第19話
浜辺で寝転がった
蠍が言う
今触れただけで君は死ぬ。
私が構わないと言ったら
蠍が君の人生はそんなにあっさり手放せる程度の価値なのかと言ってきた。
私は笑った。
蠍は理解できないと言った顔をした。
しばらくそうしていると聞き覚えのある声がぼんやり聞こえた。
声の主をしっかり認識した瞬間はっきりと声が聞こえた。
《ヤッホー!調子はどう?》
「ジーザス」
《そんなにカッカしないで。》
「本当に最高ですね。」
《全部あなたへのギフトなのよ。》
「そんなにしゅんとした顔しないでください。
わかりました。ありがとう。」
《あらー、やけに素直になったじゃない。
そっちの方が可愛いわね。》
「茶化さないでください。
そもそも、なんであなた様じゃなくて私なんですか?」
《私じゃあ意味がないのよ。》
「どう言うことですか?」
《そのまんまよ。
完璧ならばあえて何もする必要がない。
無と一緒よ。だからあなたなの。》
「じゃあ私は有をやるって事ですね。」
《もう時間よ。have a nice trip!》
全てが霧に包まれて、独特な気配が漂ってきた。
「さっきはやけに大人しかったじゃない。」
『私の出る幕じゃなかったでしょう。』
蠍が囁いた。
霧が晴れると、多種多様な植物が生い茂り
膨大な大木が鎮座している。
その時一本の大木が横たわった。
次の瞬間大木の中から、異形の何かがあらわれた。
咄嗟に体が強張り、畏敬の念を抱いた。
静寂の中私は待った。
言葉が出てこないのだ。
先程の奇妙な現象を脳がうまく処理してくれない。
するとそれすら当たり前のように
脳に直接木霊する。
ずっと私はここにいた。
お前もそうだろ。
時が来たからこの姿でお前に前に現れたように見えるだけで、昔からずっと変わらずいた。
ただ剥き出しになっただけ。
お前達が私達をただの木にしか見えないように、私達もお前達をただの人間にしか見えない。
優劣、善悪を付けたがるがそんなのただの誤差だろう。
私達は、最高の木や最低の木なんてそんな概念を持ち合わせていない。
思ってもみない発想だ、本当にお前達は面白い。
そして自分の正体を知りたがるね。
ところでお前は誰だ。
「私は私よ。」
そうか、それだけわかっていればいい。
蠍がここぞとばかりに喋り出す。
《しばしのお別れです。》
反応する前に左足に毒を感じた。
予期せぬ事態に呆気に取られていると、頭の中が整理され今まで感じたことのない幸福感が襲ってきた。
意識が遠のき、その場に堕ちた。
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