第18話



 影から蠍が這ってくる。

 一定の距離にいて、視野にまとわりつく。


 ネズミとヘビに出くわした。

 早足で通り過ぎる。

 

 また出くわした。

 ネズミがヘビに丸呑みにされるのを横目に通り過ぎる。

 

 まただ。そろそろうんざりしてきた。

 何かを言っている。



 まず蠍が、

 《なんて可哀想なデジャヴなんだ。こんな悲劇、ネズミがあまりにも不憫だ。》


 ネズミが言う。

 「はやくしろ」と

 ヘビが言う。

 「もうやめにしよう」と


 すごい形相をしているなと思った。

 こんなに言葉が意味をなさない瞬間、瞬間があるだろうか。


 ネズミが叫び出す

 「結局こうなる。

早く食えよ、ほらはやく。」

 

 ヘビが口を開く、

 ネズミが飛び込む。


  音がした。

 

 蠍が言う。

 《美しい。一心同体になるために同化したのだ。》


 気持ち悪いなと思った。

 この全ての羅列が。

 ほとんどどうでも良かったのだ。

 しかし、蠍に問うた。


 「鼠の自作自演では?

蛇の最後の表情はちゃんと見えていたの?」


 蠍は言う。

 《なんて事を言うんだ。

ネズミは最後まで怯えていた、しかし勇気を持ってヘビの口元に飛び込んだ。

自己犠牲の究極を見せてもらったじゃないか。》


 「自己犠牲?

私にはまるっきり逆に見えた。ネズミの筋書き通りじゃないの。」


 《そんなはずないでしょう。

おかしな事を言いますね。》


 「一回じゃ無いからね。縁ができちゃうと。

罰が悪くて素通りできないんでしょ。

本当は見たく無いのかもね、出来るなら関わりたく無いのかも。」


 《なぜそんな無慈悲な事が言えるのですか。》


 「無意識かもしれないけど、意識があるこっちとして紙一重で痛々しいんだよ。所詮騙し合いだとしても。」


 《おかしな解釈をされますね。》


 「別に何も論じる気はない。

私は早く帰りたいの。」


 《気に入りました。見届けさせてもらいましょう。》

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