てくれたんでしょ?それに今こうやって匿ってくれてるじゃん。」


「サフィニアは優しいな。..そろそろ移動するか。こんなところではすぐに見つかってしまう。」


「そうだね。移動し....。」


「見つけたぞ!サフィニアァ!!」


声が聞こえた方を振り返ると、父がいた。

どうしてこんなに早く見つかったの!?


「勝手に逃げ出しやがって!おい!何をしている!さっさとサフィニアを捕まえろ!」


そう父が言うと、父の首飾りとアメジスさんの腕が光り出した。

アメジスさんはそのまま動かなくなってしまう。


「アメジスさん早く逃げよう!」


僕はアメジスさんを引っ張り、動かそうとする。

だが、アメジスさんビクともしない。


「ア、アメジスさん?」


すると、アメジスさんが苦しそうな顔をしながら、僕の腕を軽く掴む。


「悪い、サフィニア。今すぐ私から逃げてくれ。」


「で、でも。」


「いいから!」


「わ、わかった。」


僕はアメジスさんの腕を払い、そのままその場から逃げるために走り出す。


「何をしているんだ!私は捕まえろと言っているんだぞ!」


父の声に後ろを振り返ると、アメジスさんが先程より苦しそうな顔をしながら膝をついている。

もしかして、従属の魔法陣のせい?

それに抗おうとして、痛みで苦しんでるんじゃ..。

こんなことになるなら、もっとちゃんと調べて解除できるようにしとけばよかった....!



僕は路地裏を抜け、人気のない街を走る。


「おい!お前ら!見つけたぞ!」


街の人の声が聞こえる。

どうやらこちらにも見つかってしまったようだ。

こうなってしまったら逃げる場所なんてほとんどない。

一か八か国の外に出るか。

無事でいれる保証なんてないけど、街にいてもいつかは捕まる。

そうなったら、どっちにしろ殺されるだろう。

僕は覚悟を決め、門のある方へ向かった。


「きゃあああ!こっちに来ないで!!」


「待て、化け物め!」


「なんでこんなところに、あんなのがいるの!?」


悲鳴や怒声で街は混乱している。

聞こえてくる声に顔を顰めてしまうが、無視して街を通りすぎた。



僕はなんとか捕まらないで門の近くまでやってきた。

門は開いていて、近くに人もいない。

門番がいないのは驚いたが、今は都合がいい。

そのまま門を抜け、森の中に入っていく。

森の中は今のところは普通で生き物の気配もない。

それに、街の人は国の外までは追いかけて来なかった。

少し歩いたところで、体力も限界だし休憩しようとしたところで、後ろでドォンと音がした。

振り返ってみると、そこにはアメジスさんがいた。

まさかこんなに早く追いつくなんて....!

離れた時と同じく、苦しそうな顔をしながら近づいてくる。


僕は森の木を使いながら捕まらないように走る。

体力はもうほとんど残っていないが、今、アメジスさんに捕まるときっとアメジスさんが悲しむから絶対に捕まることはできない。


しばらく走っていると、後ろからアメジスさんが追いかけて来ていないことに気づいた。

きっと視界が悪いおかげでまけたのだろう。

少し安心していると後ろからカサッという音が聞こえた。

まさかもうアメジスさんに見つかったのか....?

と思い見てみると、狼のような見た目に頭から角が生えた生物がそこにいた。

もしかして、魔物!?

今の僕は丸腰で、攻撃できるものなんて持っていない。

逃げるしかない!


静かに立ち上がり、魔物とは逆方向に走る。

すると、魔物が僕を追いかけてきた。

しかも、一匹だけかと思ったが、五.六匹いるようだ。

魔物は足が早く、このままでは追いつかれてしまう。

どうしよう!と思ったときに魔物の一匹が僕目掛けて飛びついてきた。

捕まる......!


「サフィニア!」


アメジスさんが僕の目の前に飛び出してくる。

そしてそのまま魔物に噛みつかれてしまった。

アメジスさんは噛みついた魔物を自身から剥がし、放り投げる。

そして、周りの魔物を一斉に炎属性の魔法で燃やし殺してしまった。

アメジスさんはそのまま膝をつく。

僕はそれを見て、慌てて駆け寄った。


「アメジスさん!僕のせいで..!」


血が全然止まらない。

どうしたらいいだ。

アメジスさんの顔色がどんどん悪くなってる。


「アメジスさん死なないで!死なないで!」


「そんなに泣くな...。サフィニア。私はそう簡単には死なない。」


「そんな状態で言われても説得力なんてないよ!絶対死なせない!僕はアメジスさんを死なせないから........!」


すると、僕のポケットが光った。

何かと思いポケットを見ると、魔道具屋で見つけたパールだった。

これがどんなものかはわからない。

けれど何故かこれでアメジスさんを助けられると思った。


「サフィニア....?」


「アメジスさん。アメジスさんは僕が治すから。」


僕はアメジスさんにキスをした。

パールが先程以上に光り出し、そして。

パリンッという音とともに、周りが白に染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る