第9話

 夢は鮮明に覚えてる方だ。

 昨日の例外はさておき。


 今日はシュレディンガーの猫が出てきてくれた。

 猫の目が私の目を射抜く。

 全てを悟っているような、未来の結末を全部知っているような顔をしている。

 私は扉を閉めて施錠をして、スイッチを入れた。



 扉を開けなければフィフティフィフティーで猫は生きてるし死んでる。



 日常にシュレディンガーの猫は溢れてる、なんなら私が猫なのかもしれない。

 死んでる世界線、生きてる世界線その2つを行き来しそれが想像力をさらに掻き立てる。



 パンドラの箱からあらゆる災厄が飛び出して最後に残ったものこそが「希望」


 この希望が脳みそにまとわりついて甘美な言葉を吐き、酔が回った後のような景色や、トリップした後のような風景を見せる。

 瞬間的に天国に連れて行ってくれる天使のようなふりをする。

 そのかわり時間(すなわち寿命)という対価をきっちりもらっていく。



 抗いがたい魅力的な引力で何度でも絶頂にいざなってくれる。

 また、歩み出そうとする足を躊躇させる。


 だから希望とは丁度いい距離感で付き合っている。

 たまには人生に酔いたい日もあるしね。

 でも私は自分の人生の時間を実感したい。



 結局私は施錠を外し、扉を開けた。

 この目にその光景を焼き付ける為に。

 リアルを体感する為に。


 猫の目が私の目を射抜いた。

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