ガールズトーク・ティータイム

 良く晴れた昼下がり。ティータイムにはちょうどいい陽気ね。

 私はカップとお皿を並べ、友人たちが来るのを待っていた。


「お待たせ、ナゴミさん」

「遅くなってしまって、ごめんなさいね」


 ほどなくして現れた二人の友人に、私は笑顔で答える。


「全然待ってないわよ。今日は来てくれてありがとう」


 彼女たちと会うのも久しぶりだ。

 私の言葉を聞いた二人は顔を見合わせて微笑み合う。


「ふふふ……ナゴミさんは変わってなくて安心したわ」


 そう言ったのはヒカリさんだ。彼女は口元に手を添えながら笑っている。


「そう言うあなたこそ、相変わらず綺麗じゃない」


 私が冗談っぽく返すと、彼女はまた可笑おかしそうに笑う。


「ちょっと、私を置いて話をしないでくれる?」


 そう言って割って入ってきたのがミヤビさんだ。彼女もまたヒカリさんと同じく、笑い声を上げている。


「こうして三人が集まるなんていつ以来かしら……」


「そうねぇ……もうどれだけ前になるかしら」


 私の言葉を受けて、二人が懐かしむように呟いた。


 私たちは若い頃、舞台女優として同じ劇団に所属していたことがあるのだ。始めこそライバルとして競い合っていたけれど、いつしか意気投合して、プライベートでも仲良くなった。


 それから長い時を経て、今ではすっかり大人になったけど、私たちの関係は何も変わっていない。むしろ年を重ねてからの方が仲が良いかもしれないわね。

 ちなみに、私たちはお互いを芸名で呼び合っている。本名よりこっちの方が愛着があるというか、そっちの方が親しみやすいからだ。


「ナゴミさん、そろそろ今回の本題に入ってもいいんじゃないかしら?」


 ミヤビさんが切り出したことで、私も本来の目的を思い出した。


「えぇ、そうね。二人とも、用意していたものは持ってきたかしら?」


「もちろんよ!」

「これがないと始まらないものね」


 私の問いかけに対して、二人は自信満々な様子で答えてくれた。

 彼女たちがテーブルの上に取り出したのは、それぞれ小さな箱だった。

 私も、自分の用意した箱をテーブルの上に置く。


「ふふふ……楽しみにしていたのよ!こうして自分の好きなスイーツを並べて、お茶会をする日が来ることを!」


 ヒカリさんは、そう言いながら目を輝かせている。


「そうねぇ。私も、どのお店のにしようか、ずっと迷っていたくらいだわ」


 ミヤビさんも同じ気持ちらしい。


 実はこの集まりの目的は、ただお茶会を楽しむだけではない。今日のためにそれぞれが厳選したスイーツたちを、みんなで食べ比べようというものだ。


「それじゃあ、せーので開けましょうか」


 私はそう提案すると、二人は笑顔で了承してくれた。

 そして私たちは同時に箱を開ける。


「まぁ~!なんて美味しそうなのかしら!」

「あぁ……!それ、最後まで悩んだのよねぇ……!」


 中身を見て興奮する二人。

 そんな彼女らの反応を見た私は、思わず嬉しくなって頬が緩んでしまう。

 だって、こんなにも喜んでもらえるんだもの。やっぱり自分の選んだスイーツを誰かに食べてもらう瞬間って素敵よね……。


「さっそくいただきましょう!」

「早くお皿に盛りつけなくちゃね!」


 待ちきれないといった感じで、二人はいそいそと準備を始める。

 ここは彼女たちに任せて、私はお茶の準備に取りかかろうかしら。


 私はキッチンへと向かい、ポットのお湯を確認してから茶葉を用意する。

 今日の茶葉は、このお茶会に合わせて買ってきたものだ。どんなスイーツにも合うようにブレンドされているもので、きっと満足してくれるはずよ。


「ナゴミさーん、こっちは終わったわよぉ!」


 リビングの方からヒカリさんの呼ぶ声が聞こえてきた。

 どうやら、もう準備ができたみたいね。

 私はお茶の入ったカップをお盆に乗せて、二人の元へと向かった。


◆◆◆


 そうして始まったお茶会は、想像以上に楽しいものだった。

 私たち三人はそれぞれお気に入りのスイーツを持ち寄ったわけだけど、それぞれの好みが出ていて面白いのなんのって!

