第26話 共和国軍の来襲②

 ヒロは殺意を込めて剣を振るうが、トシキには難なくかわされ続けてしまう。

 さらに老化の能力に当たらないようにしなければならないため、ヒロはミスできない状況に焦りを感じ始めていた。


「そんなナマクラで俺が斬れるっちゅうんか、えぇ!?」


「やってみなきゃわかんないだろ!!」


 そう叫んではいるが、ヒロも市販の武器で転生者の肌を斬れるとは思っていなかった。


(俺の装備は一度出したら、魔力切れになるまで途中変更ができない。それに、一度装備を解除したら魔力が満タンになるまで使えなくなる)


 そのため、『最強の装備』ではない武器でもダメージを与えられるよう、剣身で殴打してダメージを与えようと考えた。

 灰の村での修行時に、身体の奥にダメージを浸透させる打撃を仕込まれていたため、これで着々と体力を削っていこうと考えていた。


戦士装備レッドフォームだと決めきれなかった後がマズい。かといって他の二つはもっとダメだ)


 現在、ヒロには魔力の回復手段が無いため、より一層慎重にならざるを得なかった。

 少しずつダメージを与えつつ敵の能力や癖を観察し、堅実に勝利までの道筋を立てようと画策していたのだ。


「なんや、能力使わんのかい。舐められたもんやなぁ」


「まだ見せたくは無いもんでね」


「なら今度はこっちの番やな」


 トシキが両手で亜空間を練り出し、ヒロを目がけて放出する。


「ほらほら、気ぃ抜いてると老いてまうでぇ!!」


「気を抜いているのは、お前のほうだ」


 ヒロは「この能力は前方にしか飛ばせない、自分は対象に出来ない」と踏み、亜空間を避けながら一気に距離を詰め、剣身で一撃を叩き込もうとする。


「まあ、そうするしかないわなぁ」


 しかし、トシキが狙い通りと言わんばかりに、自身を含めた周囲に亜空間を広げる。

 それに剣先が触れた瞬間、武器が錆色に変わり、朽ち果てた。


「風化した!?」


「ほんじゃ、ゲームオーバーや」


「まずい!? 癒師装備グリーンフォーム!!」


 咄嗟に神官の装備を顕現させ、相手の能力をマナに変換して無力化した。

 だが変換中は攻撃が出来ず決定打にはならないため、すぐさまヒロは自分の魔力に変換したリソースを当ててから装備を解除する。


「へぇ〜、それがお前の能力か。グリーンっちゅうことは他にもありそうやなぁ」


「まあ、出したら一瞬で飛ぶだろうよ」


 ヒロは軽口を返すが、首筋を冷や汗がなぞっていた。


(すぐ解除したからマシだけど、5分ほど能力が使えないのはデカい。悟られないようにしないと、回復を待っている間にやられる!)


 ヒロにとって、人生で一番長い五分間が始まりかけていた。


 一方ジークは、サラを相手に剣戟を浴びせようとしていた。


「ハァッ!」


「剣がアタシに効くかよ!!」


 だが、彼女は能力で身体能力を向上させているため、刃が肌をなぞるのみでダメージを与えられずにいた。


「参ったな。伝説の剣なのに、全く斬れないや」


「当たり前だ! アタシの肉体は、どんな攻撃にもビクともしない。それに、テメェの攻撃も全部スローに見える!!」


「そりゃ厄介だ。さしずめ、視力も聴力も超強化されているんだろうな」


「よくわかんねえけど、そうだぜ!!」


 そう叫びながら、サラは回し蹴りをジークに喰らわせる。

 蹴られた部分の鎧は砕け、勢いよく勇者の身体は吹き飛ばされゆく。

 だが、蹴られる寸前、ジークは空に何かを投げていた。


「なら、これで終わりだね」


「あ?」


 サラが上空を見上げた先には、片手で持てるほどの球体が浮いていた。

 あえて蹴られて距離を離したジークが、周囲に向けて叫ぶ。


「みんな、目を閉じて口を開けて!!」


 それを耳に入れたヒロとサリエラ、そしてトシキは何かを察し、すぐさま目を閉じて口を開け、そして地面に伏せた。


「ハッ、何かと思えばスタングレネードか!! そんなオモチャが『究極の肉体』を持つアタシに効くわけ」


 球体が地面に触れた瞬間、龍の断末魔のような爆音と共に強烈な光が周囲に放たれた。

 余裕綽々よゆうしゃくしゃくで雑言を吐いていたサラだったが、爆弾が破裂した途端、目と耳から血を流しながら悶え始めた。

 

