第10話
《ここにいたんですね。》
「どうだった?二つに分かれて見る姫は。」
《愚問ですね。》
「ふーん。じゃあお祝いに彼女の記憶ベスト3言ってみ。飛ばしてあげるから。」
《最高の気まぐれですね。》
「じゃあ、行ってらっしゃーい♡」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
秋の暮の頃、アパートの鍵をもらった当日。
家具も何もない。
ライフラインもまだ通ってない部屋に到着した。
私だけの空間。
その冷たい床でコートをかけて眠った。
穏やかな虚無が横たわってる。
指で喉の奥の奥、もう何も入ってない胃。
だけどそんな物じゃなくて不安を吐き出したくて嗚咽と涙が込み上げる。
入れては出すの繰り返しで、私がほしいものはこれじゃないから体が拒否する。
そんな事を続けてたら、もともと折り合いが悪かった月とも絶縁状態になって
血液の消費量が減って貧血にならなくなった。
渇きの連鎖で
ほとんどの時間心身ともに制御不能だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ここに飛んだんだ。トリッキーね。」
《ここも大事なターニングポイントですから。》
「餓鬼道と修羅道をメルヘンでコーティングしたような世界線ね。」
《彼女は俺の知らない.5の感情を教えてくれるんです。》
「なーに、遠回しな惚気言っちゃってんの。」
《そう捉えられてもおかしくないですね。》
「それで?夢に入ってきたんでしょ?」
《彼女を癒せるのは、彼女自身でもある俺だけですから。》
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
何も見えない。あー、夢か
そのまま横になって聞いてて
え?
君は美しさと醜さは同じだと思うか?
思わない。対極なものじゃないの?
いや、同じだ
どちらも剥き出しの状態で酷く目立つ
長所と短所が表裏一体なように
コンプレックスこそがアイデンティティ
を確立するための立役者の1人だ
私は醜さなんてもの欲しくない
でも確実にあるものだろ?
美しさもそうだよ。美も醜もすべて
認識してやればいい。
美しくないものなんて
私にとっては無かったことにしたい
大丈夫。
君が自分という存在を
受け入れ難い所も含めて
それでも愛そうと思えるように
子供騙しなこと言わないで
ピアノも弾いてから音が鳴るわけで
感情も例えば泣くから悲しいわけで
ワンテンポ遅れて世界に奥行きが出る
その世界を俺は君と見たいんだ
そのためにタネも仕掛けもない
魔法をかけよう
よくそんな歯の浮くようなセリフが
ツラツラ出てくるわね
こんなロマンチックな状況で
甘い言葉を言わない選択肢はないだろ?
案外みんな自分が奇異な状況にいる事に
気づかないんだよ
俺は出し惜しみなんてしない
こんなに最高のロマンスはないんだから
楽しみたいんだ
あなたって面白い人ね
そうだろ?まあみてて
私の夢の中の寝心地のすこぶる良い
緋色の極上のベットの脇に座って、
頬を撫でながら何かを呟いた所までは覚えてる。私の聴覚が触覚が。
でもそのまま私は夢の中でもまた意識が落ちた。
明くる日、とても目覚めのいい朝。
目を覚ましても私はただの私で。
でも確実に違ったのは氣の持ちよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます