第25話 とある前世
丘の上に魔女の家と呼ばれる家がありました。
魔女と言われる彼女は自然と共に生き、気候や薬草の知識占星術や心理学に長け、その知識を村人に還元し慎ましくも幸せに暮らしていました。
彼女の美しく凛とした佇まい、驕り高ぶらず誰に対しても平等に接する姿にみな羨望の眼差しを向けていました。
今日もいつものようにレオが彼女の家を訪ねます。
《よお!魔女さん今日も今日とて薬草と睨めっこかよ》
「また邪魔しに来たの?本当暇なのね」
《変わり者のお前が寂しいと思って来てやってるんだよ》
「そう?別に頼んでませんけど?」
《本当に可愛くないやつだな、そんな事だと嫁の貰い手はないな》
「いいよ、だって私結婚する気ないもの」
《そんな事言ってられるのも今のうちだぞ》
「はいはい、ちょっと手伝ってくれる?」
《しょうがねぇな》
ペネロペは羨望の眼差しを向けられる一方、あまりにも異質な存在だったので人々は色々な感情を掻き立てられました。
それも相まって一目置かれる存在でした。
さて、この何気ない日常はある日を境に一瞬にして崩れ去りました。
『『丘の上には魔女がいる』』
裁判にかけられた時点で誰もが彼女の死刑を確信しました。
背筋を伸ばし、意志のある瞳をぶらさずにペネロペは大衆の前に登場しました。
磔にされ、大衆に晒され、罵詈雑言を浴びた彼女は狂気とカオスの世界の主役でした。
辺りはお祭り騒ぎで今までペネロペと共存していた村人達が掌を返し下世話な笑い声が響き渡っています。
炎が燃え盛り、皮膚の焼ける匂いが充満しています。
その頃レオはペネロペが世論の波に飲まれ、大衆心理、目に見えない大きなモヤががったナニカに殺される事実に混乱し、無力な自分に絶望しながら現実逃避をする為に酒を浴びるように飲んでいました。
ところがそれにも耐えきれずにとうとう走り出していました。
《ペネロペー!》
彼は叫びながら彼女に近づこうとしました。
次の瞬間村人が掴み掛かり身動きが取れなくなり、地面に押さえつけられました。
もがけばもがく程押さえつけられる力が強くなり、その無力さに涙が溢れました。
ペネロペはレオを真っ直ぐ直視し、次に天を仰ぎ笑いました。
炎に照らされたペネロペの顔はとても美しく、とても恐ろしかったのです。
レオは囚われました。
時間はあの瞬間から動いてないのです。
真っ白なキャンパスに向き合った時だけが唯一彼女の存在を感じられるのです。
彼は何枚も何枚も描き続けました。
修行僧のようにも見えたでしょうし、だんだんだんだん無心になっていくのです瞑想しているように。
彼の心を入れていく作業は一生を通して続きました。
自分を罰する為に、ペネロペを描く以外の時間は荒んでいました。
自分に対するネグレクトなのです。
酒に飲まれ身体を壊し、それでも飲むのです。
彼にとっては今死ぬことの方が簡単でした。
しかし自分を痛めつけることとペネロペを描き続けることだけが彼の生きている理由でした。
彼は気付きました。
ペネロペはこの状況も全て予感して笑ったのだと。
あの笑顔は攻撃性を孕んでいたのだと。
ペネロペはレオの生きている[今][この世界]に対して牙を剥いたのだ。
彼女の形の良い唇から覗いた犬歯は今までに無いくらい殺気を帯びていた。
くだらない悲劇に対しての怒りの表明だったのかも知れない。
今となってはもう誰も答え合わせはできない。
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