「アウレオラの臓器から作った、即席の閃光爆弾だよ。視力と聴力が発達してるんなら、余計に効くでしょ?」


「が、でめえ……!」


 元々ジークは、帰り際に視力や聴力の発達したモンスターに襲われたときのため、アウレオラの遺体から光を生み出す臓器を剥ぎ取り、爆弾を作っていた。

 それが偶然サラの能力と相性が良かったため、あっさりと無力化できたのだ。


「あとこれは、どっかの爺さんの受け売りでね」


 その隙に敵の腕と脚の関節を、白金色の剣で突いて破壊する。


「ぎぃいい!?」


「基礎のなっていない転生者の寿命は、短い」


「ぅえ、ぇ……」


 そのまま力を入れられない体勢で縛り上げ、サラの無力化に成功した。

 また、ジークの閃光弾により、もう一人使い物にならなくなった転生者がいた。


「フ、フレンドリーファイア……」


「いや、なんでミライも喰らってるの」


「むっ……」


 察せず喰らう方が悪いと言われたミライは、グロッキー状態で顔色を青白くしながら頬を膨らませていた。


「やりおったな、お前ら。あのガキを無力化しよるなんてな」


「やったのはジークだけどね?」


 光が収まったため目を開けたトシキが、ヒロのツッコミ受けてわざとらしく危機感を見せる。


「もうすぐあの勇者が合流してきよるなぁ。辛いわぁ、負けてまうわぁ」


「なら大人しく投降しろ。道徳があるなら、これ以上の犠牲はいけないことくらいわかるだろ」


「そうは言ってもなぁ……」


 そのまま赤髪の転生者を指差して、憎たらしげな笑みを浮かべる。


「お前、いま能力使えんやろ」


「っ、なに言ってんだ?」


「とぼけなくてもええ。あの光は防がず、それに時間稼ぎしようとしてるのが証拠や」


「根拠が薄いな。使えたらどうすんだよ」


「じゃあ試してみるか? さっさと頭数減らさないかんしなぁ!」


 老化の転生者が周囲に衝撃波を起こしながら、両腕に亜空間を具現化させる。

 そのまま全力で前方に押し出し、荒野を覆わんとするほど広い範囲の攻撃を放った。


(何だよこの範囲!?)


「オラァ!! ジジイなってまえ!!」


 ヒロが全力で走っても、範囲が広すぎて回避できそうになかった。

 装備を顕現させたくても、まだ魔力は満タンでないため使用できない。

 万事休すと腹を括りながらも、一か八かと言わんばかりに、勢いよく右へ回避行動を取った。


「ワォォ!!」


 そのとき。白い狼の鳴き声が響き渡り、体当たりでヒロの回避を後押しした。


「は、プロキアはモンスターと共存しないはずやろ!? なんでや!?」


 トシキが息を切らせながら狼狽する。

 同じく、ヒロも何故来てくれたのかと頭を巡らせる。


「そっか、閃光爆弾の光や音で……また助けられちゃったな」


「ワゥ!」


 白い狼は笑顔で尻尾を振ると、ヒロの前に躍り出て勢いよく遠吠えした。


「ウォオオオオオーー!!」


「魔力が溢れていく……!?」


 同時に、狼の身体から魔力が溢れ出す。

 そしてヒロを包み、


「いける。なんか頭に浮かんできた!」


 狼は頷き、役目は終わったと言わんばかりに戦場を離れてゆく。

 そしてヒロは目を閉じ、右の人差し指を天に突き立てた。


「イメージしろ。百発百中の弓矢で獲物を狩る、狩人の装備を!!」


 そのままゆっくりと敵に向けて下ろし、勢いよく目を開く。


「ハァアッ!!」


 身体を包む黄色の輝きが強まり、装備を形作ってゆく。

 金色の神鳥の両翼を模した弓。

 そして不死鳥をモチーフとした羽帽子とマント。

 まるで神獣の狩人と言わんばかりの装備が、ここに顕現された。


「エリーゼ風に言うなら、『狩人装備イエローフォーム』ってとこかな」


 そして腰に収納された弓矢を手に取り、キラキラとした目で見つめる。


「なるほど。この弓を使えば百発百中、みたいな?」


「なんやそれ、そんなオモチャで俺を撃ち抜くって言いたいんか?」


「当然だ」


 そう自信気な笑みを作り、


「待って違う! 弓はそうやって撃つものじゃ」


「新しい装備が出たら、だいたい勝ったも同然だからな!!」


 合流しようと駆けていたジークを無視し、自信満々に言い放った矢は。


「え、あれ?」


「おぉ?」


「あぁ……」


 光の速さで、六時の方向に弧を描きながら地面へと刺さってしまった。


「……」


 下手クソな弓に呆れた様子で、トシキが無言で距離を詰める。

 新しい装備が使い物にならない事実に困惑して顔を青くしながら、ヒロは口を開いた。


「……俺、何かやっちゃいました?」


「じゃかあしいわ、ボケェーッ!!」


「ぐわああああああーーっっ!!」


「ゲ、ゲーム脳ーーーー!!」


 ツッコミ代わりのフルスイングパンチをモロに喰らったヒロは、ジェット機のような速さで後方へと吹き飛んでいった。

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