第16話


      とても眠いの

 シャボンの香りと共に、異常な眠気と共にまたここにいざなわれた。


「また来ちゃった。」


《ようこそ、セルフラブの部屋へ》


「何それ?」


《いいから。何食べたい?》


「えー、グラタン。」


《デザートは?》


「プリンかモンブランがいいな。」


《それを食べ終わったら、君に話しがある。》


「なに?改まって。怖いよ。」


《どのナイトウェアにする?》


「純白のシルク」


《ベットは君の好きな天蓋付きだ。》


「ありがとう。じゃあ景色のリクエストもいい?」


《もちろん。》


「満点の星空のサバンナ。」


《かしこまりました。》


「なんでこんなに至れり尽くせりなの?」


《言っただろ?ここはセルフラブの部屋だ。》


「最高ね、ありがとう。」





《じゃあベッドに入って。俺は横に座るから。》


「じゃあ手を繋いでてくれる?」


《当たり前だろ。》


「ありがとう。そういえば話ってなんなの?」


《君の話しをしよう。》


「なんなの?あなたってちっとも誤魔化させてくれないのね。」


《君を救えるのは俺だけだからね。》


「もう好きにして。」


《じゃあ目を閉じて》



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 熱い暑い熱い暑い熱い。


 レオタードが体に張り付く。満面の笑顔も顔に貼り付いている。

 トゥシューズの音が鳴り響く、止まらない観客席には誰もいないのに。


 声が出ない。

 「楽しい」「嬉しい」「最高」「幸せ」

 違う、そんな事を言いたいんじゃない。


 言葉は滑り落ちない。

 喉が綺麗に舗装され、磨き上げられている。

 凹凸の無い単語は幾つも滑り落ちていく。


  


 巨大な鯨が追ってくる上に人が乗っている。

 私の初恋の子が。

 逃げなきゃ、今すぐに

 どっか遠くに、終わる前に

 方向なんかは分からない。

 

 


 走るごとに体が小さくなりそこにいたのは5歳の私でした。

 そのまま走り続け道が開けさらに進むと家が見えてきました。

 窓から料理をするばあちゃんが見えたのでホッとしたのを覚えています。

 

 でもおかしいですね、こんな都合の良いことが起こるでしょうか?いいんです、これは夢なのだから。


 慌ててばあちゃんにかけ寄りかくまってもらおうとした。

「ばあちゃん、助けて!」


《あんたどこの子だ?》


「私だよ。逃げてるの、助けて」


《かわいそうに、こっちにおいで》


 かくまってくれた安堵よりも、大好きなばあちゃんに私の存在を忘れられていた事がショックでした。

 怖くて悲しくて虚しくてやるせ無くて

 そこでもう一度走り出しました。


 心がだんだん冷たくなっていくのを感じました。

 込み上げてくるものが溢れ出し、小さくなった歩幅ではなかなか前に進めません。


 そうこうしているうちに扉の前に立っていました。

 ドアを開けると、家族がいてみんなで寝る準備をしていました。

 私もそこに混じって準備をしました。

 どうやら今日はみんなで一緒に寝るようです。

 おかしいなと思いました。

 でも一抹の不安より安心感が勝り眠りにつきました。


 途中で目を覚ますと、私の周りに4匹の熊が寝ていました。

 親熊二頭に小熊2匹。

 「ギャーー」

 咄嗟に叫ぶと、熊が目を覚まし近寄ってきました。何か言っています。

 恐ろしくてさらに叫びます。

 「嫌!熊がいる、助けて。こっちに来ないで!」

 小熊も目を覚まして囲まれました。

 クラクラする意識を必死で保ち、熊の言葉を聞いてみました。

 確かに家族なのです。でも熊でした。


 泣きながら怯える私に、熊たちは心配してなだめようと近づくと、更に尋常じゃない声で泣きじゃくりました。そして拒絶したのです。

 そうこうしているうちに、一頭の熊がばあちゃんを連れてやってきました。

 

   私はまた逃げ出したのです。

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