 まず、ヒカリさんの持ってきたスイーツは、大きな苺が特徴的だった。


「これ、すごく大きいわねぇ!」


 私が驚くと、彼女は自慢げに胸を張って答える。


「でしょう?お店の人も、苺にはこだわったって言っていたわ」


 その言葉通り、確かにとても美味しそうだ。一口食べてみると、甘酸っぱい味が口に広がっていく。これはいくらでも食べられそうなほど、癖になりそうなお味だわ。


「酸味と甘味がちょうどいいバランスになっていて、最高だわ……!」


 私が感想を述べると、ヒカリさんはとても嬉しそうにしていた。


「この大きさのおかげで、口いっぱいに美味しさが広がるのがいいわねぇ……!」


 ミヤビさんも気に入ったようだ。

 ヒカリさんは、そんなミヤビさんの持ってきたスイーツを一口食べ、感嘆かんたんの声を上げる。


「あら、これもすっごく美味しいわ……!栗の旨味が凝縮ぎょうしゅくされていて、素晴らしいじゃない!」


 ヒカリさんの言葉に、ミヤビさんは照れくさそうに笑う。

 私も食べてみたけれど、優しい甘さが上品で、大人の味わいになっていたわ。


「いろいろなお店のを見て選んだのだけど、これが一番美味しかったのよ。自然な甘さが丁度良くて、飽きないでしょう?」


 よほど悩んで選んだのだろう。普段はおっとりしているミヤビさんだが、今日ばかりは熱が入っているように感じる。


「えぇ。本当に、美味しいわ。今まで食べた中で、一番かも……」


 私がしみじみと答えると、彼女は安心したように息をついた。

 次は、私の番ね。私は自信を持って用意したスイーツを二人に差し出す。


「ぎりぎりまで冷やしておいたから、ひんやりしていて美味しいと思うわ」


 私はそう言って、お皿に乗ったそれをテーブルに置いた。


「まぁ……!プルプルしていて可愛らしいわね」

「早くいただきましょうよ!」


 ヒカリさんとミヤビさんは、うずうずしながら私の方を見てくる。


「ふふ……慌てなくても大丈夫よ」


 私は微笑みながら、彼女らに言う。


「では早速……」

「いただきます!」


 二人は同時に口に運ぶ。


「う~ん……冷たくて、美味しいわぁ……!」

「えぇ。この食感、たまらないわね……!」


 二人は頬に手を当てながら、幸せそうにしている。

 そんな彼女たちの様子を見ながら、自分も食べてみる。


「うん……!やっぱり美味しいわね……!」


 つるりとした食感に、なめらかな喉ごし。そして、口の中に広がる優しい甘味。

 どれも絶妙なバランスが取れているからこそ、このスイーツは完成されているのだと思う。


「それにしても、このお茶!すごく飲みやすくて美味しいわ!」


 ヒカリさんが、お茶を飲みながら言った。


「そうね。私も、ついおかわりをしちゃったくらいよ」


 ミヤビさんも同意するように相槌あいづちを打つ。

 良かったわ。気に入ってくれたみたいね。

 私はホッとしつつ、彼女らに笑顔を向ける。


「そう言ってもらえて嬉しいわ。私のお気に入りのお店のものだから」


「へぇ……そうなのね」

「ナゴミさんが選ぶお店なら、間違いなさそうね」


 二人はそう言って、再びスイーツを口に運び始める。

 その後も、私たちのお茶会は続いた。スイーツを食べたり、お茶を飲んだりするたびに盛り上がる私たち。

 そこへ、小さな足音が近づいてくるのが聞こえた。


「ただいま~!……あっ!おいしそうなの食べてる!」


 そう言ってリビングに入ってきたのは、一人の女の子だった。


「あら、花ちゃん。お帰りなさい」


 私はその子に話しかける。

 彼女は私たちのところにやって来ると、キラキラした目でテーブルの上を眺めた。


「ずるい~!私も食べる!」


「ふふ……もうちょっと待っていてね。今、みんなで食べていたところなのよ」


「え~……」


 私はそう言い聞かせるが、彼女は納得できないのか頬を膨らませてしまう。

 すると、そんな彼女に気づいた二人が声を掛けた。


「花ちゃん、大きくなったわね」

「本当ねぇ。前はこんなに小さかったのに」


「えっへん!私、大きくなっちゃったもん!」


 そう言いながら、花ちゃんは小さな体で精一杯胸を張る。


「ふふふ……そうね。それじゃあ、用意しておくから手を洗ってきなさいな。そうしたら一緒に食べましょう?」


「わかった!」


 私がそう伝えると、彼女は元気よく返事をして洗面所に向かっていった。

 その後ろ姿を見送りながら、私は思わず笑ってしまう。


「ふふ……あの子もすっかりお姉さんになったわねぇ」


「そうねぇ。子どもの成長は早いものだわ」

「えぇ、本当に」


 私もヒカリさんもミヤビさんも、自然と顔が綻んでしまう。

 あんなに小さくて幼かった子が、今では一人で何でもできるほど成長したのだ。私も年を取るわけだわ……。


「花ちゃんは、どのスイーツを選ぶかしら……」


 ポツリと呟いた私の言葉に、ヒカリさんが反応する。


「やっぱり苺じゃないかしら?『光代みつよおばあちゃんの苺大福』を選ぶはずよ!」


 すると、ミヤビさんも乗っかってくる。


「いいや、違うわね。きっと、『雅子まさこおばあちゃんの栗羊羹くりようかん』を食べるはずだわ!」


 そんな二人の意見を聞いていて、私─ナゴミも黙っているわけにはいかない。


「いや、きっと『和江かずえおばあちゃんの水饅頭みずまんじゅう』よ!」


 私たちはお互いに譲らず、しばらく言い合いが続いた。

 だが、誰からともなく笑い出し、最後にはみんなで楽しく笑い合っていた。

 孫娘が戻ってきて、ガールズトークに花を咲かせるまで、あと数分――。

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