第2話
講習1日目の朝、僕ら3人がまだ眠い頭のまま指定された場所で待っていると、インストラクターのお姉さんがバンで迎えに来てくれた。30代くらいの細身の方で、話を聞いてみるとどうやらかなりの強者らしい。本州で元々普通の仕事をしていたのだが、ダイビングが好きすぎて数年前にわざわざ沖縄に移り住み、インストラクターになったとのことだった。その行動力、羨ましい限りである。
ビーチへ向かう前にまずは筆記試験があるとのことで、僕らを乗せたバンはダイビングショップへと到着した。沖縄らしく(?)防犯にはほとんど注意を払っていない作りになっており、ガラス戸を横にがらがらと開けて入ると、部屋には机のほかに酸素ボンベだとか足ひれとかが置かれていて、まさにダイビングショップと言った感じだった。壁には綺麗な海とか魚の写真が貼られていた。
僕はまず筆記試験に合格できるかどうかが心配だったのだが、それに落ちる人はほとんどいないらしく(いたら困るか)、勉強が足りていたかどうか怪しい僕らも何とか合格することが出来た。その後ウエットスーツを着てボンベを担いでみましょう、というのがあったのだが、僕はボンベの重さに驚愕することとなった。
あの酸素ボンベ、正確にはタンクというらしいのだが、何と重さが16~17㎏にもなるというのだ。普段運動不足だった僕は立ち上がろうとするとバランスを崩してよろめいた。こんな重い物を担がないと海には入れないのか…と感じたが、まあ水に入ってしまえば大丈夫か!とポジティブに考えることにした。
機材の着脱を体験した僕らは、再びお姉さんの運転するバンに乗り、近くの浅瀬へと向かった。初日から大海原へ行くのは流石に大変なので、まずは浅い所で慣れましょうね、ということである。沖縄ではあったが季節はまだ6月で、やや曇っていたせいか暑すぎもせず丁度いいくらいの気温だった。
おいっちにと簡単な体操をしてからウエットスーツを着込み、僕らはまたあの重いタンクを背負った。ここで一つトラップだったのが、海に降りるための階段がとんでもなくヌルヌルしていたことであった。恐らく長年に渡って波をかぶってきたせいであろう。普通に降りるだけでも気を付けていないと転ぶレベルなのに、ゴム足袋(正確にはフィンソックス)みたいなのをはいてタンクを担いでいる訳で、つまり転ばせるための階段と言ってもいいレベルのトラップに仕上がっていたのであった。
何とか浅瀬にたどり着き、まずは水の中に顔を沈めてタンクから息をしてみましょうね~、とお姉さんは言った。僕は言われた通りにマウスピースを噛みしめ、息を吸おうとした。その時である。
グゴッ、ごはあーっ!!!!!
僕は今までの人生で体験したことのない種類の恐怖を感じ、とっさに顔を上げてしまった。海の中で息をするということ、それは陸上とは全く勝手が違うのだ。そう、それは自由に息をするというよりは、タンクを信頼して、タンクから酸素をもらうという表現の方が近いだろう。僕はその違いにとっさに恐怖を感じてしまったのだ。
しかし僕の予想に反して、隣の二人を見ると余裕で海面に顔を付けたままだった。え、これみんな普通に出来るやつなの?と僕はそこで初めて気が付いた。お姉さんの何してんの、という表情を見てもここでつまづく人間はほぼいないようだ。
僕は諦めて、再び海面に顔を付けた。大丈夫、ただ息をするだけじゃないか。僕はタンクから一生懸命に息を吸い込んだ。しかし今度は息を吸うことに必死になろうすぎ、過呼吸になってしまった。酸素は十分に吸っているはずなのに息が苦しい。もがいているうちに顔を付ける訓練は終わり、少し深いところで実際に潜ってみることとなった。こんな状態で大丈夫とは思えなかったが、流石にここでつまづいたことはバレたくない。僕は何食わぬ顔で、お姉さんと2人と共に少し沖の方へ泳いで向かったのであった。
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